【就活】企業は「知らなかった」では済まされない?双極症当事者の就労環境と公正な採用について考える【前編】

公開日: 2026.7.21

このインタビューでは主に、精神疾患、特に双極性障害を持つ人々の雇用における差別について話し合われました。『双極はたらくラボ』の編集長である松浦が、日経BP総合研究所の主任研究員・小板橋さんにインタビューしました。小板橋さんが執筆した、企業が精神疾患を持つ求職者に対して差別を行うことが多いという記事が話題となりました。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

▼この記事の対談動画はこちらからご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?v=DSv8b3AfWgw

インタビュー要約


・双極性障害などの精神疾患を抱える人が、就職・採用の場で直面する課題をテーマにしたインタビューをお届けします。

・精神疾患を理由に採用を見送られ、「病気を隠すか、伝えるか」で悩む当事者の実情が、企業側に十分伝わっていない現状があります。

・精神疾患は誰にでも起こりうるものであり、差別をなくすためには当事者の声に耳を傾け、社会全体で理解を深める必要があると伝えています。

松浦
松浦

今回は、精神疾患での採用選考についてお話しします。
記事を見てこれは是非お話を伺いたいなと思い、ゲストをお呼びしております。

松浦
松浦

日経BP総合研究所の主任研究員である、小板橋さんです!

プロフィール 小板橋 律子
日経BP 総合研究所リサーチユニット主任研究員。
1996年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。
日経BPの専門誌「日経バイオテク」「日経メディカル」などで、生命科学・医療系を専門に情報発信。
2004年に米国UCSFに留学。文部科学省の科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会、ライフサイエンス委員会脳科学作業部会などの委員も務める。
2024年にニューロダイバーシティ&インクルージョンフォーラムを立ち上げ、神経発達症などの精神疾患当事者の産業界での包摂に尽力中。
趣味は、ストレッチ、チェロ(少々)。発酵食にハマった”発酵女子”





精神疾患での採用選考について

松浦
松浦

私自身も小板橋さんの記事は追わせていただいています。
Xでシェアしたところ、同じ当事者の方にすごく反応していただいたのが、
「ヒューマンキャピタルオンライン」という点です。

※引用元:https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00015/040800084

松浦
松浦

「精神疾患の有無のみでの採用見合わせは就職差別の恐れ」ですね。
例えば、双極症の方でも採用面接で一般職にクローズで応募する人が結構いらっしゃいます。
私も前職までそうだったのですが、障害があることを言ったら不利益になるんじゃないか、
基本は言わない前提だし、オープンにして面接に行くなんて本当にレアだな、と思ったりします。

松浦
松浦

ただ、この記事の切り口から行くと、「不利益になること自体おかしいんじゃないの?」
みたいなところも含め、この記事でお伝えしたかったことを是非聞ければと思いました。
もともとこのテーマを取り上げた背景はあるんですか?

精神疾患の就労に着目した背景

小板橋さん
小板橋さん

取材させていただいてる時に、この話すごく聞くわけですよ。

クローズ就労にするかオープン就労にするか。

当事者とか家族とかの中ではもうみんな知ってる言葉だけど、
『そうじゃない人は全然知らない概念』なわけですよね。

小板橋さん
小板橋さん

でも就労が関わった時に、当事者が一番悩むところの1つとして非常に大きい。
この実態をいろんな方にお伺いしていたので、なんとか記事化したかったんですね。
いろいろ探している中でこのアンケート調査が出てきたので記事にさせていただいたという経緯でございます。

松浦
松浦

アンケート結果が軸にあったんですね。

小板橋さん
小板橋さん

アンケート結果があったのですごく書きやすかったんですね。

ただこのアンケート自体が2023年に行われたものなので、ちょっと古いかもしれないという危惧があって、最新の状況を見える化したいなとはすごく思っているところです。

松浦
松浦

なるほど。

小板橋さん
小板橋さん

この断絶(精神疾患の有無のみでの採用見合わせ)を

知らない人はまるで知らなくて、そんな悩みがあること自体知らない。

ある意味慣れてないわけですよね、精神疾患のある方に。

でも実は身近にいるわけじゃないですか。

慣れてないがゆえになんとなく怖いような感覚になって、
企業側からすると少しでもリスクを減らそうという形で、採用の時に消極的になってしまうと。

こんなに「人不足」と叫びながらこの状況って、産業界においてもジリ貧になるし、
もちろん当事者の方にとっては一生の問題じゃないかって私は思います。

小板橋さん
小板橋さん

どうしても企業さんは職場の安全管理をしなきゃいけない義務がありますので、
その義務が果たせないような健康状態であれば、お断りせざるを得ないわけですよ。

そういう意味で厚労省の方は、合理的・客観的に必要性が認められれば健康診断の実施を許可している。

小板橋さん
小板橋さん

だけど、ここが非常にグレーになっていて、『なんとなくすぐ辞めちゃうんじゃないか』とか、『なんとなく社内でトラブルを起こすんじゃないか』と企業側は考えてしまう。

一昔前には、女性はすぐ辞めちゃうからと言って、同じぐらいの採用レベルだったら男性を採用することが、普通に行われていました。

でもそれはおかしい、そういうことはもう辞める時代になってるわけですよね。

小板橋さん
小板橋さん

企業さんは自分らしく働いてくださいってのをポリシーにしていたりするにも関わらず、
もう入口の時点でイメージが先行してしまい『怖いが故に』採用しない方向になってしまう。


お互いに情報がうまくいっていないがゆえの問題点なんじゃないかなと思っています。

松浦
松浦

元々、一番最初はどのアンケート結果から定義されたのですか?

アンケート結果から気づいたこと

小板橋さん
小板橋さん

レバレジーズさんがいろんな調査を2023年にされていたんですよ。

その記事でかなり引用させていただいたのは、
精神疾患の有無を採用面接の時に確認して、それが採用に影響するかどうかの調査だったんですね。

※引用元:https://leverages.jp/news/2023/1220/3898/

小板橋さん
小板橋さん

その調査の結論としては、
実は皆さん「精神疾患の有無」を重視しています。しかし、コロナで人不足もあり考え方が変わって、あまり重視しなくなりつつあるという結論です。

ただ3割の企業さんがですね、人不足がまだあるけれども、採用基準を見直す予定はないという風に書かれていたのが非常に気になっています。

小板橋さん
小板橋さん

3割の企業に当たっちゃった方々は、困りますよね。

でも、診断されてる方が企業さんは安心できるんじゃないかと思うんですよ。

コントロールする術も分かっているし。お薬が必要だったらお薬も使っている状態。
なのに診断がついてる方が嫌っておかしくない?てのもあるんですよね。

松浦
松浦

はい。

小板橋さん
小板橋さん

少し話が飛躍しますが、
今、日本ではメンタル系の診療所やクリニックが沢山ありますよね。
外来受診の患者さんは今600万人ぐらいです。(動画公開時:2025年11月時点)
この患者数は高血圧症の患者さんと同じか、多いぐらいなんですよ。
精神疾患がある方は、それぐらい身近なわけですよね。

メンタル面でちょっとした困り事があった時に気軽に受診できる環境が整ったことはすごくいいことだと思うんですね。一昔前はそれを全部我慢して、ある時突然どうにもならなくなって自殺されてた方が多かったわけですよ。

松浦
松浦

そうですね、もう手遅れ。

小板橋さん
小板橋さん

現代では、メンタルの調子が悪かったら早めに受診して治療やカウンセリングを受けて、
いい状態に戻ってる可能性が高いわけですよね。

だって、仕事しようと思って応募するわけだから。

なのに、頑張ろうって思ってる人を受診歴があったら採用しませんって…。

松浦
松浦

そうですね。
一回のミスだけで、みたいな。

小板橋さん
小板橋さん

ちょっとあんまりじゃないですか?人生長いんですけど…。

ただ本当にこれは当事者の方が声を上げないとお国は動いてくれません。

小板橋さん
小板橋さん

やっぱり声を上げないとダメなんですよ。

本当はこの記事のタイトルに、就職差別だって書きたかったんです。それを厚労省に説得させようとしてもそれ以上は言えません、と言われてしまいました。

厚労省からすると、ケースバイケースになっちゃうからなんですよね。

小板橋さん
小板橋さん

ただこの記事でも、その担当の方に実際に差別のような扱いを受けたらどうしたらいいんですかと、お伺いしました。

すると、ハローワークとかにしっかりと伝えて下さいと、そういう声が集まったら自分たちも動けると。

松浦
松浦

へー、動けると。

小板橋さん
小板橋さん

そういう声がたまらないと皆さん「え、知らなかった」っておっしゃるわけですよ。

行政の方もそうですし、ビジネスと人権って今、産業界では非常にホットな話題なんですが、
それを専門にやられてるような方にこの話をしても「知らなかった」とおっしゃる。

松浦
松浦

「知らない」のはどのあたりを知らないんですか?

小板橋さん
小板橋さん

「クローズ就労」とかがあるとか。

松浦
松浦

障がいの有無で不利益を得るみたいな。

小板橋さん
小板橋さん

就職時にここで悩むということ自体全然知らない。

松浦
松浦

ああ、そうですか。

小板橋さん
小板橋さん

だから「こんなことある」って、「これは違うと思う」って言っていかないと
誰も動いてはくれないんですね。

ですので、私はこの記事を引っ下げて、省庁だったり、
国連関係の人権に関する部門に説明にお伺いしてるんです。

小板橋さん
小板橋さん

皆さん「知らなかった」とおっしゃる。
すごくここ大事で、これは企業にとってはリスクなわけですね。

なぜなら人権侵害してる、と訴えられて裁判で負けたら、それは企業にとっては非常に大きなリスクになります。そういう意味でも、やっぱり声を上げないといけないんです。

小板橋さん
小板橋さん

あの、悪気はないんです、皆さん。

知らないと何もできないので。

クローズって言うぐらいですから、秘密じゃないですか。

なので、この実態がどうしても浮き彫りにならない。

企業が本来あるべき姿

松浦
松浦

とはいえ、選考に過ぎないじゃないですか。
選考で落ちたら、企業は障害以外のいろんな理由で落ちたって言うじゃないですか。
そこを訴える、とは…?

小板橋さん
小板橋さん

そこはそうなんです。

ただ海外では、国連とかILO(国際労働機関(International Labour Organization))が採用時から合理的配慮をするのが企業の義務であると言っています。
なので、そうやって情報(既往歴など)をもらおうとするのだったら、じゃあそれに対して、企業側はこの配慮ができますとかで、公平性を担保するのが、本来あるべき道なんです。

松浦
松浦

企業側が聞くだけじゃなくて。

小板橋さん
小板橋さん

これは考えてみたら、障害者差別解消法でも言われてることじゃないですか。
でも気づいてないんですよ。

この採用に関わるような企業の人事系の方とお話してても、そこにニーズがあることも気づかれていないので。やっぱり言っていかないとここは変わらない。

松浦
松浦

そもそもじゃあ企業側が「障がいの有無」を聞かなければ、問題はないんですかね。

小板橋さん
小板橋さん

多くの大企業は、特にリスキーなので障がいの有無を聞きません。
大企業さんに向けて、他企業では面接者の障がいの有無を確認していましたよって話をすると、
とても驚かれる。名前の知れた企業さんは皆さんそうなんです。

ですが、障害の有無は聞いてない。

逆に合理的配慮が必要な人への配慮の提供する概念もないということなんですよね。

小板橋さん
小板橋さん

なので「そういう方は障害者枠へ行ってください」となってしまう。

松浦
松浦

そうなりますね。

小板橋さん
小板橋さん

これもまた飛躍してしまうかもしれませんが、
障害者枠って日本のかなり独自の文化ですよね。

歴史的に考えるとすごくそれで就労が保障されるのはあったと思います。

小板橋さん
小板橋さん

ただ、障害者枠のお仕事内容が問題ですね。

この仕事では満足できない、もっと自分は他のところで力が発揮できると思うって思われる方が多いと思いますし。

あとお給料ですよね。仕事内容に見合うようなちょっと単純なものであるとやっぱお給料も低いじゃないですか。そこって、国際的に見るとこれも差別なんですよね。

やはり先ほど申したILOはですね、国連のESGの目標として
2030年までに障害のある人においても、ない人と同じ
「同一労働 同一賃金」を達成することを目標に掲げているんです。

※ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点から企業を評価し、長期的な成長を目指す経営や投資のフレームワーク。

小板橋さん
小板橋さん

でも日本でそんなの聞いたことないですよね。

松浦
松浦

ないですね。

小板橋さん
小板橋さん

その話を誰かにすると、
「確かに一般雇用と障害者雇用では仕事内容が違うからね」っておっしゃる。

でもそこは待ってください。

そうすると、職業選択の自由が保障されていないことになりませんか?と。

松浦
松浦

うーん。なるほど。

小板橋さん
小板橋さん

これは国を挙げてちゃんとやらなきゃいけない大きな問題だと思っています。
だけど皆さんが声を上げていかないと変えようがないんですよ。

松浦
松浦

双極はたらくラボを観てらっしゃる方で、障害者雇用の方もいらっしゃるんですけれども、
一般雇用でどうにか働きたい人が結構多くて、そうなると同一賃金のところに自分を合わせに行くことになります。
そのため、なんとか自分で対処したり、人との関わりを学んだりしている人は多くいらっしゃいます。

障害者雇用の方も努力はされてはいるんですが、それでも会社の中での立場としては少数派であり、弱者であるので、それを主張するとむしろ働けなくなる流れができてしまっています。

小板橋さん
小板橋さん

そうなんですよ。立場が弱い…。

松浦
松浦

だから、小板橋さんのように発信をできる方が広く問題提起して立ち上がるみたいなところは一つ方向性としてあるのかもしれない。

取り組みを始めた理由

松浦
松浦

そもそもこの記事をきっかけに精神疾患について知ったんですか?
元々知ってらっしゃったんですか?

小板橋さん
小板橋さん

日経メディカルの医療従事者向け媒体でずっと編集・執筆をしていたのですが、その中でも精神疾患の取材が好きでした。脳って面白いなって思うんですよね。

特に精神ってやっぱり考え方を変えないと捉えどころがない

仕事人生、この面白い領域にフォーカスしたいって思いも、だいぶ強くなっていました。

小板橋さん
小板橋さん

このニューロダイバーシティの方、インクルージョンフォーラムというのを立ち上げたのもあって、いろんな立ち位置の方とお話をして、取材して、そこでどんどん見えてくることが沢山ありました。

知られていない情報を知って、思わず驚いてしまうようなものが沢山あって…。
歴史の中で蓄積されてきたものがいっぱいありますよね。

松浦
松浦

確かにそうですね。時代の転換点でもあって、
いろんなものが変わってきてる中で気づいてしまった人は何かしら動かざるを得ないのかも。

小板橋さん
小板橋さん

聞いちゃうとさすがに見て見ぬふりもできないし、自分自身も双極症の診断を受けてたりもするので、全然他人事じゃないわけですよね。

皆さんメンタル不調ぐらいするじゃんって思うわけですよ。
WHOのデータだと8人に1人が、今現在何らかのメンタル的なコンディションにあるというデータがあります。

なのに、診断がついた時点で、“障害者”で”排除”や、”メンタル”みたいな”排除”って、おかしいでしょ?というのが根底にありますね。

「後編の記事は後日公開」

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第1章全文公開はこちらから

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