
親が双極性障害をどう伝える? 子どもの年代ごとの伝え方
運営元リヴァの支援員で、精神科領域での支援歴25年の臨床心理士・公認心理師である二宮。がん患者さんが我が子に病気を伝える際に、相談を受けた経験があります。
がん患者さんの子どもへの対応に関する専門情報を踏まえ、子どもへの双極性障害の伝え方について松浦がポイントを聞きました。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール 二宮 ひとみ
株式会社リヴァ リヴァトレ事業部 臨床心理士・公認心理師
病院・診療所などの精神科領域にて勤務。精神障害者、LGBT、がん患者などへの心理的援助を実践してきた。2020年に株式会社リヴァに入社。就労移行支援施設「リヴァトレ」にて、心理系プログラムを中心にサービス提供を行っている。
目次
動画「子供に服薬(双極性障害)を説明する時のポイントを臨床心理士が解説」
就学前の子どもへの双極性障害の伝え方「分かりやすく真実を」

まず私の5歳の息子に関するエピソードを紹介します。
先日、夜に気分安定薬を飲んでいたときのことです。息子は私が毎日薬を飲んでいるから気になったのか「この薬何?」と質問してきました。
今まで子供から薬について聞かれたことがなかった上、唐突な質問だったため困ってしまったんですよね。
そのことをTwitterで呟いたら、二宮さんが社内のチャットでコメントをくれて。
二宮さんのお話が非常に参考になったため、Twitterで内容をシェアさせてもらいました。するとかなり反響があったため、今回の対談が実現しました。

改めて「親の双極性障害を子どもにどう伝えるのか」について、何かポイントはありますか?
まずは分かりやすい言葉で説明することが大切です。後は、真実を説明すること。嘘をつかないことが、大きなポイントとなります。


他にもポイントはありますか?
はい。そもそも、どうして薬について質問したのかということです。
松浦さんの場合、かなり唐突に質問されたということでした。お子さんとしては、別に唐突ではなくて、何かの気持ちがあって質問したのだと思います。
なので、お子さんの気持ちを受け止めながらお話するのがいいですね。


「真実を伝える」ことと「気持ちを大切にする」ことがポイントですね。
とはいえ、読者の皆さんは「具体的にどう伝えたらいいんだろう」と感じると思います。
私の子どもは5歳で、まだ小学校に上がっていません。就学前の子どもにどう伝えたらいいか教えていただけますか?
具体的に、分かりやすく伝えるのがいいですね。就学前の子どもに対して、難しいことを一生懸命に説明しても、あまり伝わりません。
「気持ちが落ち込んだり、イライラしたりするけど、お薬を飲んでいるから大丈夫だよ」と伝えられるといいですね。
あまり細かく過去の症状や将来の見通しまで話しても、子どもにはピンと来ないものです。
まず端的に「どうしてお薬を飲んでいるのか」を伝える。
その上で「病気だけど、お薬を飲んでいるからお仕事もできるし、○○ちゃんとも遊べるんだよ」と伝えるのがいいと思います。



具体的に、おすすめのセリフはありますか?
松浦さんが保育園児のお子さんに対して言う、という想定で説明しますね。

「パパは時々気分が落ち込んで、元気がなくなったり、イライラしてお仕事ができなくなったりするんだ。
でもお薬を飲んでいると、元気が出るんだよ。
○○ちゃんとも一緒に遊べるから大丈夫。困ったらお医者さんに相談できるからね」
こういう言い方が良いですね。


今のセリフを選んだ意図はありますか?
分かりやすさを意識しつつ「お薬を飲むと調子が良くなり、日常生活を送れる」と伝わるように説明しました。


例えば「将来的に病気でどうなるのか」という時間に関することを伝える場合、ポイントはありますか?
保育園くらいまでのお子さんは、昨日・今日・明日の3種類くらいしか時間の感覚がありません。お薬を飲んだから「1週間後や1年後はどうなる」ということを伝えてもピンと来ない。
まず「今、どうなのか」「どんな生活を送るのか」が伝わればいいと思います。
就学前の子どもに対しては、時間の感覚が短いことを考慮し、分かりやすく伝えることが大切です。

小学生への双極性障害の伝え方「近い将来への希望を」

では、子どもの年齢が上がって小学生になると、伝え方は変わりますか?
小学生くらいになると時間的な感覚が少し長くなります。明日や明後日、1年後くらいまでの、近い未来への感覚が作られるのです。
ちょっとポジティブな未来をイメージさせるように説明するといいと思います。「次のクリスマスには、皆で元気に過ごせるようにお薬を飲んでいるんだよ」とか。
小学生くらいになると、少しずつ因果関係をつかめるようになってきます。「腐ったものを食べたから、お腹が痛くなった」という理屈が、だいぶ分かるようになるんですね。


親の双極性障害に関する説明も同じです。因果関係を持たせて説明すれば、分かってもらいやすくなると思います。
「脳の働きがうまくいかず、イライラしたり落ち込んだりすることがある。その治療のためにお薬を飲んでいるんだよ」とかですね。


病気特有の表現で子どもに不適切なものはありますか?
使ってはいけない極端な言葉はないと思います。ただあまりネガティブなことばかりを伝えると、希望が持てなくなってしまうものです。
「お薬を飲んでいるから楽しく遊べたり、ちゃんとお仕事ができたり、家族で一緒に暮らせたりする」とか。
希望を持てる説明ができればいいと思いますね。
特に小学校に入る前くらいのお子さんは、親が病気になると「大丈夫かな?」とすごく心配します。
そのとき「自分がお父さんとの約束を破ったから、お父さんが病気になったんじゃないか」と自分を責める場合があります。「そうじゃないよ」とうまく伝えることが大切です。

中高生以上への双極性障害の伝え方「気持ちに寄り添い正しく」

では中高生の場合、小学生と比べて伝え方は変わりますか?
中高生は小学生に比べると、かなり論理的な理解力が発達しています。大人に対するのとほぼ同じ説明をしても、分かってくれるはずです。
「脳の物質の働きが悪いから、お薬を使ってそれを調整している」という伝え方がいいと思います。


なぜその表現を選んだのか、教えていただけますか?
中高生は因果関係をかなり深く理解できます。時間的な流れもはっきりつかめるのです。
「調子が悪い」と伝える場合も「あのとき具合が悪かったのは、こういう理由があって」という説明で理解できます。
具体的な未来を想像してもらいながら「もし症状が出たときには、ちょっと手伝って欲しい」と伝えることもできると思います。


では、双極性障害と遺伝の関連性についての説明はどうすればよいでしょう?

中高生は「自分の未来はどうなっていくんだろう」と考える世代です。その中で親御さんの病気を知ると「自分も同じ病気になるのかな」と不安になる場合があります。
そのため遺伝のことをこちらから説明するかどうかは、非常に難しいところです。
説明するとしても「今の医学では、病気の原因が遺伝かどうか、はっきりしていないよ」という表現に留まると思います。


中高生になると頭が成長して、色々な情報をインプットするようになります。
すると「遺伝的に双極性障害になるかもしれない」という情報も入って来るかもしれません。
「自分は遺伝で双極性障害になる可能性があるの?」と聞かれたとき、どう答えたらいいでしょうか?
中高生には「お父さんは、双極性障害という病気なんだ」と、具体的な疾患名も伝えてもいいと思います。
ただそれを聞いたお子さんが、インターネットで双極性障害について調べて、誤った情報を仕入れてしまう危険性もあります。
何よりも、正しい知識を伝えることが大切です。
お子さんは「自分も遺伝するんじゃないか」とすごく心配すると思います。「今の医学では遺伝するか、はっきりとは分かっていない」と正しい知識を説明するのが誠実な対応です。


下の年齢の子どもと変わらず、真実を伝えていくスタンスが基本ということですね。
さらに気持ちも大切にしたいので、どうして病気について質問したのか聞いてみてもいいですね。
心配事があるとか、親の行動が気になっていたとか、引っかかっている部分があるかもしれません。
一方、単なる興味で「何のお薬を飲んでいるの?」と聞いているお子さんもいると思います。

丁寧にお子さんの気持ちを受け取りながら説明できると理想的です。そして「困ったらいつでも質問してね」と言葉を掛けてみてください。
松浦さんの家庭のように、お父様に疾患がある場合は「パパに聞きにくければ、ママに聞いてみて」という説明もあると思います。


なるほど、以上が中高生への対応についてですね。
18歳以上の成人になると伝え方は変わりますか?
やはり正しい情報を伝えるというスタンスは変わりません。また気持ちに寄り添い「どうしてそんなこと聞きたいの?」と訊ねる点も同じですね。
後は年齢を問わず、主治医の先生のところへ一緒に行くのも有効かもしれません。先生から双極性障害について正しい説明をしてもらうのです。
伝え方に自信がない方は、事前に主治医の先生やカウンセラーに相談をするのもアリかと思います。

双極性障害の特徴を端的に伝える

双極性障害特有の「伝えるポイント」はありますか?
病気の特徴を端的に伝えることだと思います。双極性障害にはうつ状態と躁状態という、2つのフェーズがあること。
うつ状態は「落ち込んで、何かをやる意欲がなくなってしまう」ことを伝えます。
躁状態は、症状の特徴を伝えてもいいと思いますね。イライラしている躁状態のときは個人によって症状が変わるためです。
またお子さんは、親御さんの病気が「治るか、治らないか」を気にするはず。「今の医学では一生付き合っていく病気だけど、ちゃんとお薬を飲めば大丈夫」と伝えるといいですね。

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双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。