双極症(双極性障害)で「働き続ける」には?国内研究の第一人者『加藤忠史先生』に聞く

公開日: 2026.6.26

▼この記事の対談動画はこちらからご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?v=VWtWKPyYZaU

この記事の要約

・双極症と働くをテーマに、加藤忠史先生と双極はたらくラボ編集長・松浦が対談し、リモートワークの利点と生活リズム維持の課題、無理をしない働き方の大切さが語られました。
・昇進は負担増だけでなく裁量拡大という利点もあり、挑戦して初めて見える可能性があること、そして病気の開示にとらわれない柔軟な就労支援の重要性が共有されました。
・加藤先生は診断を固定的なラベルではなく治療の手がかりと捉え、併存症も含めた総合的な評価と支援が、長く安定して働くための鍵になると強調しています。

今回のゲストはこんな人

双極症で働くヒントが見つかる、 双極はたらくラボの松浦です。

今回は、「双極症と働く」ということで、
国内の双極症研究の第一人者である加藤忠史先生をお招きして、
お話を伺っていきたいと思います。

加藤先生、よろしくお願いします。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

よろしくお願いします。

もう見ている方は皆さんご存知とは思うんですが、
改めて加藤先生から簡単に自己紹介いただいてもいいですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

はい。 順天堂大学精神医学講座で働いております、
加藤忠史と申します。

本日はよろしくお願いします。

加藤先生
加藤先生

ここオープンの時にご案内いただいたんですけれども、
ちょっと都合が合わず、今回初めて伺いました。

さっきグーグルマップで「双極」って入れたら日本に三箇所しかなかったんですよ。

双極と名前がつく場所、三箇所あるんですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうなんです。
一箇所が「双極子」という彫刻ですね。
双極性とは関係ない場所ですね。

加藤先生
加藤先生

二箇所めは、「双極スペクトラム」という場所です。
太平洋のど真ん中にあります。

ですが、「双極」と名前がついている、ちゃんとした場所は
ここ(双極はたらくチャレンジ)だけなんですよ。

ちゃんとした場所ですか!

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

双極というのがついたちゃんとした場所が
日本にここ(双極はたらくチャレンジ)しかないんですよ。
それを初めて松浦さんが作られた。

画期的だな、すごいなと思っております。

ありがとうございます。

1年前だと、ちょうどまだここはできていないんですよ。
(※撮影時2025年12月)

ここは2025年の1月開設なので。
そう考えると1年を経て加藤先生にこちらに来ていただけたのは
本当に嬉しいです。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

いやいやすみません。1年後になってしまいまして。

とんでもないです。
色々形になった部分もあるので、そこもお話できたらと思います。

加藤先生には動画にも出ていただいて、たくさんの方にぜひ、
先生のいろいろな考えやご意見を知っていただけたらいいなと思います。

松浦
松浦

そもそも加藤先生には
双極はたらくラボに一度出ていただいてるんですね。

その時はWEBのメディアの記事で
「双極症の人はそもそも働けるのか」
「向いてる仕事ってあるんでしょうか?」
という観点でインタビューさせていただきました。

それが大体2022年ですので 3、4年前ぐらいですかね。
加藤先生覚えていらっしゃいますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

はい。

あの時はコロナ禍だったので、オンラインで行わせて頂きました。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。

直接お会いできなかったのが本当に残念でした。
その時のインタビューに関しては下記にリンクを貼っておきますので、まだ見たことない方は、ぜひ見ていただきたいです。

松浦
松浦

双極性障害の方は普通に働ける? ~国内研究の第一人者(加藤忠史)に聞く「双極性障害と働く」~

今回のテーマについて

今回はさらに一歩踏み込んで、
「双極症と働く」をテーマにやっていきたいなと思います。

コロナ禍がきっかけで、以前よりリモートワークが普及してきました。

ですが、リモートワークは、双極症の方の生活リズムに対して、
メリット・デメリットの両面がある
と考えています。

松浦
松浦

私もリモートワークをしていましたが、
通勤のストレスがないことはメリットだと感じました。

しかし、仕事とプライベートが曖昧になってしまうことや、
生活リズムが乱れやすいことがデメリットに感じました。

松浦
松浦

双極症とリモートワーク

加藤先生は「双極とリモートワーク」について、
どういった形で捉えていらっしゃいますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

リモートワーク、基本的にはありがたい話ですね。
できれば山の中に住んでリモートで働くってのがベストじゃないかな、とも思います。

加藤先生
加藤先生

都会の住宅環境でリモートワークを行う場合
特に同居する複数人がそれぞれリモートワークをしている家庭では、
家庭内の葛藤が深まり、いざこざが頻発するケースもあると伺っています。

それは家だと落ち着かなくて、ということですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

(妻などから)「あんた家で仕事してるなら仕事(会社)行ってよ」
みたいな感じもあるんじゃないですかね。

双極の方でリモートワークのメリット、デメリットを挙げると、
どういった面があると思いますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

ちょっと具合の悪い時、通勤が無理な時でも、
家であれば仕事ができるケースはあるので、
そういう意味ではメリットが大きいことは間違いないですね。

ですが、弊害がないわけでもないと思います。

加藤先生
加藤先生

例えば、ずっと外に出ないと運動量が少なくなり、
光を浴びる機会が少なくなります。

社会リズム療法的※1な観点からは少しデメリットもあるとは思います。
その代わりに朝散歩すればいいのかもしれません。

※1 社会リズム療法:生活リズム(睡眠・食事・活動時間など)と対人関係のパターンを規則正しく整えることで気分の安定を目指す心理療法

なるほど。在宅の中でも工夫が必要ということですね。

私自身のコロナ禍を思い出してみると、急に人に会わなくなったことで、ちょっとうつっぽくなった時があります。

リモートワークと対人刺激との関係性については、どうお考えですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。
人に会わなくなってうつっぽくなるのは、
よほどソーシャル(社交的)な方だと思いますね。

私なんかはむしろ(人に会わない環境の方が)気楽、
思うかもしれないですね。

人に会わなくなってうつっぽくなるのは、
双極症よりかは、人のタイプによるってことなんですかね

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。
双極とはまた別の次元の話かもしれませんね。

リモートだと周囲が変化に気づきにくいこともあるかと思います。

例えば在宅勤務をしていて、
調子が悪い状態に周りが気づかないことで状態が悪化してきたり、
本人も自分の調子について相談がしづらいという弊害も聞いたりします。

そのあたりはどうですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。
正直、弊害よりは、
家で仕事ができて助かる話を多く聞きますね。

メリットの方が大きいと。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

相談できないってデメリットもあるんでしょうけれども、
その辺はよくわからないです。

出社と在宅のバランスについてのご意見も聞きたいです。
私は出社と在宅、半々ぐらいがちょうどいいと思いますが、
実際そういった声は聞きますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

ずっと在宅でいいのなら在宅のままがいいって声の方が
よく聞くような気がしますね。(笑)

あ、なるほど。(笑)

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

私自身は在宅をするような仕事ではないので、
その辺はちょっとわからないです。

そうですね。私たちのような支援をする仕事では、
コロナ禍で在宅の併用も許可された時期もありました。
ですが今は基本、出社で直接支援をする形になっていますね。

これはお仕事にもよりますね。

松浦さん
松浦さん
加藤先生
加藤先生

そうですね。

では次に、
「働き続ける」という切り口でお話を進めていこうと思います。
以前「双極の人は職に就けるのか」「復職できるのか」といったお話がありました。

今回はさらに目線を先に広げて、
「どうしたら長く働き続けられるのか」この観点から進めていきたいと思います。

松浦
松浦

私自身の経験ですが、働き始めの頃は、仕事量を調整しながら業務に慣れていく期間があります。
その後、徐々に仕事をこなせるようになると、突発的な残業や、納期前・繁忙期などによる負荷の高い時期がどうしても生じます。

そして、その反動による疲労から、
気分が落ち込んだり、うつ状態のようになってしまう
ことがあります。

このように、多忙な状況を完全に避けることの難しさを感じています。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

なるほど。

双極症で長く働くために

加藤先生から見て、長く働き続けられている方には、
何か共通する工夫がある
と感じられますか?

また、「こういった工夫があるから長く働けている」という事例
聞かれることはありますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。100%を目指しすぎないことなんでしょうね。

私がよく申し上げるのは、
「その日にできるところまでやって、残りは翌日にやればいいじゃないですか」ということです。

加藤先生
加藤先生

できない仕事を持ってくるのは、上司の問題でもあると思うんです。

自分にとって難しい仕事や苦手な仕事が、その日のうちに終わらないのは当たり前のことですし、無理せず翌日に回せばいいんです。
それを「今日中にやれ」と強く求めるのであれば、パワハラになってしまいます。

加藤先生
加藤先生

無理しないでできるところまでやる。
体を第一にすることでいいんじゃないかなと思います。

私自身、昔を振り返ると、「それでもやってしまおう」と無理をしたり、「自分ならできるのではないか」と思って、
できない仕事に取り組んでしまったことがありました。

その結果、軽躁状態になってしまった経験があります。

先生がおっしゃっているのは、そうした場面で無理に手を出さず、
いかに自分を守るかが大切
だということなのですね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

やっぱりステディ(着実)に同じペースで仕事をして、
仕事がたくさんあっても同じ時間で終えるのが一番いいんじゃないですかね。

双極症×昇進の影響

仕事を続けていく中では、
昇進やキャリアアップといった話が出てくることもあります。
以前、「昇進させてもらえない」と悩まれている患者さんのお話があったと思います。

そこで、病気のコントロールをしながら、
キャリアアップや責任と、どのように向き合っていくべきか
また昇進についてもお聞きしたいと思います。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

以前お話しした患者さんは、双極症というよりも、
診察では適応障害に近い悩みを話されている方でした。

仕事の負担が大きく、昇進についても、
あまり望んでいない
ようなお話をされていた記憶があります。

加藤先生
加藤先生

しかし、昇進してみたところ、仕事の内容が大きく変わり、
ストレスが減って楽になった
とおっしゃる方もいらっしゃいます。

昇進によって新たな視点が得られ、働きやすくなる場合もあれば、
一方で責任が重くなり、負担が増えてつらくなる場合もあるかもしれません。

もちろん、昇進には良い面ばかりではなく、状況によってさまざまな影響があると思います。

そうですね。
私の知り合いでマネージャーをしている方も、立場が上がったことで、
他の人に業務をお願いできるようになった
と話しています。
また、裁量労働制のため、結果さえ出していればよいという働き方になっているそうです。

在宅勤務の場合には、見られていない環境で適度に休息を取れるといったメリットを感じながら、うまく働けている方もいらっしゃいますね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。
現場で働いている場合には、
夜間でも仕事に呼び出されることがあります。

しかし、昇進することで夜間対応がなくなり、働き方が安定する場合もあります。

昇進しないと見えないものもありますね。

松浦
松浦

双極はたらくチャレンジの印象

改めて、
「双極はたらくチャレンジ」という場を約1年前に立ち上げました。
コンセプトは「気分の波と付き合いながら一般雇用へ」というもので、
現在ご利用いただいている方は皆さん双極症の方です。

現在は、離職や休職中の方が社会復帰を目指し、自己理解やコミュニケーション、ビジネススキルなどをトレーニングしながら、社会に戻っていくための場所となっています。

加藤先生、今回初めてお越しいただきましたが、どのような印象をお持ちになりましたか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

まず、就労移行支援事業所は数多くあると思いますが、
「双極」と名の付いたものは初めてではないでしょうか。

初めて「双極」と打ち出して始めたのが、本当に画期的なことだなと思います。

ありがとうございます。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そして現在の社会では、オープン就労とクローズ就労があります。
すなわち、病気を開示して障がい者雇用として働くオープン就労と、病気を開示せずに一般就労として働くクローズ就労です。

この二つの選択肢に二極化しており、
その中間的な選択肢が少ないことは残念に感じています。

加藤先生
加藤先生

一方で、こちらの取り組みでは「一般就労を目指す」という方針を掲げており、その点においても非常に画期的だと感じています。

ありがとうございます。
従来の就労移行支援の仕組みでは、働くことが難しい方が働けるようになることを目指し、主に障がい者雇用への就労をゴールとする施設がほとんどです。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

はい。

しかし私たちは、一般雇用を目指したいという方にもご利用いただいています。その結果として、就職時に障がい者雇用を選ばれる方もいらっしゃいます。

それぞれの方が望む働き方を尊重し、その実現をサポートする形をとっています。

松浦
松浦

双極症の方にお話を伺っていると、
「自分の能力を生かしたい一方で、気分の波に翻弄されてしまい、仕事を選べない」といった声が多くありました。

そうした課題に対して何かできないかという思いから、
この場を立ち上げた
という背景があります。

松浦
松浦

加藤先生の取り組み

ちなみに、加藤先生が現在行われている「立て直し入院」での取り組みは、どちらかというと検査が中心になるのでしょうか?

松浦さん
松浦さん
加藤先生
加藤先生

検査よりは、ディスカッションが本質ですね。
検査でデータを集めて、スタッフで話し合う流れになっています。

先生としてはこのディスカッションが本質なんですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。
もちろん、データを得るための検査がなければディスカッション自体が成り立ちませんが、検査を実施するだけではほとんど意味がないと考えています。

脳の画像検査や心理検査、神経心理検査、血液検査など、さまざまな検査結果を総合的に踏まえたうえで、それぞれの要素がどのように影響し合っているのかを改めて捉え直すこと、いわゆるケースフォーミュレーション(※2)を行うことが重要だと思います。

※2 ケースフォーミュレーション:クライエントの問題の背景や維持要因を心理学的理論に基づいて仮説としてまとめ、介入計画を立てるためのプロセス。

ドラマなどで見たことがあるのですが、スクリーンに検査結果を映し出して、複数の先生がそれを見ながら見解を述べる、といったような場面があります。
そういったイメージの取り組みと考えてよろしいでしょうか。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

もうちょっと少人数ですね。
医局全員じゃなくて担当医、心理士、私、そういったメンバーで行っています。

加藤先生のもとに検査入院で来られる方は、「自分は双極症ではないか」と疑いを持って来院されることが多いと思いますが、実際にはどの程度の割合で、双極症ではない可能性の方がいらっしゃるのでしょうか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

最新のデータは失念してしまったのですが、構造化面接の結果では、およそ2〜3割の方が双極症とは診断されないという結果になっています。

ただし、これまでの診断が誤診であったとは限らず、むしろ私たちの評価が誤っている可能性もあります。というより、精神医学においては「誤診」と単純に言い切れるものではないと考えています。

加藤先生
加藤先生

そのため、水掛け論のようになってしまい、
どちらが正しいかという明確な結論が出ないことがあります。

内科や外科であれば、最終的に病理医が顕微鏡で組織を確認し、
「こちらの診断が正しい」といった形で判断が下されることがあります。
しかし、精神医学の場合にはそのような客観的な確定手段がありません。

その意味で、単純な意味での「正解」というものを一つに定めることは難しい領域だと言えます。

なるほど。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

ですから私は、診断というのは治療を行うための一つの道具であって、
単にラベルを貼るためのものではなく、絶対的なものでもないと考えています。

そのような考え方のもとで、この診断を手がかりに治療を行い、
実際に症状が改善するかどうかを見ていくという姿勢
になります。

また、セカンドオピニオン的な視点として
評価をフィードバック
させていただく、という位置づけでもあると考えています。

なるほど。
これまでに、先生のところで検査入院を受けられた方は
どのくらいの人数になるのでしょうか。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

200人は超えたと思います。

ありがとうございます。先生のもとを受診される方の中には、発達障害、神経発達症を併発されている方もいらっしゃると思います。
また、双極症とADHDについては、どこか共通する側面もあるのではないかと言われることもあります。

松浦
松浦

先生方の中では、もちろん鑑別や区別はされていると思いますが、
併発している場合には、どのような具体的な支障が生じるのか、
また治療上どのように扱われているのかについて伺いたいです。

併発に関して、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

松浦
松浦

「後編の記事は後日公開」

読みものへの感想を送る
最後までお読みいただきありがとうございます。みなさまからの意見やご感想を随時募集しています。
こちらをクリック
感想フォーム