双極症(双極性障害)の診断・治療法につながる原因部位を特定【加藤忠史先生】

公開日: 2026.6.29

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この記事の要約

  • 双極症とADHDなどが併発する場合、どちらを優先に治療するかを見極めることが重要であり、薬物選択も慎重に行う必要があります。
  • 双極症は、他の精神疾患との整合性を取るために「障害」から「症」へ名称変更されました。
  • 最新の研究では視床室傍核が双極症の原因部位と考えられており、現在の治療薬もこの病態に基づいており、双極症は基本的にはコントロール可能な体の病気だと考えられます。

双極症と発達障害の併発

先生のもとを受診される方の中には、発達障害・発達症を併発されている方もいらっしゃると思います。
もちろん先生の中では適切に鑑別されていると思いますが、双極症とADHDには共通する部分や、症状が似て見える部分もあると言われています。

双極症とADHDを併発している場合、実際にはどのような支障が生じやすいのでしょうか?
また、治療の現場では併発をどのように捉え、どのような方針で対応されているのか、先生のお考えをお聞かせいただけますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

併発症がある場合、双極症そのものはかなり安定していて、躁状態やうつ状態がみられないこともあります。
一方で、トラウマに関する悩みや、発達障害・発達症による困りごとを抱えているケースがあります。

そのような場合、「双極症がまだ治っていない」と感じている方でも、実際の生活上の困難の原因は、双極症そのものではなく、併存している症状や疾患にある、というケースは少なくありません。

はい。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

では、併発している場合にどのように対応するか、という点についてです。

特にADHDを併発している場合には、ADHDの治療薬によって双極症の状態が不安定になってしまうことがあります。
そのため、ADHDの治療薬の中でも、比較的双極症を悪化させにくい薬を選び、必要に応じて慎重に使用するようにしています。

加藤先生
加藤先生

もし、それ以上の効果が期待できる薬、たとえば コンサータ を使用する場合には、慎重な判断が必要になります。

その方が現在抱えている生活上の困りごとが、本当にADHDによるものなのか。
あるいは、その症状は比較的軽度で、むしろ双極症を安定してコントロールすることの方が、その方の人生にとって重要なのか。

そうした点を丁寧に見極めながら、どちらを治療の中心に据えるべきかを判断しなければならない場面も、実際には少なくありません。

私自身まだ勉強不足なのですが、双極症とADHDを併発している場合、コンサータ 以外には、どのような薬が使用されるのでしょうか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

「インチュニブ」は、比較的悪くはないと言われています。

でも先生から見ても、併発の方を治療するのは難しいんですよね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。非常に難しい問題になります。

自閉スペクトラム症などの発達障害と双極症を併発している場合でも、たとえば本格的な双極Ⅰ型障害があり、そのうえで自閉スペクトラムの傾向がみられる程度であれば、双極症の治療を中心に進めることで、うまくいくケースもあると思います。

加藤先生
加藤先生

一方で、発達障害が主な背景にあり、その二次的な影響として双極症に近い症状が現れているような場合には、むしろ発達障害に対する生活指導や環境調整を中心に支援していく方が望ましいことがあります。

薬物療法を補助的に用いることはあっても、それだけで根本的な解決を期待できるケースばかりではありません。

こういった鑑別は、できる先生も限られているんですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

「できる・できない」というより、正直なところ、日常の外来診療では十分な時間を確保するのが難しい、という問題があります。

たとえば、一人の患者さんについて、一回のディスカッションに1時間ほどかけて、皆でじっくり話し合うこともあります。
ただ、外来診療で毎回1時間かけていると、どうしても待っている方の列ができてしまいます。
結果として、「お待たせして申し訳ありません」という状況になってしまうんですね。

そういった現状があるんですね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

日本の医療は基本的に誰でも受診でき、いつでもどこでも医療機関を自由に選べるという、非常にフリーアクセス性の高い仕組みになっています。また、自己負担も含めた医療費は、国際的に見て比較的低く抑えられていると言われています。

加藤先生
加藤先生

北欧やイギリスでは医療が原則無料、あるいはかなり低い負担で受けられる一方で、アメリカのように医療費が非常に高い国もあります。日本はそれらと比べると自己負担は比較的抑えられていて、その代わり診療時間や医療資源にはどうしても限りがあります。

今の医療の形というのは国民全体として選んできた仕組みでもあるので、その中でできることをやっていくしかない、というのが現実的なところですね。

その環境だからこそ、なかなか併発を見分けるのが難しい。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。双極症の立て直し入院でも、いろいろなクリニックの先生方から紹介状をいただくことがあります。

ただ、紹介状を作成していただくこと自体にもかなり手間や時間がかかりますし、日常の外来の中で対応していただいていることを考えると、本当にご負担をおかけしているのではないかと感じることもあります。

加藤先生
加藤先生

紹介状の作成をお願いするだけでも、その日の外来がいっぱいになってしまうことがあるのが現状です。
そういった意味でも、日々ご協力いただいているクリニックの先生方には、本当に感謝しなければならないと思います。

詳しくお話しいただき、ありがとうございます。

松浦
松浦

あと二点ほどお伺いしたいのですが、まず双極性障害の名称変更についてお聞きしたいです。

前回インタビューさせていただいた際に、これから双極性障害は「双極症」という名称に変わっていくというお話を先生から伺った記憶があります。現在は、すでに双極性障害から双極症へ名称が変更されたという認識でよろしいのでしょうか。

松浦
松浦

双極性障害と双極症

加藤先生
加藤先生

いえ、まだ正式には変わっていません。

この点には、公的文書で使用される疾患分類である、WHOの「ICD-11」が関係しています。英語版はすでに完成していますが、日本語版がまだ整備途中であり、また総務省による告示も行われていない段階です。

そのため、「ICD-11」が正式に国内で採用された時点で、正式な名称として「双極症」に移行していくものと考えられます。

先生は積極的に「双極症」の発信をされていると思いますが、
「双極性障害」から「双極症」という呼び方に変えたことで、何か変化を感じることはありますか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

これは双極に限った話ではなくて、精神疾患全体で同じような流れなんですね。

たとえば「パニック障害」が「パニック症」になったり、「不安障害」が「不安症」になったり、「強迫性障害」が「強迫症」になったりと、少しずつ「障害」という言い方から「症」という中立的な表現に変わってきています。

その中で双極だけが長く旧来の「双極性障害」という名前で残っていたのは、単純に言うと、もともとの用語としての定着が強かったからですね。

加藤先生
加藤先生

なので、「双極性障害が双極症に変わります」というよりは、むしろ「双極性障害だけがこれまで変わっていなかった」というのが当時の状況に近いと思います。

それがDSM-5-TR※1の流れも踏まえながら、「双極症」という呼び方になってきて、他の疾患名と同じような形で揃ってきた、というのが現在の位置づけですね。

※1 DSM-5-TR:米国精神医学会が発行する、精神疾患の診断・統計マニュアルの最新版(2022年発売、日本語版2023年)

先生も、この名称変更については、さまざまな書籍で触れられていると思いますが、改めて「障害」から「症」へと変更することの意味合いについてご説明いただいてもよろしいでしょうか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

正直なところ、今回の「障害」から「症」への変更は、そこまで大きなインパクトはないのではないかと思っています。

ただ、今となってはあまり口にしにくいのですが、以前、統合失調症の前の病名から「統合失調症」へと名称が変更されたときは、本当に大きなインパクトがありました。
それまでは、その旧来の病名では、患者さんに病名をそのまま告知すること自体が難しい状況だったんですね。

そうだったんですね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

なので、当時は病名をあえて伏せておくのがむしろ一般的な対応だったわけです。
ところが、「統合失調症」という名称に変わったことをきっかけに、現在では病名をきちんと伝えることが当たり前になってきました。当時はまさに180度に近い大きな転換だったと思います。

それに比べると、「双極性障害」から「双極症」への変更については、そこまで強いスティグマが付随していたわけでもなく、実際の臨床現場でのインパクトもそれほど大きくはないのかな、という印象ですね。

加藤先生
加藤先生

「障害」という名称がなくなり「症」になったことで、偏見が減ってよかったという声がある一方で、「双極症は本来“障害”と言うべき重い病気なのに、軽く聞こえてしまう」と感じる方が今でもいらっしゃるのも事実だと思います。

ただ、双極症でも重症であったり、再発のコントロールがうまくいかず、仕事や日常生活に支障が出る場合には、障害者手帳の取得や障害年金の受給が行われることは、特別なことではなく普通のことです。

加藤先生
加藤先生

双極症の患者さんの中には、障害と認定されている方もいれば、そうでない方もいらっしゃいます。
そのように幅のある状態を含むのであれば病名そのものに「障害」という言葉を用いることについては、どうなのかなと思いますね。

なるほど。
ありがとうございます。

松浦
松浦

加藤先生の研究

最後に、双極症に関して、
先生が携わっていらっしゃる、もしくはご存じの研究の中で、当事者の方にとって少しでも希望につながるような研究や取り組みがあれば、ぜひ教えていただければと思います。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

最新の研究の話としては、まだ論文としては正式に出版されていないものになります。(撮影日は2025年12月2日。その後、2026年1月7日付で論文が公開されました。)

私自身、36年間双極症の研究をやってきましたけれども、原因解明という意味では、ようやくゴールに近いところまで来たのかなという実感があります。

加藤先生
加藤先生

研究を始めた頃は、脳の中の代謝を直接調べれば何か分かるんじゃないかと思っていたんです。
ただその後になって、そもそも脳のどこの代謝を見るべきなのか、という視点が抜けていたことに気づきました。

双極症って脳全体の病気というよりは、どこか特定の回路とか領域の問題なんじゃないかと考えるようになって、「じゃあ原因はどこなんだ?」という問いにたどり着いたのが、研究を始めてから15年くらい経ってからですね。

そうなんですね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

その後、その「どこを見るべきか」という点を探していく中で、ようやく見えてきたのが「視床室傍核(ししょうしつぼうかく)」という部位です。
この領域が、おそらく双極症の発症や病態の中心に関わっているのではないか、と私は考えています。

加藤先生
加藤先生

ただ、その論文が出たとしても、世界中のいろんな研究者が確認して、再現できるかどうかが確認されていく必要がありますし、それが定説になるまでには、やっぱり10年、20年くらいはかかるんじゃないかと思っています。

ただ、双極症の原因に関わる場所としては、
おそらく「視床室傍核(ししょうしつぼうかく)」ではないかと考えています。

視床室傍核(ししょうしつぼうかく)」なんですね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

その場所がはっきり分かってくれば、その部位の機能をどう改善していくかといった治療につなげることも考えられるようになりますので、ようやくスタート地点には立てるのかなという感覚があります。

今は、いわば「始まりの終わり」が近づいてきているような段階なんじゃないかなと思っています。

ちなみに、その視床室傍核はどんな機能なんですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

視床室傍核は、「セロトニン」とか「ノルアドレナリン」といった神経伝達物質が脳で一番多い場所だと言われています。

そしてこの領域では、恐怖に関わる扁桃体と、報酬に関わる側坐核という、ちょうど対照的な二つの場所に向けて、一つの神経細胞が枝分かれして両方に刺激を送っているんですね。

加藤先生
加藤先生

そんなふうに恐怖と報酬の両方を刺激して、一体何をしているのか不思議な神経回路ですよね。
ですので、感情がプラスかマイナスか、とは関係ないということになります。

加藤先生
加藤先生

そうすると、その視床室傍核は何をしているのかというと、感情の“強さ”を調整している場所ではないかと考えられます。

そしてその部分が何らかの理由で過剰に興奮していると、結果として、すべての感情が必要以上に強く出てしまう可能性がある、ということになります。

そういった仕組みなんですね…!

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

人間はふつう、情動と認知のバランスを取りながら生活していると考えられますが、そのバランスのうち情動の比重が強くなってしまう状態が、双極症に関係している可能性があると考えられます。

また、視床室傍核の過剰な興奮性については、細胞内のカルシウム濃度の変化などが関与している可能性があると考えられます。

加藤先生
加藤先生

双極症の患者さんに投与されているリチウムはカルシウムを下げる作用があり、バルプロ酸やラモトリギン、カルバマゼピンといった薬は、神経細胞の興奮性を下げる作用があります。

また、双極症に有効な非定型抗精神病薬としては、クエチアピンやルラシドン、オランザピンなどがあり、これらはセロトニン受容体を遮断する作用があります。

加藤先生
加藤先生

この病態パスウェイ※2に対して、現在使われている薬はすべて直接効果があるものなんじゃないか、と考えられます。

そういった意味では、すでに双極症の病態そのものに働きかける薬は見つかっているとも言えますし、最新の治療ガイドラインでも、リチウムや抗てんかん薬、抗精神病薬などを組み合わせて使用することの有用性が随所に示されています。

※2 病態パスウェイ:生体分子・神経回路がどのように相互作用し、疾患の発生や進行に至るかを示す一連の経路のこと

そうなんですね。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

このように異なる作用のメカニズムの薬を組み合わせて使うことは、内科の他の領域ではごく一般的に行われていることです。

双極症の治療においても、作用機序の異なる薬剤を組み合わせて使用することはすでに臨床現場では標準的になっていますが、こうした治療方針は病態研究からもサポートされる可能性があると考えられます。

支援の現場で双極症についてお話しする際、「薬はあるものの、それがどのように作用して症状が改善しているのかは、まだ十分には解明されていない」という説明がされることがあります。

ですが、視床室傍核のような枠組みで考えると、全部つじつまが合うということですか?

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

そうですね。
もう一つ言うと、認知行動療法は、乱れた情動と認知のバランス、つまり情動が強くなってしまっている状態を、認知の方に傾ける治療法です。
この認知行動療法のメカニズムについても、この病態から説明できる可能性があるのではないかと思います。

私もここまで詳細に伺ったのは初めてでした。
以前も先生にこういったお話を伺った時に、救われたような気持ちになりました。

私自身、軽躁やうつの状態になったとき、例えば嬉しい気持ちが出てきた場面でも、「これは軽躁によって過剰に嬉しいと感じているだけで、本来の自分なら思わない感情なのではないか」と考えてしまうことがありました。

一時期は、その嬉しい気持ち自体を感じてはいけないのではないか、とさえ思っていました。

松浦
松浦

先生のお話を聞いたとき、あの時の私は、本当に嬉しい気持ちを感じていて、それが強く出ているだけだとすると、本来の自分は変わらず「そこにいる」という感覚が持てて、とても安心しました。

理論から先生が解明された部分もあるのだと思いますし、一当事者としても救われるようなご説明だったなと感じます。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

よかったです。
私正直、この36年研究してきた、と先ほど言いましたけれども、
まだ何も臨床に貢献できてないんですね。

加藤先生
加藤先生

何一つ薬ができたわけでもなく、診断検査法が確立できたわけでもなく、本当に何をしてきたのかと思うところもあります。

一方で、この病気の原因を解明することは、必ずしも診断法や治療法の確立だけを意味するものではなく、その病気がどのようなものかが理解できるようになるだけでも、自己理解につながったり、病気に対する偏見を減らしたりすることにつながる可能性があります。

そういう意味では、それ自体にも意味があることなのではないかと、私は考えたいところです。

すごく意味があることだと思います。

ここまで研究が進んでいるんだなということもお話を伺って感じましたし、すっと胸に落ちるような感覚もありました。
お話を伺えてよかったです。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

ありがとうございます。

今回は加藤先生をお招きして、
「双極症とはたらく」ことで色々伺ってきました。

最後にですね、「双極症とはたらく」で困っている当事者の方、もしくはその周りの方に向けて、加藤先生から何かお伝えしたいことや、情報があればお願いします。

松浦
松浦

視聴者の方へメッセージ

加藤先生
加藤先生

そうですね。
双極症ってのは、とにかく数多ある病気の一つで、
高血圧とか糖尿病と同じような体の病気なんですよね。

症状が気分とか心に出るので、精神疾患と呼ばれているんですけれども、症状が心に出ているからといって、原因が心にあるわけじゃないです。

単に体の病気なわけですので、何も特別なものと考えなくてもいいんじゃないかと思います。

加藤先生
加藤先生

そして実際に、薬が効きますし、症状をコントロールするための方法もいくつかあります。

ただ、「コントロールできるはず」と言っても、実際にはうまくコントロールできていない方も多くいらっしゃいます。そのような方のために、入院プログラムなども行っています。多くの場合、そうした取り組みを通して、なぜコントロールが難しくなっているのか、その原因が少しずつ明らかになっていきます。

双極症は、基本的にはコントロール可能な側面が大きい病気だと考えられますので、諦めずに自己コントロールを目指していただければと思います。

ありがとうございます。
では、今日の動画は以上となります。

では、また次の動画でお会いしましょう。

松浦
松浦
加藤先生
加藤先生

ありがとうございました。

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