認知行動療法を専門とするカウンセリングルームの代表であり、YouTubeの認知行動療法ちゃんねるの運営もされている西川公平先生。今回は西川先生から、認知行動療法について双極性障害の視点でお話を伺いました。
先生の分かりやすい説明によって、認知行動療法を身近に感じられるのではと思います。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉
プロフィール 西川 公平
カウンセリングルームCBTセンター代表。精神科、心療内科での勤務を経て、2005年にCBTセンターを開業。医療、産業、教育司法と分野をまたいで連携をしている。医学博士、公認心理師、専門行動療法士。
目次
西川先生は「認知行動療法とはどんなものですか?」と聞かれたら、どう説明していますか。
まず1960年頃に行動療法が出てきて、それから10年後くらいに認知療法が出てきて、後にそれらが雪だるまみたいにくっついたのが認知行動療法です。
認知が「考え方」、行動が「やり方」を指しており、考え方とやり方を工夫していきましょうという治療法です。
認知療法と行動療法が合わさってできたものなんですね。
認知療法的な面で言うと自分の考え方や、考えの持って行き方を工夫して変えていこうという治療法になっています。
というのも、気分障害とは自分を落ち込ませるような、あるいは高ぶらせるような考えの内容の困りごとでもありますが、同時に考える筋道(=思路)の困りごとでもあるからです。
双極性障害の方は「何となくこういう流れで考えていってしまう」みたいな思路障害の側面もあります。ですので、そういった考えの筋道の整理をしていくことが認知療法として双極性障害を治療していく上で大事だと感じます。
なるほど。
行動療法としては、動けなくなるうつ的な症状が大きいとき「本人が何であれば動けるのか」とか「最低限ここまでやれることをめざそう」等、行動活性化を図っていきます。これはうつ病でも双極性障害でも同じですね。
うつ病には無くて双極性障害にあるのが、(気分が)上がり過ぎてしまう対策です。上がりかけのところで、それ以上は上がっていかない工夫をするところに行動療法が用いられると思います。
うつ病と双極性障害の認知行動療法の違いは躁の扱いですか?
そうですね。双極性障害の方も困っている時間のほとんどがうつ症状に困っておられるので、大体やることは一緒です。
ただ、双極性障害の方は上がってしまう可能性もあるから、そこは注意しながら見ておきましょうという感じです。
過去に書籍をいくつか読んだときに、双極性障害に対する認知行動療法の効果が先生によって様々だったのですが、見解の違いはありますか?
双極性障害Ⅰ型が躁うつ病と呼ばれていた時代はあまり効果がないとされていました。しかし近年、双極性障害Ⅱ型ができ、こちらに対してはやり方によっては効果があると考えられるようになりました。
なので、どの時代の双極性障害について言っているのかで認知行動療法の考え方は異なります。
双極性障害Ⅱ型と言うと、軽躁状態なら扱えるということでしょうか。
はい。軽躁状態ならまだ、本人や家族のコントロールも効くと思いますが、詳しくは日本うつ病学会が出している双極性障害の治療ガイドラインを見ていただくのが一番です。
治療者も患者も家族も見られるようにしてくれている無料のガイドラインなので、専門家向きで少し読みにくいところもありますが、色々参考になると思います。
認知行動療法とは具体的にどんなことをするんですか?
私の場合は基本的にオンデマンドでやります。
その人の生活の困りごとについて、例えば「うつ症状はよくなってきたけれど、復帰して職場に行こうとすると突然足が止まってしまう」という風に「他のことは全部できるんだけど、これだけが出来ない」という困りごとであれば、それがその人の日常生活でどんなメカニズムで起こっているのかを認知や行動の面から探っていきます。
そして「どうすると玄関から出て一日楽しく過ごせて、逆にこうすると一日布団の中で寝てしまうのか」みたいに、差分を捕まえて分析し、本人が自分を扱いやすくするよう援助していきます。
なので、双極性障害の方に特有のやり方があるわけではありません。
認知行動療法で代表的なのがコラム法だと思うのですが、認知行動療法=コラム法ではないのですか?
認知行動療法はもともと認知療法と行動療法から来ていますが、認知療法出身の認知行動療法家は大体が思考記録表を中心的に使用します。
コラム法にも色々ありますが、(その中の)思考記録表を用いるかというと、5人に1人くらいしか使わないですかね。
私はその方がどういう日常生活をしてるのかとか、どこに不便があるのかという観察記録を重要視しています。
とりわけ双極性障害の方というのは「ムードスイング」という気分の波の全体像を理解できるかがポイントです。
「今日は最高!」とか「今日はもうだめだ」とか、その日ごとの気分を見ていると治療は成立しないので、「こういう風に上がってしまうと、この後こうして落ちてこうなる」という風に、前後の関連性の中で物事を捉え、気分の波全体を見られる自己観察力を身に着けていくことが大事です。
記録というと、例えばどういう軸でつけていくんですか?
その人が自分の記録をつけられる力にもよるんですが一番簡単な記録では、100円ショップで晴れと曇りと雨のスタンプを買ってきて、毎日カレンダーにポンポン押して管理している方がいましたね。
もっと細かくつけてほしい部分もあるんですけど、それがその方にできるギリギリだったので。
それでも続けていくと、晴れから一気に土砂降りになることはあまり無くて。やはり晴れてたけど曇ってきて雨になるとか、雨だったけど曇ってきて晴れた等のスイングが出てきます。それで自分をコントロールしやすくなったということがありました。
働いていたり時間が取れない方でも取り入れやすい認知行動療法的な工夫はありますか?
行動連鎖というものを作る方法があります。
例えば生活リズム表を作り「寝ている時間は赤、起きている時間は青で塗りましょう」と言うんですけど、記録表はトイレに貼ったりぶら下げてもらいます。
朝起きると大体の人はトイレに行くと思うので、用を足してる間にその表を塗ると、「トイレに行く」という行動と「生活の記録をつける」という行動が連鎖するわけです。「この行動の後はこれをしましょう」というルーティンをつけていくことが結構大事ですね。
「何かやるときについでにこうする」というのを習慣化して当たり前になってしまえば、忙しさや働いている、いないに関わらず記録できるのではないかと思います。
あとは朝起きたらTwitter友達に「起きた」ってツイートするという方法もあります。朝起きてまずトイレに行くという人よりも、スマホを触るという人も多いので。
私は記録自体が苦手なのでスマートウォッチで自動記録しているのですが、自分で意図をもって記録することが大事なんでしょうか。
記録の自動化に関しては、「家計簿を手動でつけるのと自動でつけるのとで節約効果は違うか?」みたいな話だと思います。
自動でも続けていったら節約できるという人もいれば、やっぱり一つずつ確認して振り返るというプロセスが必要な人もいます。
人によって向き不向きがあると思うので、その人に合った方法が一番です。
双極性障害で働く人に向けて、先生から伝えたいことはありますか?
双極性障害の方は重症度の幅が大きく、障害を持っていても持っていない人と等しいぐらいの条件で働いている方もいれば、作業所などに行くのが精一杯の方など、色んな段階があると思います。
(どの段階の方でも)一人で何とかしていくことは難しいから、身近に仲間やサポーターがいるといいですね。
躁状態というのはアクセルを踏み過ぎている状態なので、そうなったときに自力で何とか回復する方法はあるかと言われると難しい気がします。でも人間ってそんなに全部自力でやらなくてもいいんです。「ちょっと待ってー!」みたいな感じで止めてくれる人を、躁的でない状態できちんと確保しておくことが大事です。
「人という字は助け合ってできているんだ」という感じで、サポーター込みで人生を生きていくのが、人としてごく普通のことだと思いますね。
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双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。