双極症のリカバリーについて医師が考える未来「診察室を夢と希望を語れる場に」

公開日: 2024.10.31

双極症(双極性障害)の当事者が自分の状態を肯定し、なりたい自分に向けて歩むプロセスであるリカバリー。

これまでの記事では精神科医の渡邊衡一郎先生に、パーソナルリカバリーと、具体的な枠組み・POETICについて解説いただきました。

最終回では「新たな可能性があるもの」であるリカバリーの未来について伺います。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

前回までの記事はこちら
双極症におけるリカバリーとは?当事者が自分らしく生きるヒントについて医師が解説
双極症のパーソナルリカバリーのフレームワーク・POETICとは?医師が解説

プロフィール 渡邊 衡一郎(わたなべ・こういちろう)

杏林大学医学部 精神神経科学教室 教授
日本うつ病学会 理事長

双極症のリカバリーの可能性 診察室を夢と希望を語れる場所に

松浦
松浦

リカバリーの将来について、どうお考えですか?

渡邊先生
渡邊先生

リカバリーは精神科のスタンダードではなく、新たな可能性があるものなんですよ。

双極症においてリカバリーをどう活用すればいいかについては、ここ数年で急に注目されていますが、最も大事な点はとてもシンプルです。

結局、あなたはどうしたいか

家族や仕事のようなしがらみ、病気という要素もすべて抜きにしたとき、自分は何をしたいのか考えてほしいんです。

「再発しないために」
「仕事をクビにならないために」
という発想もあります。

でも、結局どうしたいのかと。
それを意識して、今後について考えるのが、まさにパーソナルリカバリーだと思っています。

今は「自分がどうしたいのか」を考えていい時代なんだということを、読者の方にはぜひ意識していただきたいですね。

日本の医師も徐々に変わりつつありますから。

松浦
松浦

具体的にどう変わりつつあるのでしょうか?

渡邊先生
渡邊先生

診察の場で夢や希望を語れるようになってきましたね。

「先生、実は私、働くこともいいんですが……本当は歌手になりたいんです!」
「今まで親の介護があったんですけど、やっぱり世界一周旅行をしたいんです」

実現できるかどうかは別ですよ。
でも言ってくれれば、医師は「あぁ、そうなんだ」ときっと覚えてくれると思います。

すぐには無理だとしても、何かのタイミングにでも「そろそろ実現できるかもね」と声をかけてみたりできますよね。

松浦
松浦

すごい……。診察室が夢と希望を語れる場になるんですね。

双極症当事者にとって励みになるものは周囲の理解

渡邊先生
渡邊先生

以前我々は、双極症の方にとって何が一番励みになるのか聞いてみたんです。

すると医療関係者じゃなくて、周りの方が理解してくれることがトップだったんですよ。

POETICのまさにConnectedness(人とのつながり)でしょうね。


渡邊先生
渡邊先生

双極症の方は基本的に、人が好きな人が多いんですよね。

けれども色々な困難・辛苦があり、友人と絶交、家族と断絶されて孤独な方は結構います。

だから、波がある自分の相談に乗ってくれて、何があっても淡々と接してくれる人が一番欲しい。

これがまさに当事者の方の声で、私も医療関係者に強調して伝えている点ですね。

松浦
松浦

近づきたいけど近づけない。逆に縁を切ってしまう。

でも本当は繋がりたいので、切ってから後悔するということはありましたね……。

渡邊先生
渡邊先生

そうそう。

振り切った振り子みたいなもので、いい方と悪い方の両方に揺れてしまう。当事者の方が持つ、つらさの根幹がこれでしょうね。

松浦
松浦

なかなか理解してもらえないですよね。

当事者同士では共感し合えても、他の方には分かってもらえない

うつ病はなんとなくイメージしてもらいやすいけれど、躁や軽躁のある双極症の大変さが分かってもらえないんですよね。

だから、分かり合える者同士で深く共感し合うという。

渡邊先生
渡邊先生

パーソナルリカバリーを広めるなかで、当事者の苦しみや回復までのプロセスなどを、非当事者にも理解できるよう伝えていけたらいいでしょうね。

注目されているパーソナルリカバリー  広めるための活動とは

松浦
松浦

さらにパーソナルリカバリーへの理解を進めるために、渡邊先生としてはどういう活動をされているんでしょうか?

渡邊先生
渡邊先生

専門であるうつ病については、関西医科大学の加藤正樹教授と一緒にGAS-D(Goal Attainment Scale for Depression / 目標達成尺度)の日本語版を作りました。

これは「あなたはどういうゴールを目指していますか?」と、うつ病治療が始まった人がどうなりたいかを踏まえて目標を決めるというものです。

「働けるようになりたい」だけでなく、数か月後無理なく達成できるものを決めます
例えば「今は家で寝てばかりだけれど、近所を散歩できるようになりたい」という目標を立てたとしますね。

今は-2点の状態だとして、予定通りいったら0点、さらにうまくできたら+2点という風に点数を付けていくんです。

目標を達成していくことは大切なので、臨床の現場で双極症について診察する上でも、もっと広めていければいいなと思いますね。

忙しい臨床ではなかなか厳しいかもしれませんが、医師が時間を作ることはできるはずですから。

達成度を確認する必要があれば、患者さんで混み合っている時間帯以外のところで、診察に来るよう声を掛けることもありますね。

松浦
松浦

先生側の働きかけが増えてきているんですか?

渡邊先生
渡邊先生

そうですね。当事者の方の声も注目されている状況ですから、医師からも当事者に積極的な声掛けをして、様子を確認するわけです。

医師が当事者の苦悩も踏まえ、色々なことを知った上で、パーソナルリカバリーについて議論していければいいでしょうね。

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