双極性障害患者への新型コロナウイルスの影響に関する調査〜「暮らし」と「仕事」における悩みと工夫〜【調査報告】

公開日: 2021.10.6
最終更新日: 2024.3.29

株式会社リヴァ(本社:東京都豊島区、代表:伊藤 崇)が運営するWebメディア「双極はたらくラボ」は、関西大学大学院社会学研究科の松元 圭と共同で、2021年7月5日〜7月25日の21日間、全国の双極性障害の診断を受けている方、またはその疑いがある方に対して「双極性障害患者への新型コロナウイルスの影響に関する調査〜『暮らし』と『仕事』における悩みと工夫〜」のインターネット調査を実施。

490名(双極性障害の診断を受けている方469名、双極性障害の疑いがある方21名)の有効回答の集計結果を、メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的とする10月10日の「世界メンタルヘルスデー」に合わせ2021年10月6日に公開しました。(調査者 双極はたらくラボ 編集長 松浦 秀俊 関西大学大学院社会学研究科 松元 圭)

※プレスリリースはコチラ

回答者の基本属性

全回答者(490名)

(図1 診断名)

双極性障害Ⅰ型:39名(8.0%)/双極性障害Ⅱ型:280名(57.1%)/双極性障害としか言われていない:137名(28.0%)/躁うつ病:13名(2.7%)/双極性障害の疑いあり(未診断):21名(4.3%)

(図2 年齢)

10代:2名(0.4%)/20代:96名(19.6%)/30代:177名(36.1%)/40代:156名(31.8%)/50代:50名(10.2%)/60代:9名(1.8%)

(図3 性別)

男性:115名(23.5%)/女性:369名(75.3%)/その他:6名(1.2%)

(図4 婚姻状況)

既婚:204名(41.6%)/未婚(離別・死別含む):276名(56.3%)/その他:10名(2.0%)

(図5 子どもの有無)

同居している子どもがいる:132名(26.9%)/同居していない子どもがいる:22名(4.5%)/子どもはいない:331名(67.6%)/その他:5名(1.0%)

(図6 就労状況)

就労中:258名(52.7%)/休職中(就労移行支援利用中):7名(1.4%)/休職中(就労移行支援は利用していない):39名(8.0%)/離職中(就労移行支援利用中):35名(7.1%)/離職中(就労移行支援は利用していない):105名(21.4%)/就労経験なし(就労移行支援利用中):1名(0.2%)/就労経験なし(就労移行支援は利用していない):19名(3.9%)/その他:26名(5.3%)

就労中の方(258名)の属性

【診断名】
双極性障害Ⅰ型:26名(10.1%)/双極性障害Ⅱ型:144名(55.8%)/双極性障害としか言われていない:68名(26.4%)/躁うつ病:10名(3.9%)/双極性障害の疑いあり(未診断):10 名(3.9%)
【年齢】
10代:1名(0.4%)/20代:38名(14.7%)/30代:94名(36.4%)/40代:92名(35.7%)/50代:29名(11.2%)/60代:4名(1.6%)
【性別】
男性:70 名(27.1%)/女性:185名(71.7%)/その他:3名(1.2%)
【婚姻状況】
既婚:118名(45.7%)/未婚(離別・死別含む):135名(52.3%)/その他:5名(1.9%)
【子どもの有無】
同居している子どもがいる:75名(29.1%)/同居していない子どもがいる:13名(5.0%)/子どもはいない:168名(65.1%)/その他:2名(0.8%)

調査結果のトピックス

1.新型コロナウイルス流行による「双極性障害の気分の波に対する悪影響あり」約半数

回答者490名に「新型コロナウイルスの流行によって、双極性障害の中核症状である気分の波に対する悪影響があったのか」を尋ねたところ、「悪影響があった、どちらかと言えば悪影響があった」という回答が約半数(51.7%)となった。

2.新型コロナウイルス流行による「良い影響と感じることがあった」約半数

回答者490名に「新型コロナウイルスの流行で良い影響と感じることがあったのか」を尋ねたところ、「良い影響があった、どちらかと言えば良い影響があった」という回答が約半数(47.4%)となった。

3.新型コロナウイルス流行による労働環境の変化をふまえ「仕事に満足しているか」約6割

就労中の回答者258名に「新型コロナウイルスの流行による労働環境への変化」について尋ねた。
労働時間の増減については「減った、やや減った」という回答が、「増えた、やや増えた」という回答を4%ほど上回る結果となった。収入については「悪影響なし、どちらかと言えば悪影響なし」という回答が約7割という結果になった。リモートワークについての質問では「導入されなかった」(48.1%)という回答が、「導入された」(36.8%)という回答を10%程上回った。
労働に対する満足度について尋ねた質問では、約6割の回答が現在の仕事に満足しているというものだった。

全員を対象とした質問の回答結果

双極性障害の方が新型コロナウイルスの流行によってどのような影響を受けたのでしょうか。

(図7 新型コロナウイルスへの感染状況)

まずは、新型コロナウイルスへの感染状況について尋ねたところ、「感染した」が1.2%、「感染していない」が92.0%、「わからない」が6.7%となりました。

この結果から回答者の大多数は感染していない人であり、以後報告する新型コロナウイルスによる回答者への影響は、感染による直接的な影響ではないと考えられます。

新型コロナウイルスの流行は、双極性障害の中核症状である気分の波に悪影響を与えたのでしょうか。

(図8 新型コロナウイルス流行による双極性障害の中核症状への悪影響)

結果は「悪影響はなかった」が23.3%、「どちらかと言えば悪影響はなかった」が25.1%、「どちらかと言えば悪影響があった」が33.3%、「悪影響があった」が18.4%となりました。「どちらかと言えば悪影響があった」と「悪影響があった」を合わせて51.7%と、半数以上は気分の波への影響を感じています。一方で、新型コロナウイルス流行が気分の波に悪影響を及ぼしていないと考えている方もほぼ半数であることが分かりました。

では、新型コロナウイルスの流行は、双極性障害の気分の波以外の体調に悪影響を与えたのでしょうか。

(図9 新型コロナウイルス流行による体調への悪影響)

結果は「悪影響はなかった」が30.6%、「どちらかと言えば悪影響はなかった」が25.7%、「どちらかと言えば悪影響があった」が28.6%、「悪影響があった」が15.1%となりました。この結果を2グループに分けると、悪影響がなかったとする回答は合計で56.3%、悪影響があったグループは合計で43.7%という結果になりました。

先ほどの気分の波に関する質問の結果では、気分の波に悪影響があったと回答したグループは合計で51.7%でした。気分の波に対し悪影響があったという回答と、体調に対し悪影響があったという回答を比較すると、51.7%と43.7%となり、気分の波に対する悪影響が体調に対する悪影響よりも大きかったことがわかります。

このことから、新型コロナウイルスの影響はどちらかと言えば気分の波への影響が大きいことが言えます。

自由記述式の任意回答で「新型コロナウイルスの流行による具体的な悪影響」について尋ねたところ、220件の回答を得ることができました。得られた回答に対して、共起ネットワーク分析を行った結果は以下の通りです。

(図10 新型コロナウイルスの流行による具体的な悪影響・自由記述式)

※分析にはKH Coderを使用

上掲の共起ネットワークの「語の出現頻度」に注目し、何が悪影響として記述されたのか、中心となった話題を明らかにしていきます。

1) 感染への不安

ネットワーク全体を通しての最頻出語は「不安」です。これが出現頻度3位の「感染」という語と共起していることから、最大の悪影響は「感染への不安」であったことがわかります。当然の結果ではありますが、新型コロナウイルス流行による気分の浮き沈みや体調への影響以上に感染に対する不安が大きかったことは特筆すべきでしょう。

2) 外出自粛による影響

次に注目したいのは出現頻度第2位の「外出」という語です。「外出」は「自粛」という語と共起していることからも明らかなように、緊急事態宣言の影響や感染拡大防止のために不要不急の外出を自粛していることに起因する悪影響とみなすことができます。

「緊急事態宣言や自粛ムードで病院と最低限の買い物しか外出せず、気が滅入り鬱状態となり、体調も崩した」「休日に外出ができず刺激が減ったことで鬱傾向が強まった」「外出やイベントの自粛でストレス発散が出来なくなってしまった」などの記述からもわかるように、外出自粛によってストレスが増加した結果として体調が悪化するケースや、うつ状態に陥るケースもみられます。

3) 躁状態の誘発

次に出現数が目立つのは「状態」という語で、「躁」や「続く」という語と共起しています。当然ここで気になるのは「躁」という語でしょう。「外出」についての分析でうつ状態に言及しましたが、同様に躁状態に陥ったケースもみられます。

「オンライン授業によって外に出られず、案の定生活リズムが狂いまくり躁転しました」「家事が増えたことにより動きすぎから躁状態がふだんより長く続いた」「家に閉じこもったことで、継続的な躁になった」などの記述からも、外出自粛や生活の変化が躁状態を誘発したことが読み取れるでしょう。新型コロナウイルス流行による行動制限や生活の変化は、うつ状態だけでなく躁状態を引き起こす場合もあります。

4) 小括

これまでの分析から1)「感染への不安」、2)「外出自粛による影響」、3)「躁状態の誘発」の3点が特に目立った悪影響だったことが明らかになりました。1)「感染への不安」は双極性障害を抱える患者のみではなく、多くの人々にみられる悪影響です。しかし、そうした不安や外出自粛などの生活の変化がうつ状態や躁状態といった気分の波を引き起こしていることは、双極性障害患者特有の問題と言えるでしょう。

自由記述式の任意回答で「新型コロナウイルスの流行による悪影響に対する改善策や工夫」について尋ねたところ、182件の回答を得ることができました。得られた回答に対して、共起ネットワーク分析を行った結果は以下の通りです。

(図11 新型コロナウイルスの流行による悪影響に対する改善策や工夫・自由記述式)

上掲の共起ネットワークは(図10)の分析同様、複数のコミュニティが出現していることが確認できます。こうしたことから特定の語に対し使用が集中せず、複数の話題が提示された可能性があると読み取ることもできます。それでは詳しく内容をみていきましょう(ここでは、感染対策や意識的な休息といった当然行われるであろう対策以外の新型コロナウイルスによる悪影響に特化した工夫や改善策に照準します)。

1) 見る/見ない

ここでの最多出現語は「見る」という語で合計20回使用されています。「見る」という語の中には「見る/見ない」の双方が含まれており「ニュース」「テレビ」という語と共起関係を結んでいることから、社会からの情報との関連をうかがうことができます。では、具体的にはどのような対策だったのでしょうか。以下に「見る」「ニュース」「テレビ」といった語が使用されている記述を示します。

「テレビを見ない(ニュースは絶対に見ない)」「余計な/疑わしい情報はなるべく見ないように心がけ、例えばワクチン接種のような自分自身にも直接影響あるものについては、身の回りの医療・福祉従事者、実際に接種した方の意見を参考にするなど、冷静に正しく対処する心構えに努めている」「コロナ関連のニュースをたくさん見ない」などの記述からは、新型コロナウイルス関連のニュースという外的な情報を意図的に遮断し、気分への影響を最小限にしようとする姿勢を読み取ることができます。「知りたい気持ちはあるが、気分に影響があることがわかっているので基本的にニュースを見ない」という記述では、ニュースの情報が気分に対する悪影響を持っていることについて明言されています。こうした悪影響を避けるため、情報を遮断するという方法を複数の回答者がとっていたと考えられます。

上に示した回答は「見ない」ことに焦点を当てていましたが、「見る」ことを重視する回答も少数ながら確認できました。「TVを消して、動画サイトを見るようになった」「ライブ配信を見る」などの記述はテレビを見ないようにしただけではなく他のメディアに置き換えたことが語られており、より積極的な対処法と捉えることができるでしょう。

2) 具体的な改善策(日常生活)

ここからは複数のコミュニティに分かれて出現している様々な語から、日常生活で実践していた改善策へと視点を移します。出現頻度が比較的高い語同士で共起関係を結んでいるのが「家」「出来る」「生活」「リズム」です。この他には具体的な改善策が提示されており、出現頻度も比較的高い「散歩」「薬」にも目を向けます。

まずは「家」「出来る」という語のつながりです。ここでは外出自粛や感染予防のため、家の中での過ごし方に対する工夫が記述されています。

「できるだけ外出しないで家の中での楽しみを増やした」「音楽を聴いたり、漫画や小説を読んだり、アニメを見たりと家で出来る事をして、気分の波を小さくしようとした」「家で出来る楽しみを見つけるように心掛けた」などは、いわゆる「お家時間の充実」と呼ばれるような行為が記述されていることがわかるでしょう。家の中でできる楽しみをみつけることによってストレスの軽減をはかっていることがうかがえます。

次に「生活」「リズム」をみてみましょう。「家」「出来る」という語を用いて語られていたことは変化に対する積極的な対応であったのに対し、「生活」「リズム」という語を用いて語られている内容は変化を避けるための対応でした。

「生活リズムの維持、仕事・趣味に集中する事を心がけている」「生活リズムを守る」「生活リズムと習慣の保持」などの記述からも、新型コロナウイルス流行による生活リズムの乱れを避けようとしていることが読み取れます。生活リズムの維持の一助として「散歩」が行われていた可能性があります。「散歩」を改善策や工夫として記述した回答者の多くが朝に散歩をすると記述しており、日光浴や運動といった生活リズムを整えるための要素を兼ね備えた行為を実践していたと考えられます。

最後に「薬」という語に目を向けます。「薬」という語を用いて語られている内容は以下に示す通りです。

「かかりつけ医を受診し、不安を訴え薬を増やしてもらった」「こまめに主治医と連絡を取り、薬の調整や対処法の指示を受けています」「薬を変えてもらい、不安に感じることが少なくなった」などの記述から「薬」を用いた対処は気分の波よりも不安への対処であることが分かります。こうした記述を残した回答者の多くが不安障害やパニック障害との併存についても記述しており、双極性障害の中核症状への影響よりも併存症状への影響が大きかった可能性がうかがえます。

3) 具体的な改善策(対人関係編)

最後に新型コロナウイルスの流行によって最も大きな変化が生じたことが予想される、人間関係に関する改善策や工夫について分析します。ここで注目する語は「人」「オンライン」「友人」「話す」といったコミュニケーションと直結する語です。この中での最多出現語は「人」で、「会う」という語を介し「オンライン」という語につながっています。

「人」という語のみに注目すると「なるべく人に会わない」「マスクをつけている人ばかりの場所には、気が滅入るのでなるべく行かず」など人との接触を避けるようにしたという記述が散見されます。しかし「オンライン」という語を用いた記述では以下のような記述がみられました。

「オンライン飲み会等でコミュニケーションを取った」「オンラインで他者と交流する頻度を高くした」「友人とオンラインお茶会。オンラインイベントへの参加」

このように直接的に人と会うのではなく、オンライン上でコミュニケーションをとるようにしていたことがうかがえます。「友人」という語でも同様の傾向がみられ「LINEを友人とする」「友人とはビデオ通話をしたりして時々話す機会を作った」などと記述されていました。

「話す」という語においても「夫とよく話す時間が助けになった」「就労移行支援施設に行き、話す機会、体を動かす機会をふやした」と記述されており、他者との交流を維持していたことが読み取れる結果となりました。 こうしたことから回答者らはオンライン、オフライン双方の方法で他者との関係を維持することで、新型コロナウイルスによる悪影響を乗り越えようとしていたことが明らかとなりました。

では、新型コロナウイルスの流行が与えたのは悪影響だけだったのでしょうか。新型コロナウイルスによって良い影響が生じたのかについても尋ねました。

(図12 新型コロナウイルスの流行による良い影響)

「良い影響があった」が14.1%、「どちらかと言えば良い影響があった」が34.3%、「どちらかと言えば良い影響はなかった」が18.4%、「良い影響はなかった」が33.3%となりました。約半数の方(48.4%)が何かしらの良い影響があったと回答されています。

自由記述式の任意回答で「新型コロナウイルスの流行による良い影響」について尋ねたところ、233件の回答を得ることができました。得られた回答に対して、共起ネットワーク分析を行った結果は以下の通りです。

(図13 新型コロナウイルスの流行による良い影響・自由記述式)

(図13)より複数のコミュニティが出現していることが確認でき、こうした特徴は(図10)(図11)と同様です。しかし(図13)の共起ネットワークでは語の出現頻度に顕著な偏りがみられるため、多くの回答者が特定の内容を記述したことがうかがえる結果となりました。それでは具体的にどのような良い影響があったのかみていきましょう。

1) 人と会う機会の減少

共起ネットワークの図からも明らかなように「減る」「人」「会う」という語が非常に高い頻度で出現し、それらの語が共起関係を結んでいます。ここで語られているのは新型コロナウイルスの流行によって、人と関わる機会が減少したこと自体を好影響として捉えているといったものでした。

「人との交流が減り、ストレスが小さくなった」「人との接触が減り刺激が減って体調が安定した」「仕事以外の人との関わりが減ったのでストレスを感じる機会が減った」「人との関わりが減ることで、感情を乱される機会が減り、多少は落ち着けたと思う」などはほんの一部ですが、非常に多くの回答者が人との交流の減少がストレスの軽減につながったことや気分変動のきっかけを避けることにつながったと記述しています。

この他に「周りの普通の人も自粛で家にいるようになったので、うつ状態で家から出られない自分を恥じずに済むようになった」「鬱の人が増えたというニュースを聞いて肩身の狭さが緩和された」「世間がステイホーム・自粛で多くの人が家にいることが多くなることで、無職で在宅しているという罪悪感が薄れた」といった記述も複数みられ、他者との比較や人目を気にする必要が減ったことによる良い影響も語られています。

こうした良い影響に対する記述は以前に実施した「新型コロナウイルス流行の双極性障害患者に対する影響についての調査」(松元 2021)でも確認されており、新型コロナウイルス流行による良い影響の代表的なものと考えられます。

2) 有意義な時間の増加

「減る」「人」「会う」という共起関係の次に出現頻度が高い語の結びつきが「増える」「時間」という語のつながりです。これらの語を用いて記述されている内容は多岐にわたりますが、共通点として有意義な時間の増加が挙げられます。

「夫もテレワークとなり、夫婦の時間が増え、気分が安定した」「子供と一緒に過ごす時間が増えたため、会話できる体調の時に話せる時間が増えた」「家族と過ごせる時間が増えた」

有意義な時間の1つとして挙げられているのが、上に示した家族と過ごす時間の増加です。リモートワークの普及によって、こうした間接的な影響が生じたと考えられます。

この他にも「自分について考える時間が増えた」「趣味を楽しむ時間が増えた」「自分の時間が増えた」「自分に使える時間が増えた」といった記述にみられるように、自分自身のための時間が増えたことや時間の使い方に変化が生じていることが良い影響として記述されていました。

上記から新型コロナウイルスの流行に伴ったリモートワークの実施などの社会的な変化により、家族と過ごす時間や自分のために使う時間の増加などの生活時間にも変化が生まれ、それが良い影響として現れたと結論づけることができます。

就労者のみを対象とした質問の回答結果

次に、就労中の方(258名)に、新型コロナウイルスの仕事への影響について尋ねました。

まずは、就労形態について尋ねました。

(図14 就労形態)

「正社員」が44.2%、「派遣社員」が3.1%、「契約社員」が11.2%、「アルバイト」が25.2%、「自営業」が9.3%、「就労継続支援(A型・B型含む)」が3.1%、「その他」が3.9%でした。

次に、働き方について尋ねました。

(図15 働き方)

「オープン(疾患を開示している)」が42.6%、「クローズド(疾患を開示していない)」が37.2%、「障害者雇用」が12.4%「就労継続支援(A型、B型を含む)」が1.6%、「その他」が6.2%でした。

(図16 新型コロナウイルスの流行によるリモートワークの導入)

新型コロナウイルスの流行による仕事場面の変化で最初に想定されるのがリモートワークの導入です。そこで、リモートワークの導入状況について尋ねました。その結果「導入された」が36.8%、「導入されなかった」が48.1%、「コロナ流行以前から在宅勤務」が7.8%、「その他」が7.4%でした。

続いて新型コロナウイルスの流行による労働時間の変化について尋ねました。

(図17 労働時間の変化)

「労働時間が増えた」が8.5%、「労働時間がやや増えた」が8.5%、「変化なし」が60.1%、「労働時間がやや減った」が11.2%、「労働時間が減った」が10.1%、「その他」が1.6%となりました。

新型コロナウイルスの流行による収入への悪影響について尋ねました。

(図18 収入への影響)

「悪影響なし」が57.8%、「どちらかと言えば悪影響なし」が13.6%、「どちらかと言えば悪影響あり」が16.7%、「悪影響あり」が12.0%でした。

自由記述式の任意回答で「収入への悪影響以外に、新型コロナウイルスの流行によって仕事に生じた悪影響」について尋ねたところ、94件の回答を得ることができました。得られた回答に対して、共起ネットワーク分析を行った結果は以下の通りです。

(図19 収入への悪影響以外に、新型コロナウイルスの流行によって仕事に生じた悪影響)

悪影響の共起ネットワークからは以下の6点を読み取ることができます。

1)仕事の増加

多くの回答者は「仕事」が「増えた」ことに言及しています。他の語と円の大きさ(出現頻度)を比べても特別大きく、他の語との共起関係がないことから独立した最大の問題として記述されていたことがわかります。

2)消毒作業の追加

サブグラフ01では「消毒」「作業」といった語の出現頻度が高いことからも、多くの回答者の職場において消毒作業が通常業務に追加されたことがうかがえます。

3)職場の変化

サブグラフ02では「職場」「出社」「上司」「社員」「内容」といった語の出現頻度が高いことが見てとれます。これらの語が使われた文脈に目を向けると、いずれも新型コロナウイルス流行への対応によって職場が混乱したことや出社制限やリモートワークによる悪影響、業務内容の変更について言及しています。出現頻度は低いですが同じサブグラフ内に「ストレス」という語が出現していることからも、上記の職場の変化がストレスにつながったと考えられるでしょう。

4)日常生活における悪影響

サブグラフ03が他のサブグラフと大きく異なる点は、仕事による悪影響だけでなく日常生活における悪影響に関する記述が同時に出現している点です。それらを示す語が「生活」「リズム」「崩れる」といった語で、これらは同一の文章内で使用され業務形態の変化などが影響し、生活リズムが崩れたことが語られていました。

5)コミュニケーションの悪影響

サブグラフ04は業務内容の変化でも特に対人関係に関する語がその中心となっています。「コミュニケーション」という語が最大の円で描画されていることがその証拠です。ここで記述されていることはコミュニケーションそのものの減少についてであり、職場におけるコミュニケーション形態の変化が悪影響として記述されています。また「落ち着く」という語が出現していますが、その記述内容は「落ち着いた仕事がしづらい」「落ち着きにくくはなっている」といったものであり、ネガティブな反応として捉えられます。

6)悪影響による休職

サブグラフ05で目立つのは「休職」という語です。「コロナ」という語も同じサブグラフ内に出現しており、新型コロナウイルス流行が一部ではあるが回答者を休職に追いやるまでの悪影響をもたらしたことを示しています。「医療従事者なので、少し忙しくなり、ストレスが増大し休職した」「うつ転してしまい、出社が困難になったことをきっかけに2ヶ月の休職で休養した」「リモート勤務ではなく、その分、労働の負荷が増して、2ヶ月の休職を余儀なくされた」などの記述がその事実を物語っています。

合わせて、悪影響に対し行った改善策や工夫も尋ねました。

自由記述式の任意回答で「悪影響に対し行った改善策や工夫」について尋ねたところ、61件の回答を得ることができました。得られた回答に対して、共起ネットワーク分析を行った結果は以下の通りです。

(図20 悪影響に対し行った改善策や工夫)

悪影響の共起ネットワークと比較すると文章数そのものが少なく、各語の出現頻度も低くなっています。「業務」「時間」の2語が最多出現語ですが、いずれも出現回数は8回にとどまっています。

サブグラフ01では職場環境についての記述が目立ちます。サブグラフ02、03、06と異なる点は「復職」「転職」「休職」といった語が出現している点であり、これらは1つの文章内で使用されているケースが目立ちます。「一旦、しっかり休職し復職した」「休職中に新型コロナウイルスが流行したため、一般事務職の復職を断念し、資格を生かした専門職で転職した」などがその例です。こうした記述からは「転職」や「休職」を戦略的に行い、悪影響を緩和させた可能性がうかがえます。「勉強」「資格」「専門」「知識」といった語が同じサブグラフ内に出現していることはこうした理由です。

サブグラフ02、03、06についてはまとめて分析します。これらのサブグラフにおいて出現頻度が高いのは「業務」「勤務」「改善」といった語です。質問内容を考え「改善」という語を用いた記述に注目すると、必ずしも悪影響が改善されたわけではないことが明らかになります。「改善、工夫をするにも立場的に裁量権が及ばない部分が多かった」「改善策はありません」「契約外の業務はできない旨を伝えて一部改善された」と記述されており、「改善」という語が6回使用されている中で2件は改善に至らず、1件は部分的な改善であったことが記述されていました。出現頻度が最多である「業務」という語でも同様の傾向がみられました。

具体的な改善策の記述が目立ったのが「勤務」という語を用いた記述です。「職場の上司と話し合い、勤務日数を減らしてもらった」「リモートや時差出勤を辞退し、通常の9時から18時勤務固定として頂きました」「テレワークで在宅勤務になる前日までに業務を依頼してもらったり」などがその具体例です。

サブグラフ06に出現している「増やす」という語からも具体的な改善策の記述が確認できます。「お時給で働くパートを増やした」「興味分野の活動を増やした」などがその例で、ここからは労働形態や関わり方の変更を読み解くことができるでしょう。その他には同僚らと雑談を行うなど、コミュニケーションを重視する改善策も提示されていました。

次にサブグラフ04に目を向けます。ここでの最多出現語は「SNS」です。「SNS」という語は6回出現しており全体を通してみても出現頻度が高くなっています。しかし1人の回答者の文章の中で使われているため、全体の傾向を示すものではありません。このような問題はあるものの、情報に対する過敏性を示しやすい特性を考慮すると「コロナの不安や政治への怒りはSNSでより増大してしまう傾向がありました」「そのためSNSとニュースを見ないことが対策となりました」という記述にみられる改善策は、誰しもが簡単に採用できる対策であり有用なものと言えるでしょう。

最後にサブグラフ05に言及します。ここでは2つの記述内容について使用された語が出現しています。1つは「体調」という語が示すように、回答者の体調についての記述です。「現在も体調が鬱に傾いているため、生活リズムを取り戻すことで体調改善につとめています」「体調管理を万全にするよう生活している」などが具体的な記述ですが、具体的な改善策が示されているわけではありません。また「身体のケア、に時間を割くようになり体調が良くなった」という記述もみられますが、これも悪影響に対する改善策というよりは新型コロナウイルスの流行による時間の使い方の変化がもたらした好影響と捉えることが妥当でしょう。

「改善」という語に注目した際にも述べましたが回答者数や出現語数、記述内容の分析からも具体的な改善策を見いだせた回答者は少なかったとみるべきです。

仕事に対する満足度についても尋ねました。

(図21 仕事の満足度)

「満足している」が21.3%、「やや満足している」が36.0%、「どちらとも言えない」が19.8%、「やや不満である」が14.7%、「不満である」が8.1%でした。

この結果から、「満足している」と「やや満足している」を合わせると半数以上の約57%が現在の仕事に満足してるという結果になりました。

総括(調査担当者 松浦)

調査担当者プロフィール

今回、本調査を実施した背景の1つは私の体感にあります。双極性障害の当事者である私はコロナ禍による悪影響を受けた一方、在宅勤務によって直接人と会うことが極端に減り、結果的に体調が安定したという良い影響もあったため、他の双極性障害の方がどうなのかを知りたくなりました。

また、調査によって新型コロナウイルスによる悪影響がわかった場合でも、どんな工夫をして対処しているかを調べることで他の方の参考になるのではという考えもありました。

「双極性障害の気分の波に対する悪影響あり」が約半数だった結果については、個人的には想定より少ない印象でした。

加えて、期待した悪影響への対処について具体的なものは少数であり、過去に類をみない環境変化に対して皆さんが苦慮されていることも浮き彫りになりました。

一方「良い影響と感じることがあった」という方の割合も約半数であったことから、私が感じた好影響を当事者の半数の方も同じく感じていたことは印象的でした。個別回答の「人との交流が減り、ストレスが小さくなった」からは、人からの刺激が症状に影響を受けやすい双極性障害の方の特性が緩和されたことが読み取れます。

また「うつ状態で家から出られない自分を恥じずに済むようになった」という回答からは、ネガティブに捉えていたものが社会の変化によって感じづらくなったことを良い影響と考えている方がいることも印象的でした。

働いている方に限定した質問「仕事に満足しているか」については約6割が「満足」「やや満足」と回答している点から、双極性障害と付き合いながら働く大変さはあれども、満足感を感じながら働いている方が半数以上いることも分かりました。

新型コロナウイルスの流行の結果、新しい働き方に変化し定着していく過程で双極性障害の方がどういう形態だと働きやすくなるのか、どんな工夫や対処をすればよいのかについて!今後も様々な形で調査や取材をして記事にしていければと思います。

総括(共同調査者 松元)

共同調査者プロフィール

今回得られたデータからは、回答者の半数程度が新型コロナウイルスの流行によって、中核症状である「気分の波」に悪影響を受けているものの、中核症状以外の体調への悪影響は半数以下であることが明らかとなりました。

回答者全体の約半数が就労中であり、就労しているか否かによって影響の受け方に違いがみられるかと考え統計的検定を行いましたが、有意な差はみられませんでした。また、就労状況や性別、年齢などの基本属性による差もみられなかったため、今回の調査項目からは影響の出方の違いを生じさせる要素は見いだせませんでした。

就労中の方の回答からは、労働時間への悪影響、収入への悪影響もそれほどなかったことが明らかになりました。そのため「収入以外への悪影響」を尋ねた自由記述式の質問の回答も対象者258人中、回答者は94人と半数以下でした。しかし、記述内容に注目すると、労働時間の増加や消毒業務の追加が記述されています。この他、リモートワークによる影響など勤務形態の変化に対する記述もみられたことから、新型コロナウイルスの流行による労働形態の変化が一部の回答者にとっては悪影響となっていたことがうかがえます。

こうした悪影響に対する改善や工夫について尋ねた質問の回答からは、具体的かつ有効な改善策はあまりなかったことが示されました。しかし、新型コロナウイルスの流行をきっかけとして、休職や転職に踏み切ったとの記述が散見されたことは特筆すべき点です。

就労状況に関わらず回答者全体に新型コロナウイルスの悪影響について尋ねた質問の回答では「感染への不安」「外出自粛によるストレスの増加」といった双極性障害とは関係なく生じる悪影響が中心となって記述されていました。双極性障害との関連がみられたのは、生活リズムの変化による「躁状態の誘発」でした。オンラインでの業務や授業の増加といった社会的な変化が生活リズムに影響した結果、症状の不安定化を招いたものと考えられます。

上記で示した悪影響に対する「改善策」を尋ねた質問の回答では、具体的な解決策が複数示されました。1つめは、SNSの利用法やニュースなどの情報へのアクセスに関するもので、新型コロナウイルス関連の情報を遮断するというものでした。こうした取り組みにより不安を軽減させていたことが明らかとなりました。2つめは、家でできる楽しみをみつけることによるストレス発散や、散歩によって生活リズムを整えようとする取り組みでした。そして3つめが、オンラインで人とコミュニケーションを取ることによって他者との関係を維持し、孤立を避けようとする試みでした。こうした改善策はいずれもニューノーマルと呼ばれる生活様式にうまく対応しようとしたものであるとみることができます。

新型コロナウイルスの流行によって生じた「良い影響」に関する質問では、こうしたニューノーマルと呼ばれる生活様式がこれまでのストレスの一部を払拭したことが示されました。無理をして他者と関わる機会が減少したことや、他者の目を気にせず療養できるようになったこと、他者と比較することの減少などがその例です。こうした療養や比較に対する良い影響は、双極性障害患者特有のものである可能性が高いと思われます。

以前、筆者が実施した調査(松元 2021)でも「悪い影響」「良い影響」については同様の結果が出ていることから、一定程度の妥当性を持っているものと思われます。

こうした分析から、社会全体に対する影響は双極性障害患者も等しく被っているが、収入に関する悪影響は比較的軽微であること、中核症状への悪影響や、他者との交流の減少における良い影響などについては疾患特有の影響がみられることが明らかとなりました。しかし、新型コロナウイルスの流行は遷延化し、先行きの不透明さも拭えないことから、現時点で結論を出すことはできません。今後どのような変化があるのかを注視する必要があります。

松元圭. 2021.「新型コロナウイルス感染症の双極性障害患者への影響に関する研究―社会的変化の中で症状が緩和される可能性の検討―」『日本保健医療社会学会第47回大会』
調査報告書 参考URL https://drive.google.com/file/d/1J-Hr1aZljOXGNrWZC4dj_ZTgEZ-Kt3vA/view?usp=sharing

連絡先:k_papipupe@yahoo.co.jp

補足説明

倫理的配慮として回答開始前に本研究の趣旨、アンケートへの協力拒否によって不利益を被ることはないこと、データは匿名化して処理され個人情報が収集されることはないこと、データの管理には細心の注意を払うことを伝えるページが表示されるようになっている。

ここでの共起ネットワーク分析は全てKH Coderを使用して分析しました。全ての分析はJaccard係数0.2以上に設定し、最小スパニングツリーのみを描画しています。プラグインや強制抽出語の設定に関する詳細は割愛します。図10、11、13の回答者全員を対象とした質問に対する分析では最小出現回数3回以上の語を対象に分析しました。図19、20については最小出現回数2回以上の語を対象に分析しています。各分析の分析対象語数は以下に示す通りです。

(図10)
回答者490人のうち、Q10「よろしければ、新型コロナウイルスの流行による悪影響を具体的に教えてください。悪影響が何もなかった場合は質問12へお進みください。(任意)」に回答したのは全体の44.9%である220人であった。220人の回答を文章数に整理した結果、分析対象となる文章数は342、総抽出語数は6,535(使用数は2,945)、異なり語数は1,296(使用数は1,071)となった。最小出現回数3回以上の語(上位19.70%)。

(図11)
回答者490人のうち、Q11「よろしければ、上記の質問8,9,10でお答えいただいた悪影響に対し、あなたが行った改善策や工夫があればその内容を具体的に教えてください。(任意)」に回答したのは全体の約37%である182人であった。182人の回答を文章数に整理した結果、分析対象となる文章数は266、総抽出語数は3,666(使用数は1,687)、異なり語数は955(使用数は786)となった。最小出現回数3回以上の語(上位16.92%)。

(図13)
回答者490人のうち、Q13「よろしければ、具体的にどのような良い影響があったのか教えてください。(任意)」に回答したのは全体の47.6%である233人であった。233人の回答を文章数に整理した結果、分析対象となる文章数は313、総抽出語数は6,192(使用数は2,759)、異なり語数は1,140(使用数は941)となった。最小出現回数3回以上の語(上位21.47%)。

(図19)
回答者258人のうち、Qf「よろしければ、収入への悪影響以外に、新型コロナウイルスの流行によってあなたのお仕事に生じた悪影響について具体的に教えてください。悪影響がなかった場合は何も記入せずに質問hにお進みください。(任意)」に回答したのは94人であった。94人の回答を文章数に整理した結果、分析対象となる文章数は120、総抽出語数は2,197(使用数は1,022)、異なり語数は668(使用数は522)となった。最小出現回数2回以上の語(上位13.41%)。

(図20)
Q.fに回答した94人のうち、Q.g「よろしければ、上記の質問fでお答えいただいた悪影響に対し、あなたが行った改善策や工夫があればその内容を具体的に教えてください。(任意)」に回答したのは、61人であった。61人の回答を文章数に整理した結果、分析対象となる文章数は94、総抽出語数は1,360(使用数は609)、異なり語数は496(使用数は382)となった。最小出現回数2回以上の語(上位22.51%)。

引用・転載時のお願い

本リリースの内容の転載に当たりましては「双極性障害患者への新型コロナウイルスの影響に関する調査〜『暮らし』と『仕事』における悩みと工夫〜」(「双極はたらくラボ調べ」共同調査者 松元 圭(関西大学大学院社会学研究科))と付記のうえご使用いただきますよう、お願い申し上げます。

謝辞

本調査の実施に当たり、趣旨を理解し快く協力していただいた調査対象者の皆様に心から感謝いたします。また、調査の設計段階からご協力いただいた皆様にも重ねてお礼申し上げます。

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