
傷病手当金の改正で支給期間が通算化 双極性障害の人へのメリット&当事者の声
傷病手当金は、会社に勤める人が病気や怪我で働けなくなったとき、生活を維持するために受け取れるお金です。
以前までは、初めて傷病手当金を受け取ってから一定期間が過ぎると、自動的に支給期間が消滅していました。しかし法改正により支給期間が通算化され、お金を受け取りやすくなったことをご存じでしょうか。
休職をくり返しやすい双極性障害の人にとって、通算化は大きなメリットがあります。
今回は、傷病手当金の通算化による変更点とメリットを分かりやすく解説します。
さらに双極性障害の人が通算化をどう思っているのか、実際の声を紹介するのでチェックしてみてください。
目次
傷病手当金とは?
協会けんぽによる給付金
そもそも傷病手当金とは、どのような給付金なのでしょうか。
ここから傷病手当金の概要に加え、支給要件と支給期間、金額、また退職後も受け取れるのか解説します。
病気休業中にお金が支給される制度
傷病手当金は、全国健康保険協会(通称:協会けんぽ)などの被保険者が、病気や怪我で働けない期間に支給されます。
仕事ができなくなり、会社を休むことになった期間中、生活に必要なお金を受け取れる制度です。
ただし美容整形による後遺症など、病気と見なされないものは支給対象外のため注意しましょう。
また業務中や通勤中に怪我をした場合は、より手厚い労災保険が給付される可能性があります。その場合も、傷病手当金は支給対象外です。
支給される要件
傷病手当金の支給要件には、以下の3つがあります。
- 業務外の理由による病気や怪我で働けない
- 3日連続で仕事を休み、その後も休んだ日がある
- 給料の支払いがない
1つ目の要件「働けないこと」は、医師などの意見をもとにして、実際に働けない状態か判断されます。
働けない状態と判断された場合、3日連続で仕事を休んだ後、休業4日目から傷病手当金が支給されます。

休み始めてから最初の3日間は「待期期間」という、様子を観察する期間です。この3日間を含め4日以上休んだとき、支給要件を満たします。待期期間には有給・土日祝日などの公休日も含まれます。
もし会社で働いている日に、仕事以外の原因による怪我などで働けなくなった場合は、その日が待期1日目です。
また待期期間は休んだ日が3日間連続している必要があります。もし2日間連続で会社を休み、3日目に働いた場合は支給対象外です。
特に重要なのが、給料の支払いがないこと。働いていない人の生活を保障する制度のため、傷病手当金を受け取るには、給料がゼロである必要があります。
ただし仮に給料が支払われた場合も、傷病手当金の1日あたりの額より少ない場合、差額が支給されます。受給者が損をしない仕組みになっているため安心してください。
支給期間と金額
傷病手当金の支給期間は、最長1年6か月です。支給される金額は、支給開始以前に1年間(12か月)被保険者だったかどうかで変動します。
12か月以上、被保険者だった場合は、以下のように計算した額が支払われます。
直近1年間の報酬の月額平均(12か月分の平均給料)÷30日(1か月)×3分の2
例えば12か月のうち、3か月の報酬の月額が30万円、残り9か月が34万円だったとします。この場合、1日あたりの支給額は7,333円です。
計算式 1日あたりの支給額
(30万円×3+34万円×9)/12か月=33万円
33万円/30日=1万1,000円
1万1,000円×2/3=7,333円
この場合、1年間毎日お金を受け取るなら、支払い総額は2,654,546円です。
計算式 1日あたりの支給額
休業期間365日 – 待期期間3日間=362日間(支給期間)
1日あたりの支給額7,333円×支給期間362日=2,654,546円
また被保険者期間が12か月に満たないときは、入社月から支給開始月までに受け取った報酬の月額平均を基準に計算します。
先ほど計算した金額と、会社が入っている健康保険組合の被保険者の報酬平均額(前年度分)を比較。少額だった方が支給金額となります。
退職してもお金は支給される?
病気や怪我で会社を休んで、そのまま退職した場合、健康保険の被保険者資格を喪失します。傷病手当金を受け取れるのは被保険者だけのため、退職した場合は支給されなくなってしまうはずです。
ただし一定の要件を満たすと、退職後も引き続き傷病手当金を受け取れます。
「継続給付」という制度による仕組みです。支給要件は以下の3つ。
- 被保険者資格を喪失した日の前日まで、被保険者だった期間(任意継続期間を除く)が1年以上継続していること
- 傷病手当金の支給期間が1年6か月未満で、退職後も同じ病気で働けないこと
- 退職日にも働けず会社を休んでいること
働けないまま会社を辞めようと考えている人は、引き続き傷病手当金をもらえるか、退職する前に確認してみてください。
参照サイト:全国健康保険協会公式サイト「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
傷病手当金は法改正により支給期間が通算化
健康保険法が改正された結果、2022年(令和4年)1月から、傷病手当金の支給期間が通算化されました。

今までは支給開始日から最長1年6か月までしか、傷病手当金を受け取れませんでした。
例えば、休職して傷病手当金をもらい、1年後に復職した場合は給料が出ます。同時に傷病手当金の支給は停止します。
そのまま働いて6か月が過ぎると、自動的に傷病手当金の支給期間は消滅していたのです。もし7か月目に同じ病気が再発して、また休職しても、支給期間が過ぎているため傷病手当金はもらえませんでした。
今回の改正により、支給開始から通算(つまり働いている期間を除く)1年6か月目となる日までが、支給の対象となりました。
途中で復職するなどの理由で長い不支給期間ができても、次に休職したときに傷病手当金を再び受け取れるようになったのです。
通算化が適用されるのは、2020年(令和2年)7月2日以降に初めて傷病手当金を受給した人です。
※2020年(令和2年)7月2日に受給開始なら、2021年(令和3年)12月31日時点で1年6か月経過していないため。2020年(令和2年)7月1日までに受給したことのある人は対象外
参照サイト:厚生労働省公式サイト「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
傷病手当金の改正による双極性障害の人へのメリット
今回の法改正の背景には、長期療養が必要ながん患者が、治療に専念できる仕組みを作るという目的がありました。加えて、双極性障害を患う人にも、傷病手当金の通算化は多くのメリットがあります。
双極性障害は気分が高まる「躁状態」、気分が落ち込む「うつ状態」をくり返す精神疾患です。症状が激しい双極Ⅰ型、うつ状態と軽い躁状態をくり返す双極Ⅱ型があります。
再発の可能性が高く、休職をくり返す人は多いため、がんと同じく長期的な治療が必要となりやすい病気の一種です。
特に双極性障害の人は休職したとしても、気分が高揚する躁状態のとき「自分は元気だ」と思い込む場合があります。結果的に躁状態の人は治っていなくても、勢いに任せて復職してしまう可能性があるのです。
しかし働き始めてからうつ状態に入ってしまい、再び休職する例は多くあります。

これまでは再び休職したとき、支給開始から1年6か月が経っていた場合、お金は受け取れない仕組みでした。
今回の法改正により、双極性障害で休職をくり返す人も、支給期間が合計1年6か月になるまで何度でもお金を受け取れるようになりました。
通算化は休職をくり返しやすい双極性障害の人に、以下のメリットをもたらします。
- 休職中に消化できなかった支給期間を、再び休職したときに使える
- 何度か仕事を休んでも、治療費を捻出しやすい
- 「次に再発したらもうお金をもらえない」という心配がなくなり、症状の悪化を防ぎやすい
双極性障害の人は気分の波によって働けたり、働けなかったりします。そのため、お金をもらいながらくり返し休みやすくなるのは、大きなメリットです。
傷病手当金の改正に対する双極性障害の当事者の声
双極性障害の当事者の方々が、傷病手当金についてどう考えているのか、3名の方に意見をうかがいました。中には、傷病手当金という制度自体の仕組みを理解しておらず、給付金をうまく活用できなかった方もいます。
では、傷病手当金を受け取りながら会社を休む場合、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。
以下から、改正前に傷病手当金を受け取ったことがある3名の方の声を見ていき、注意点をまとめます。
「情報を得ていれば、焦って復職せずに済んだかもしれない」
- Aさん 34歳 女性・双極性障害Ⅱ型
- うつ状態と診断され休職→復職(1か月)→3か月後に再休職(2か月)→再復職後、そのまま離職

(傷病手当金は)1年6か月の支給期間のうち、3か月間しか傷病手当金をもらっていません。もしお金の制度について正しい情報を得ていれば、焦って復職せずに済んだかもしれないと思います。
無知だったせいで退職後も失業保険の申請方法が分からず、必死に調べた時期がありました。
すぐに働きたくても働けない方はたくさんいると思います。そういうとき、お金のことは生きていくためにとても大切な問題です。
体調が優れない中で正しい情報を手に入れるのは大変なので、日頃からアンテナを張っておくことが重要だと思います
「治療の時間を多く取れるようになる」
- Bさん 44歳 男性・双極性障害Ⅰ型
- 双極性障害と診断され休職(7か月)→復職して3か月で再休職(6か月)→復職して6か月で再休職(4か月)→復職して1年
※その後も3、4回休職
※傷病手当金は1年1か月分を受給

傷病手当金の支給期間が通算化すれば、治療の時間を多く取れるようになります。「無理やり復職しよう」と焦ることが減るかもしれません。
私の場合は症状が強く、良くなったり悪くなったりする状態をくり返しています。支給期間中だけでは、症状が安定しませんでした。
長期的に治療を受けるためにも、復職できたとき(不支給期間)がカウントされないことは大きなメリットだと感じます
「傷病手当金を受け取るのは当然の権利」
- Cさん 34歳 女性・双極性障害Ⅱ型
- 入社の1か月後に休職(5か月)→自主退職

家族と主治医から「1か月しか働いていないのに傷病手当金をもらうなんて、会社に申し訳ない」と責められました。そのためうつ状態と罪悪感が悪化し、5か月目で自主退職しました。
あの時点で「働いている期間はカウントしない」と法改正されたとしても、傷病手当金は受け取らなかった気がします。うつ状態がひどかったため、罪悪感で受け取れなかったと思うのです。
ただ、病気や怪我のときに傷病手当金を受け取るのは、労働者の当然の権利です。私のように、重いうつ状態のとき「辞職する」などの大きな決断をしてしまうと後悔するかもしれません
以上、3名の方の声を紹介しました。
当事者の方々の声からは、傷病手当金の仕組みを正しく理解して、活用することの大切さが伝わってくると思います。
今回の通算化によって、病気をくり返しやすい双極性障害の人も、その都度治療に専念しやすくなりました。治療を受けて回復した後は職場へ戻るのが早いほど、より多くの支給期間を保存可能です。
無理をしないことは大切ですが、働けそうであれば早めに復帰することで、再発に備えられます。再発時には、また少しずつ支給期間を使えると理想的です。
[まとめ]
傷病手当金の法改正による通算化は双極性障害の人にメリット多数
法改正によって、傷病手当金の支給期間は通算化されました。長期的な治療が必要な双極性障害の人には、以下のメリットがあります。
- 休職をくり返しても、支給期間が1年6か月に達するまで何度でも傷病手当金を受け取れる
- 短期間で復職した場合も、次の休職まで傷病手当金の支給期間を残しておける
- 仕事を何度か休んで治療に専念する場合も、経済的な負担と不安が軽くなる
法改正によって、双極性障害の人はお金を受け取りながら休職しやすくなりました。
傷病手当金の受給は、すべての労働者が持つ当然の権利。お金の制度に関する正しい情報を理解して、損をしないよう、うまく活用してみてください。
参考サイト:
全国健康保険協会公式サイト「健康保険法等の一部改正に伴う各種制度の見直しについて(傷病手当金、任意継続、出産育児一時金)」
人事のプロを支援するHRプロ「「傷病手当金」の支給期間が通算化に。2022年1月の施行に向けてご準備を」
ツギノジダイ「傷病手当金の支給期間が通算化へ改正 2022年(令和4年)1月から」
社会保険労務士こころざし経営労務事務所「【法改正】傷病手当金の支給期間通算化」
日本シャルフ「【2022年1月改正】傷病手当金の支給要件から改正点まで解説します!」
こころの耳「第8回 退職後、傷病手当金の仕組みはどうなっているの?」
LITALICO(りたりこ)仕事ナビ「傷病手当金の金額っていくら?支給額の計算方法を分かりやすく説明します」
株式会社プライムコンサルタント公式サイト「傷病手当金」の支給期間の通算化(法改正)
[執筆/野木奈都、監修/青木弘達(公認心理師/社会保険労務士 有資格者)、編集/松浦秀俊(精神保健福祉士/公認心理師)]
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。