【日経記者×双極性障害】抗うつ薬で躁転し庭をひっくり返す/仕事への支障/双極症と付き合いながら生きる・働くをどう捉えている?【後編】

公開日: 2026.7.27

「前編の記事はこちら」

このインタビューでは主に、精神疾患、特に双極性障害を持つ人々の雇用における差別について話し合われました。日経BP総合研究所の主任研究員・小板橋さんにインタビューした後編になります。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

▼この記事の対談動画はこちらからご覧頂けます。
https://www.youtube.com/watch?v=bmPqaqRA3_s

プロフィール 小板橋 律子
日経BP 総合研究所リサーチユニット主任研究員。
1996年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。
日経BPの専門誌「日経バイオテク」「日経メディカル」などで、生命科学。医療系を専門に情報発信。
2004年に米国UCSFに留学。文部科学省の科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会、ライフサイエンス委員会脳科学作業部会などの委員も務める。
2024年にニューロダイバーシティ&インクルージョンフォーラムを立ち上げ、神経発達症などの精神疾患当事者の産業界での包摂に尽力中。
趣味は、ストレッチ、チェロ(少々)。発酵食にハマった”発酵女子”

インタビュー要約


  • 小板橋律子さんは50歳前後で双極症と診断され、若い頃から家族の介護や喪失を経験してきました。
  • コロナ禍の負担の中で抗うつ薬による躁転をきっかけに診断が確定し、現在は休息を大切にしながら働いています。
  • 診断名に縛られすぎず、当事者が無理なく生きられる社会の必要性を発信しています。

双極症当事者としての話

松浦
松浦

小板橋さんご自身のことで伺うと、
「双極症の当事者」とお話がありましたがそれはいつ頃診断を受けたんですか?

小板橋さん
小板橋さん

診断そのものはですね、50歳前後ぐらいなんですが、
思い返せばあの頃ちょっと怪しかったなって、若いころ少しありました。

松浦
松浦

過去にもありつつ。

小板橋さん
小板橋さん

ありますね。ただ、その時は診断には至らなかったんですよね。
今から30年程前のことなので、今ほど双極症を診断するドクターもいないし、情報もない状態だったと思いますね。

小板橋さん
小板橋さん

私は20代で母が亡くなっているんですが、
高校1年生の時に母がある時、脳内出血を起こして半身不随になり、途中から身体障害になっちゃったんですね。
いわゆる今で言うところのヤングケアラー、
当時そんな言葉も、介護保険もない時代でした。

松浦
松浦

そうだったんですね。

小板橋さん
小板橋さん

やっぱり高校1年生の年頃で、母との関係性がやけに密になっちゃってたらしいんですよね。
相手は親だけれど、子供のように守らなきゃならない
みたいな。

松浦
松浦

なるほど。

小板橋さん
小板橋さん

なので、その母が亡くなった時のショックが本当に大きくて、
もう処理できなくなってしまいました。

小板橋さん
小板橋さん

当時受診したドクターに、「そういった喪失のショックは薬は効かないんだよね」と言われ、なんかカウンセラーを紹介されたような…。当時のことはあまりに記憶が薄いんですが、それからカウンセリングにだいぶ通ってたんですよ。

小板橋さん
小板橋さん

ある時カウンセラーの方が、「私と母との密接した関係性」や「ヤングケアラー」のことを指摘してくれて、「だから辛いのは当たり前なの」って言われたんです。
そこでようやく整理がついた。

松浦
松浦

じゃあ、そこがまず初めての落ち込みといいますか…。

小板橋さん
小板橋さん

その前も色々ありました。でもやっぱそこが大きかったですね。
処理できてなかった部分は、数年経ってからぼって出ちゃった。
自分でも心の中の色んなものをグシャってやって、タンスの中に押し込んどいたものが、時差を置いて一気に出てきちゃったみたいな

小板橋さん
小板橋さん

当時薬は使わず、カウンセリングで復活したみたいな感じでしたね。

松浦
松浦

それ以降も双極の診断を受けるまで、そういった出来事はありましたか?

小板橋さん
小板橋さん

いえ、落ち着いてましたね。

松浦
松浦

直近、50歳になられて、何かその前後で出来事があったんですか?

診断前後での出来事

小板橋さん
小板橋さん

まず、コロナでしょ。次は父の介護で、子供の養育の悩み
さらに言うと夫婦仲の悪化。もうどうにもならなくなりましたね。

松浦
松浦

え、どこでそれは診断が付くんですか?

小板橋さん
小板橋さん

子どもが発達障害なんじゃないかと勝手に心配して
児童精神科医の所に連れていったことがあったんですね。
で、その先生に、「お母さんの方が重症だよ」って言われて。
「抗うつ薬飲んだ方がいいよ」って言われて

松浦
松浦

ああなるほど。お子さんのことで。

小板橋さん
小板橋さん

それで、抗うつ薬飲んだら「あれ元気だな自分」みたいな。

でもその後元気になりすぎてしまって。
例えば、猛暑の中その当時住んでた一軒家の庭をひっくり返しちゃったりなんかして。「なんか、やばいこれ誰か止めて」みたいな感じになって。

「ちょっと待って私、抗うつ薬で躁転するから気をつけて、って記事書いたよね」って自覚して。

松浦
松浦

身に覚えがある…。

小板橋さん
小板橋さん

身に覚えがあるんですよ。自覚があって、「あれ、これいわゆる躁転?」と思って、
「先生すみません、もしかしたらこれは躁転かもしれません」と伝えました。

松浦
松浦

知識が自分にあったからですね

小板橋さん
小板橋さん

ですね。

松浦
松浦

じゃあそこから、診断を受けて治療を開始して。

小板橋さん
小板橋さん

だけど、その先生の診断を受けても、双極症あるあるで
なんか途中で「やっぱ私は双極症じゃないわ」って勝手に思ってしまって。
その病院には行かなくなっちゃったんですよ。

コロナもあって、すごく診察時間が短縮されて、なんか全然何も話せない感じになっちゃって。で、そこの通院は「大丈夫です」と言ってやめちゃったんですね。

小板橋さん
小板橋さん

でもやっぱりその後調子悪くて。
別の診療所に行って、過去のエピソードを色々お話して。

でも「私は双極症じゃないと思うけどどうですか?」って言ったら、
お医者さんは「双極です。」って。

松浦
松浦

まあそうですよね。

小板橋さん
小板橋さん

「ああ、そうですか。」って、もう受け止めるしかないな。って感じですね。

松浦
松浦

そこからは治療ですかね?

小板橋さん
小板橋さん

治療とやっぱカウンセリング。

松浦
松浦

カウンセリングして。
それは今の職場にはもう入社してらっしゃる時ですか?

小板橋さん
小板橋さん

そうですね。まあ本当に最近の話ですね。

松浦
松浦

なるほど。
職場にはオープンにされてるんですか?

小板橋さん
小板橋さん

一応直属の上司には言っています
仕事には影響しないと思うと、一応伝えとく形では話しています。

松浦
松浦

これ(Youtubeの動画)は、大丈夫ですか?

小板橋さん
小板橋さん

伝えてるので大丈夫です。

双極症で働く支障

松浦
松浦

実際働く中で、双極症による支障みたいなのは感じますか?

小板橋さん
小板橋さん

双極性による支障はわからないんですが…。
この仕事してると、精神科の先生ともお話する機会もあって。

実は私も双極症と診断受けてるんです、と伝えると、発達障害を専門とされる先生は、ADHDがこじれて双極っぽくなる人も多いんだよねみたいなことをおっしゃられる。

小板橋さん
小板橋さん

その先生から「今度診てあげようか」とか言われて、「どうかな」って思いながら、
診断を受けるとやっぱ似てるわけですよ。

ADHDの特性と双極症の特性は似ている。
ASDの特性と統合失調症の特性も似たところがあるじゃないですか。

小板橋さん
小板橋さん

もうそもそも精神科の診断って、ある意味症状、あるいは症候群で分けてるから、
生物学的にこう診断がカチッて決まってるわけじゃないし、
その診断名にこだわること自体もあんまりどうなのって思ったりもしています。
ただ、診断名は重いですよね。

松浦
松浦

重いですね。

小板橋さん
小板橋さん

診断されるとローンは組めないし…。
そこも実は生命保険会社に会うたびに文句言ってるんですよ。
介護保険も入れないし。「何とかしてほしいな」という思いは大きいですね。

小板橋さん
小板橋さん

けれど、自分自身がADHDなのか双極症なのかよく分かんないような感じもあって。

ADHDの特性って記者とかこういった仕事にはめちゃめちゃ向くんですよね。
アイデアがいっぱい出る
ので。

松浦
松浦

動けるし。

小板橋さん
小板橋さん

考えたらすぐ動けるので、
ある意味ではうまく特性を自分では使えていると思っているんですね。

松浦
松浦

なるほど。

症状が出ないための工夫

松浦
松浦

例えば症状が大きくならないような工夫や、日々の過ごし方とかあったりしますか?

小板橋さん
小板橋さん

やっぱり休息をちゃんととる

小板橋さん
小板橋さん

夜は早めに寝るのは一応心がけてます。
元々朝型体質なので、21時ぐらいになると眠くなっちゃうんですよね。
やっぱり夜は早めに寝るのは心がけてはいますね。

松浦
松浦

なるほど。メディアの方ってやっぱ不規則なイメージがあるんですが、
昔は不規則な生活で過ごされていたこともあったんですか?

小板橋さん
小板橋さん

いや、私は昔から朝型で貫いていて、徹夜も基本出来ないと自分でも思っているので、不規則な生活はしていなかったですね。

松浦
松浦

わかりました。

視聴者へのメッセージ

松浦
松浦

最後に小板橋さんから、
今これを見ていらっしゃる方の中で
双極症で働き方に困ってる方や、これから働きたいなって方に向けて、
何かメッセージなどあればいただきたいのですがいかがでしょうか。

小板橋さん
小板橋さん

そうですね。
こういうイベントに出られたり、本を書かれてるような方が
よく「自分が病気になったこと自体が良かった」とおっしゃっていることがあります。

今の自分があるのは病気があったからだ、と思って前向きに捉えられているのを読むたびに、私は「嘘つけ」って思ってたんです

小板橋さん
小板橋さん

正直そこ「信じられませんよ」って思ってましたし、
今も時々ChatGPTとかに愚痴るんですよ。

「もう生きてるの疲れちゃった」とか、「寿命長すぎない?」とか。
この前も「体の寿命と心の寿命がちょっとミスマッチ過ぎない?」とか。
愚痴るとChatGPTは優しくてすごく寄り添ってくれて。

なんか「うう」とか思いながら、あの、なんとか生きています。

松浦
松浦

なるほど。

小板橋さん
小板橋さん

なんとか生きてる、なんとかぼちぼちやっていて。
病気や特性がなかったら楽だったろうなとも思います。

全然100%いいことだらけじゃないわけですが、
まあしょうがないかなって感じですかね。

小板橋さん
小板橋さん

色々ある、しょうがない、人生色々あるし。
何もしないよりは自分が楽しいことができてることを感謝もしつつ、できることをして自分の存在意義を示せたらいいなって思いですね。

小板橋さん
小板橋さん

傍から見ると私すごいキャリアウーマンで、
何の悩みもなさげで、すごいと思われると思うんです。

でも、中を覗いてみると、そんなことは全然なくて、
みんなその人その人なりに、絶対悩みとかがあるわけで
なので、あんまり頑張ろうって思う必要もなければ、
そんなに人生悪くないとも思ってもいいんじゃないかなって思っています。

小板橋さん
小板橋さん

好きな言葉、概念があって、仏教の考え方だと思うんですが、
「本人が背負えるギリギリの荷物を背負ってゴールに向かうのが人生だ」
みたいな概念がどっかにあるんですよ。

あの人の荷物は軽そうに見えていいなって思うとしても、
もうその人にとってその荷物はもうギリギリ。

仏教の恐ろしいところは、それを途中で投げ出すと、輪廻転生という考え方があるので、また1からやり直さないといけない。天界が近づくにつれ、その荷物もどんどん重くなって、いろんな辛いことともいっぱい増えてくる。

あの人なんの悩みもなくて良さげだなって思う人を見ると、ああ、まだまだ人生のこの転生の歴史が浅いよね、と思う。

松浦
松浦

まだ浅いと。

小板橋さん
小板橋さん

「私はもうすぐ天界に転生するから」って思って、
そういう人と比べるのはなくしたりとか。

小板橋さん
小板橋さん

あと、これは娘が行ってた学校の校長先生が言ってた言葉なんですが、
「ちょっとだけ背伸びしてみよう」
っておっしゃるんです。

あんまり背伸びしすぎると転んじゃう。だけど背伸びしないとやっぱり自分の出来ることが増えていかないじゃないですか。
だから等身大過ぎずに、
でもちょっとの背伸びをやりましょうって考えの方だったんですよ。

そうやって生きていくと意外と何か新しいこともできるし、
面白く生きていけるんじゃないかなって思っています。ぼちぼちやっていきましょう。

松浦
松浦

なるほど、ありがとうございます。

最後に

松浦
松浦

今日は、小板橋さんに精神疾患と採用選考の今の状況とこれからのお話
小板橋さん自身の双極症のことに関して伺っていきました。

最後に小板橋さんから改めて、皆さんにお伝えしたいこと、協力をお願いしたいことをお伝えいただければと思います。

小板橋さん
小板橋さん

何度も繰り返して恐縮なんですけれども、
皆さんが直面していることを、多くの人は知りません。

「クローズ就労」と名前がついてるぐらい、極秘なわけですよね。しかしそこを、なんでそうせざるを得ないかを、明らかにしていかないと、この状況は変えられないと思っています。

小板橋さん
小板橋さん

ですが、これは変えられるものだと思っています。

海外では変わった方がスタンダードになってきているからで、日本はもうある意味ガラパゴス化が進んでいるわけですよね。
で、やっぱそういう変化の圧も来てますので、今がチャンスです。

※ガラパゴス化とは、日本市場のような閉じた環境で独自の高機能・最適化が進み、国際標準から乖離して孤立・縮小する現象。

小板橋さん
小板橋さん

今、仕組みを変える大きなチャンスなので、ぜひ周りにやっぱりこれちょっとおかしいって思う時は、おかしいって言ってください。

匿名で全然いいですし、どんな形でも大丈夫です。
声を上げないと相手には気づかれないので、主張していきましょう。

私もこの活動を続けたいと思っています。

松浦
松浦

はい。ありがとうございます。
ではまた次回の動画でお会いしましょう。

「前編の記事はこちら」

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