双極性障害当事者と働く企業・上司の本音 信頼関係の作り方

公開日: 2024.1.26
最終更新日: 2024.3.29

双極性障害をオープンにしても安心して働ける環境はあるのでしょうか。

前回の記事では、20社以上の転職経験がある岩淵さんにインタビューを実施しました。

初めて双極性障害を開示して行った就職活動。そこで出会った会社に入社後、1年間安定して働けていることを伺いました。

今回は企業側に焦点を当て、岩淵さんとの関わり方やその本音について探ります。

※インタビューは2023年4月に実施

岩淵さんのインタビュー記事はこちら

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

プロフィール 岩淵 碧(36)

双極性障害Ⅰ型
株式会社SIGNPOST所属
20社以上転職し、リワークを経て現在の会社に落ち着いた。
ゲーム業界で監修・制作管理等の企画職。

プロフィール 杉山 拓博(29)

株式会社SIGNPOST代表取締役CEO
私立大学を卒業後、株式会社キャリアデザインセンターで企業様のエンジニア採用に尽力。
その後、Tres Innovationに入社してクライアントワーク事業を立ち上げ。
法人営業と採用をメインに事業推進を行い、2019年3月に事業部を子会社として株式会社SIGNPOSTを創業

プロフィール 熊野 克(37)

株式会社SIGNPOST クライアントワーク部門マネージャー
地元で一度就職するも、ゲーム業界へ挑戦するため離職して上京。
その後、ゲーム業界の企画職を軸足に10年以上のキャリアを歩む。
過労による休職などを何度か挟みつつ、各社をわたって現職に至る。
現在は、クライアントワーク案件に参加しつつ、社内にてゲーム方面のキャリアを歩んでいる社員のキャリアサポートを行う。

安定就労が難しかった双極性障害の当事者を採用した理由

松浦
松浦

簡単に自己紹介をお願いします。

岩淵さん
岩淵さん

岩淵です。これまで転職が多く、なかなか安定して就労できない状況が続いていましたが、リワークを経て今の企業に入社してからは1年間安定して働けています。

杉山さん
杉山さん

杉山です。関わりとしては、岩淵さんがより良いキャリアを描けることを軸に、どんな仕事が適性かを精査し、営業やフォローをすることを担当しています。

熊野さん
熊野さん

熊野です。岩淵さんとはメンター・メンティの関係で、悩みを相談してもらったり、働き方のアドバイスをしたり二人三脚でやっていくような役割をしています。

※SIGNPOST様では、社員1人に専属のメンター1人がつき、業務状況のヒアリングしながら、キャリア方針とズレが無いか、希望する働き方ができているかをサポートする制度を実施。

左から熊野克さん・岩淵碧さん・杉山拓博さん
松浦
松浦

今回は「双極性障害の当事者と、受け入れた企業側の本音に迫る」というテーマで、お話を聞いていきます。

そもそも岩淵さんは、どんな契約で働いているんですか。

杉山さん
杉山さん

人手が足りないゲーム会社に業務委託の形で、岩淵さんが培ってきたゲーム業界の経験を活かして働いていただいています。

契約に関しては、弊社の正社員として雇用しています。

松浦
松浦

双極性障害を開示して働く場合、一般的には障害者雇用がパッと思い浮かびますが、そういうわけではないんでしょうか。

杉山さん
杉山さん

入社時に障害者雇用枠で採用する話はしていないですし、今もその認識はありません。

双極性障害のことや過去の転職歴は、面接時に確認していますが、岩淵さんの実務経験と姿勢が、採用の決め手となりました。

現状を変えようと、リワークに通って、自分でも改善しながら社会復帰することを目指されていたので。

1年経って「アラート」を上げられるようになった

松浦
松浦

岩淵さんは入社して1年ですよね。

1年経ってみて、 会社で働く上の工夫や努力をあえてあげるとしたら、どんなことをされてますか。

岩淵さん
岩淵さん

しんどくなりそうなときに、上司にきちんとアラートを上げられるようになりました。

最初は言語化できず、杉山さんや熊野さんを困らせていましたが…。

松浦
松浦

どんな感じだったですか。

岩淵さん
岩淵さん

テンパってしまい、杉山さんや熊野さんにヒアリングしてもらわないといけない状態でした。

「どう伝えていいかわからない」というやり取りを、何度もしていたと思います。

松浦
松浦

それが今はできるようになった、と。

岩淵さん
岩淵さん

はい。でも最近ですね。

熊野さんから「働く上で自分が何を大事にしていきたいのか、優先順位を決めて取り組んでみるといいよ」とアドバイスを受けました 。

優先順位の付け方も教わり、今の現場で腰を据えて働くことが大事だと明確になりました。入社1年後の1月頃だったと思います。

松浦
松浦

熊野さんは、岩淵さんの変化を感じていますか。

熊野さん
熊野さん

そうですね。言語化の部分は、変わってきたと感じますね。

終わりを思い描くことで見つけた進むべき道

松浦
松浦

他にも、岩淵さんが実践されていることはありますか。

岩淵さん
岩淵さん

残業をしすぎないように意識しています。

会社からも「規則正しい生活」と「定時出勤・定時退社」を守るように言われてるので。

早く寝て、ちゃんと朝起きて、朝ごはんを食べ、休憩を取り、定時に仕事を終えて、しっかり休む。この基本ルーティンを大切にしてますね。

松浦
松浦

会社側からも「定時で仕事を終わらせて」と働きかけをしたりするんですか。

杉山さん
杉山さん

最近はご自身でできているので言っていませんが、入社当初は、「頑張りすぎないことを、まずは頑張りましょう」と伝えていました。

頑張りすぎて症状に影響してくると認識しているので、 そこをまずはコントロールしましょう、と。

松浦
松浦

一般的に、頑張ることは良いとされますが、それを止めるよう指示することに抵抗はありませんでしたか。

杉山さん
杉山さん

会社に入った以上、精一杯働くことは大前提だと思います。

ただ弊社は、「キャリアを創造し、人生を豊かにすること」を目指しています。何を大事にして働きたいかは、個人のフェーズによって変わると思うんですよね。復帰後の岩淵さんであれば、まずは無理せず徐々に慣れていく。

この方針をお互いに合意したうえで入社いただいているので、抵抗はありませんでした。

岩淵さん
岩淵さん

「キャリアを創造し、人生を豊かにする」という視点を得られたことが、この会社に入社した大きなメリットだったなと思います。

自分がどう生きて、どう死にたいか。

一般的に「死にたい」と表現すると良くない捉え方をされるかもしれませんが、どのように終わりたいかを考えることで、自分が目指すべき道しるべ「SIGNPOST」が明確になりました。

これまでキャリアをうまく築けなかったですし、死ぬほど働かなきゃ築けないと思ってたんですが、実はそうでもないかもしれない、と。

上司から安心して話せる信頼関係をつくる

松浦
松浦

ここまで岩淵さん視点のお話を聞いてきましたが、逆に杉山さん、熊野さんがしている工夫や配慮はありますか。

熊野さん
熊野さん

正直、ゲーム業界には波があると感じる方が多いです。僕でも、波はあるので。

特別な扱いは何もしていませんが、僕自身がゲーム業界で10年以上やっている経験をもとに、岩淵さんがもっと楽に働けるように、気の抜き方などを伝えました。

岩淵さん
岩淵さん

熊野さんに、「しんどい」とチャットをよく送るんですけど、それに対して「何がどうしんどい?」って聞き返してくださるんですよね。 

つらいと思った時に我慢しなくていいことが救いです。話せる関係を作っていただいているので、そういう意味ではすごく安心するというか。

以前、しんどいと伝えたときに、「全部を受け止めずにちょっとそこら辺に置いてもいいし、高いハードルだったら飛ばずにくぐっちゃえばいいじゃん」と言ってもらったのが、自分的に大きかったです。

「あ、ハードルって飛ばなくてもいいのか」と気付かされました。

熊野さん
熊野さん

言った気もするね。

岩淵さん
岩淵さん

週に1回話を聞いてもらうこともあれば、週5日間つらいという話をすることもあり。

仕事の邪魔をしていると感じつつも、ちゃんと受け答えをしてもらえたので、「この人なら安心して話せる」という信頼関係が築かれたと思います。

松浦
松浦

なるほど。

信頼関係を作るうえで、熊野さんは具体的にどういうことをされたんですか。

熊野さん
熊野さん

僕自身、最初の就職先で「やらなくちゃ」と自分を追い込む癖がありました。

岩淵さんも同じような傾向があるかもしれないと仮定して、まずは話を聞いたり、気が楽になるちょっとした方法を伝えたりするようにしていました。

過去の経験から「この人に話せば理解してくれる」という関係が築けたら、なんでも話せるようになると思っていたので。

負担にならないように気を付けつつ、しばらく連絡がないときはこちらから声をかけてみたりしていました。

仕事をするうえでお互いに求めること

松浦
松浦

双極性障害の症状による仕事への支障という部分で、 お互いに「もう少し改善してほしい」と思っていることはありますか。

岩淵さん
岩淵さん

私は、自分を客観視するのが苦手だと感じています。

他人からどう見られているか不安になる部分があるので、「等身大の自分」がどう映っているか、会社に対して聞けるようになりたいです。

例えば、杉山さん・熊野さん・同僚から見た「私」が、どんなふうに映っているのか。いろんな人に聞きながら、自己理解を深めていきたいです。

松浦
松浦

杉山さん、熊野さんはどうですか。岩淵さんに対して 求めるものはありますか。

杉山さん
杉山さん

いや、本当に特にないんですよね。双極性障害の片鱗すらほぼ見せないぐらいなので。

ただ、会社のメンバーからどう思われてるかを、過度に気にする必要はないと思います。

ありのままの自分をどんどん出して、周りとフラットにコミュニケーションを取っていただければといいのかなと。

熊野さん
熊野さん

正直に言いますと、2点あります。

1点目は、いろんな人の視点・情報を持っていると、自分を理解しやすくなるので、それは続けてほしいです。

2点目は、もう少し自分本位に、何をしたいのか、どうなると嬉しいのか、みたいなところを考え続けてほしいです。

まだ、外の価値観にグラグラ揺らされるようなところがあると思っているので。

岩淵さん
岩淵さん

たしかに、他人からの評価にすごく振り回されます…。

熊野さんからの「自分本位」という言葉はすごく大事だと思っています。

自分が何のために生きていくのかについて、もう少しはっきりした軸として持ちたいと思っているので、そこに今取り組んでいるところです。

松浦
松浦

会社の貴重なフィードバックの場に私が招かれたみたいです(笑)。

率直に言っていただいてありがとうございました。

インタビュー全容は動画にて!


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