
双極性障害は数多くある身体の病気の1つ ~国内研究の第一人者(加藤忠史)に聞く「双極性障害と働く」~
双極性障害の国内研究の第一人者である順天堂大学医学部、加藤忠史主任教授。双極性障害の治療に関する研究をする傍ら、2021年には順天堂医院で双極性障害の専門外来と入院プログラムも開始。
長年、研究の第一線を見続け、患者さんとも直接関わってきた加藤先生が「双極性障害と働く」についてどんな考えをお持ちか、また一貫して双極性障害に関する取り組みをしてきた活動の源泉がどこにあるのか。双極性障害の当事者で当メディア編集長の松浦が、ロングインタビューを実施しました。
全5回にわたるシリーズの最終回です(公開日の3月30日は世界双極性障害デー)。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉
国内研究の第一人者に聞く「双極性障害と働く」

プロフィール 加藤忠史(かとう・ただふみ)
順天堂大学医学部精神医学講座 主任教授
1988年東京大学医学部卒業。滋賀医科大学にて博士(医学)取得。2001年理化学研究所脳科学総合研究センター(現・脳神経科学研究センター)精神疾患動態研究チーム・チームリーダー。2020年より現職。著書は多数あり『双極性障害【第2版】』(ちくま新書)、『これだけは知っておきたい双極性障害』(翔泳社)など啓発を目的とした一般書も多い。また、Twitter(@KatoTadafumi)を使った情報発信もされている。
研究はライフワーク

加藤先生は生涯、研究を続けていきますか?
もう、今から他のことやっても駄目でしょう(笑)。人生も最後の3分の1に入ったところですし。
そういう意味では、後進の育成が大きな課題になってきていて「自分1人でやる」という考えは捨てないと駄目だなと思っています。


加藤先生のご年代で、Twitterで定期的に発信されている方は稀だなと思いますが、先生は更に研究をされながら一般書を含め多数出版もされています。
精力的に活動されている源泉は何ですか?
それは、生きているからということですかね。


やりたくてやられていると。
ライフワークとしか言いようがないですね。
私は学生時代あまり真面目な学生じゃなかった。大学に入ってからは全然勉強していなくて、音楽に凝って作曲をしたりしていました。


へー、そうなんですか。
大学6年のときに、医者をやりながら作曲とかもするマルチタレントみたいな働き方が格好良いと思っていました。
それで、音楽出版社に自分の書いた曲を持って行って、聴いてもらいました。
私は「君は才能ないね、駄目だね」か「君才能あるね、良いね」かの二者択一の返答を想定していたのです。
そうしたら実際は「なかなか良いけど、ここが良くないから、直して持って来て」でした。


うんうん。
その瞬間「そうか。どんなことだって時間がかかるんだ」と思いました。
わずかな才能を基に、エジソンじゃないですけど、1%の才能と99%の努力で初めて何事かを成し得るのであって、時間とエネルギーは必要だと。
だから、二足の草鞋で両方ちゃんとしたことなんかできやしないなと。
「せっかく東大の医学部に入ってこれから研究しようと言っているのに、それに人生かけなくてどうすんだ」と考え直しました。
まぁ、もしそのとき辞めなかったら今頃、YouTubeで音楽を配信していたかもしれない(笑)。
「研究するということに人生をかけなきゃ駄目だな」と思った次第です。


学生のとき「1つのことに人生をかけなくてどうするんだ」と考えられて、今に至ったのですね。
それは間違っていなかったなと思われますか?
研究面では間違えていなかったと思います。研究はとても時間がかかって、しかもほとんどが失敗で、終わりもないし。100%の努力が必要とされる仕事だなと思いますね。
だから片手間でやってパフォーマンスが上がらないのは、当たり前で。
ただ、もっと何とかならなかったのかとは思いますねぇ。色んなことに時間がかかりすぎて、タイムリミットになりつつあるので。もっとうまい方法はなかったかと、より上手にできたんじゃないかと思うことはありますね。


ちなみにどんなジャンルの音楽なんですか?
バンドで『カシオペア※1』とかもやっていましたし『山下達郎』とかも。
私はキーボードでした。



先生がキーボードを。昔からピアノをやられていたとかですか?
いや、全然やっていなくて。
子どもの頃からちゃんとトレーニングしてない人がいくらやっても『パット・メセニー・グループ※2』とか見ていたら、あんな風に演奏できるとは絶対思えないし。


先生の知らない一面が伺えて嬉しいです。
※1.1977年に結成された日本のフュージョン・バンド
※2.1977年に結成されたアメリカのジャズ・フュージョン・バンド
双極性障害は数多ある身体の病気の1つ

最後に、双極はたらくラボの読者の方へメッセージをいただけますでしょうか。
双極性障害は数多ある身体の病気の1つで、そんなに特別視しなくていいんじゃないかなと思います。
大体の人は何か持病を持ってますよね。
例えば100%の治療が難しい病気、5年生存率が何%という病気がたくさんある中で、双極性障害はかなり治療法が確立していて、病気群の中では予後の良い病気になると思います。
ですが、双極性障害の患者さんの中には「障害(ディスアビリティ)」だと思っている方が多い印象です。
病気っていうのは治したら回復するじゃないですか。障害っていうのは一生抱えていって治らない部分があるから障害というわけですが双極性障害の「障害」は「ディスアビリティ」ではなく「ディスオーダー(症)」なのです。
だから「双極症」と名前が変わる。


双極症にかかっても、それが上手くコントロールできているなら、必ずしも「ハンディキャップを背負っている」と思わなくてもよいと思います。
しっかり薬などでコントロールをしていれば、障害ではない人もたくさんいると思います。だから「双極性障害」=「ハンディキャップなんだ、ディスアビリティなんだ」と思わなくても良いのではないか、治療をして治そうという方向に考えてみてはどうかと思います。
症状が改善に向かわない場合は何かうまくいってないかもしれないから、色々と対処法を見直していったら、多くの場合はコントロールできます。


先生が現在、症状が改善に向かわない方に対して実施している取り組みをご紹介いただけますでしょうか。
私のいる順天堂大学(東京都文京区)では、『気分障害専門外来』と『双極性障害治療立て直し入院』を始めました。もし「双極性障害なのにコントロールができなくて困っている」という方がいらっしゃれば、一緒に考えて解決していきたいですね。
ひょっとしたら双極性障害じゃないのかもしれないし、薬が合ってないのかもしれない。考え方を少し調整したらいい場合もあります。
色々なケースがあるので一度ご相談にのらせていだたいて、生活の質を上げることにご協力できればと思っています。


今回は長時間のインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

(執筆/双極はたらくラボ事務の人、校正・校閲/大倉愛由、編集/松浦秀俊)
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編集部メンバー/株式会社リヴァ 運営組成部 部長/知的財産アナリスト(特許)
1983年東京都生まれ。23歳の時に双極性障害を発症。リヴァの社会復帰サービスを利用したのち、起業などを経て2020年に同社入社。現在も通院を続けながら管理部門の責任者をしている。専門分野は知的財産活用。