双極性障害の方の中には、「転職したくないのに、安定して働けない」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
今回話を聞いたのは、過去20社以上の転職を経験をし、リワークを経て現在の会社で1年以上勤務されている岩淵さん。
「過去の働き方」「リワークを経てオープン就労を選んだ経緯」「仕事の工夫や困りごと」について、お話いただきました。
※インタビューは2023年4月に実施
〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉
プロフィール 岩淵 碧(36)
双極性障害Ⅰ型
株式会社SIGNPOST(サインポスト)所属
20社以上転職し、リワークを経て現在の会社に落ち着いた。
ゲーム業界で監修・制作管理等の企画職。
目次
双極性障害の発症は、いつ頃だったんでしょうか。
働き始めた頃だと思います。
新卒入社した会社では、月に600時間、1日約20時間ぐらい働いていました。
睡眠時間もほとんど取れず、休日もなく90連勤することもありました。
え…!新卒で1年目からそこまで働いていたのですね。
どのような仕事をされていましたか。
ゲーム業界で企画の仕事をしていたのですが、頑張り過ぎました。やればやるほど評価されたので、それが楽しかったんです。
午前7時に出社して、翌朝の午前4時半まで仕事をし、自宅で短い仮眠をとって再び出社というサイクルを90連勤で2年半続けた結果、おかしくなってしまいました。
2年半も続けられたんですね。
その間に異変はなかったんですか。
体重が危険な数値まで下がっていました。
周りからは心配されていたものの、自分では何がおかしいのか気づけない状態になってましたね。
気づけなかったのは、どうしてでしょうか。
寝なくても働けていたので、その働き方が当たり前だと思っていました。
でも、ある日突然、会社に行けなくなって。
起床しても、その場から動けず無気力な状態で、どうしていいか分からなくなったんです。それで、病院に行きました。
病院では何と言われましたか。
うつや適応障害と診断され、休むようにと言われました。
休んだらそのうち治るだろうと思ったんですが、いつまで経っても治りませんでした。
実際に双極性障害診断を受けるタイミングはいつでしたか。
わりと早くて、新卒3年目の時でした。
主治医にアップダウンが激しいという話をしたところ、「心理検査を受けた方がいいんじゃないか」と提案があったので、検査を受けました。
そこで「双極性障害の可能性が高い」という結果が出たんです。
でも主治医がそんなに詳しいわけではなかったですし、自分でもうつ病や適応障害と何が違うのかが分からず。
診断は受けたけど、病識は持てなかったんですね。
薬は飲んでいたんですか。
当時はうつ病の薬を飲んでいたので、当然合わないですよね。
だんだん転職の頻度が上がっていき、辞める速度も上がって、最後はラピッドサイクラー※に近い状態になっていたと思います。
※ラピッドサイクラー:1年に4回以上躁状態とうつ状態のサイクルを繰り返す状態。別名急速交代型。
今は安定して勤めていらっしゃいますが、ラピッドサイクラー状態も経験し、20社以上転職されていますよね。
これまで、印象的だった会社や働き方はありますか。
特になくて、どこも似たり寄ったりでした。
ゲーム業界あるあるかもしれませんが、頑張れば頑張っただけ評価されるので、それぐらい働くのが当たり前という価値観がありました。
でも自分は働けないので、「役立たずだ」「生きてる価値がない」と、どんどん追い込んでしまって。
「これ以上転職したくないのに、どうして私は安定して働けないんだろう」
「他の人みたいに毎日会社に行って勤めることが、どうしてできないんだろう」
と悩んでいましたね。
今度こそ頑張ろうと思って、新天地に行っても、続かなくて転職を繰り返す…。
そのサイクルが変わるきっかけは、何かあったんですか。
2つあります。
1つは、飲んでた薬を変えました。
たまたま主治医に、「ドンペリドン(吐き気止め)を飲んでる時は体調がいいんですよ」と話したところ、薬の変更を提案してもらいました。「ラツーダ(双極性障害のうつ状態の改善)っていうのがある」と言われて。
これを飲むようになってから、少しずつ気分の波が落ち着きました。
なるほど。
同じぐらいのタイミングで、松浦さんが書いているnoteに出会いました。
双極性障害と付き合いながら安定して働いている先駆者がいるんだったら、自分もできるかもしれないと思って、リヴァトレ※に電話をかけたことを覚えています。
※リヴァトレ:うつ・双極性障害などの方の復職・再就職支援サービス。双極はたらくラボの運営元「株式会社リヴァ」が運営。
読んでいただいたんですね。ありがとうございます。
サービスを使って社会復帰に至るにあたって、要素として何が良かったと思いますか。
3年後の自分がどうなっていたいかを考えるプログラムがよかったです。
私は明日生きることにも絶望していたので、3年後なんて考えていませんでしたが、考えてみると意外と楽しくて。
自分の中にやりたいことがたくさんあったことに気づけましたし、今の会社に繋がるきっかけにもなっているんです。
あと、スタッフさんが週1で面談をしてくれていたので、振り返りの癖がつくようになったのがよかったと思います。
気分の上がり下がりを振り返るなかで、下がっている時にやること・やらないことを少しずつ覚えていけました。
サービスの利用中に今の会社にご縁があったとお話を聞きましたが、どうやって見つけたんですか。
転職サイトで「ゲーム業界での経験がある方を募集しています」とオファーがきました。
ただ、 クライアントワーク※事業を行っている会社で。
※取引先からの発注を受けて制作物やサービスを提供すること
現場に出る派遣みたいなものという思い込みがあったので、オファーを受けるか悩みました。
そうしたらリヴァトレの利用者の方に「正社員のまま現場だけを変えればいいっていう働き方ができるのも1つメリットじゃないか」って言われて、確かにと納得したので面談を受けてみようと思ったんですよね。
ちなみに、オファーが来た段階では双極性障害を開示していたんですか。
履歴書を公開していて、そこに双極性障害ということも書いていました。
相手も双極性障害と知っているうえで、面談しましょうかと言ってもらえて。
一般オープンのような働き方をしたいと思って、転職活動をされていたんですね。
選考中、今の会社の印象はどうでしたか。
面白そうな会社だなと、素直に思いましたね。
とにかく、キャリア・ライフプランを大事にすると言ってくださっていて。
「仕事よりも、『私事』を大切にしたい。人生を豊かにしたい。」という話を聞くうちに、上辺だけじゃないと感じ、ご縁があったらこの会社に入りたいと思いました。
そこからすぐに決まったんですか。
年の暮れに2次面接があったんですが、その場で「採用しましょう」と提案いただき、入社が決まりました。
今の話だけ聞くと、転職活動はスムーズだったように思えるのですが、実際はどうでしたか。
リヴァトレを利用してから半年後ぐらいから活動をしていましたが、100社ぐらい応募して、ほぼ書類選考落ちています。2社ぐらいは面接に行ったかな。
初めてオープンで転職活動をしたんですが、急にハードル上がったなって感じましたね。
働く中で、さまざまな工夫をされていると思います。
どんなことをやっていますか。
上司に「今の現場、しんどいです」「辛いです」とアラートを上げるようにしています。
どうやってできるようになったんですか。
相手にも迷惑なんじゃないかなどと考えて、なかなかアラートをあげられない方も多いと思うんです。
最初はできなかったので、上司から「大丈夫?」と日々確認のチャットが飛んできていました。
やりとりをするうちに、「ダメです」しか伝えられなかったところから、だんだん何がダメかを話せるようになって。
上司側から、この人にだったら相談しても大丈夫というラポールを作ってもらえたことが、非常に大きかったです。
逆に、働く中で不安・課題だと思うことはありますか。
週5日リモートワークなんですが、その働き方が変わったらどうしようという不安はあります。
今の案件が終わった後、同じような働き方の案件が見つかるとは限らないので。
変わる可能性があるんですか。
ありますね。
ただ、少なくとも今の案件がある限りはリモートワークが続くので、必要とされるような仕事をしていくしかないと思っています。
アウトプットをきちんとするとか、丁寧にコミュニケーションをすることは心がけていて。
オンラインチャットでのやり取りが多いんですが、齟齬が出やすいんですよ。
だから「すみません、今5分だけ電話するお時間ください」とお願いができるようになりました。
今までと、働き方が全然変わってるんじゃないですか。
そうですね。そのヒントをくれたのが、上司からの声かけで。
アラートを上げる訓練をさせてもらったことで、自分から伝えてもいいんだと思えるようになったと思います。
後日談。フルリモートから週5日出社に変わったものの、安定して働けているそうです。違いや工夫をお話しいただきました。
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双極はたらくラボWebメディア責任者
1999年東京都生まれ。2022年に新卒社員としてリヴァへ入社。