
双極性障害と起業 上場経営者の過去とピアサポート活動の現在 59歳男性・双極性障害/ADHD
「双極性障害と起業」をテーマにしたインタビューを実施しました。
お話をうかがったのは双極性障害・ADHDの当事者で薬剤師のまどっちさんです。
「新卒時代の様子」「創業10年での株式上場」「社長を辞めて調剤薬局に勤務」「現在のピアサポート活動」を順に語っていただきました。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール まどっち
59歳男性。ネット心理教育ピアサポート主催、薬剤師。双極性障害、ADHDの当事者。
双極性障害の波に翻弄され、薬学研究の道を挫折し、のちに躁転しベンチャービジネスを起業、株式公開させたが、うつを発症し自宅療養に入る。その後、精神科領域を対象とした調剤薬局に勤務した。
現在はボランティア団体であるネット心理教育を立ち上げ、双極性障害を対象とした心理教育に取り組む。
目次
動画【双極性障害と起業】新卒時代/創業社長で株式上場/うつ辞職後に薬局勤務/ピア活動を語る
うつ症状が表れ始めた大学時代

今回は「双極性障害と起業 上場の過去とピアサポートの現在」をテーマに、ゲストとお話ししていきます。
双極性障害とADHDの当事者で、創業された会社が上場。
その後は離職して現在ピアサポート※の活動をされている、まどっちさんです。
※ピアサポート=同じような立場の人がサポートし合うこと。当事者同士の支え合い。
はい、よろしくお願いします。


こちらにまどっちさんの大学入学から現在までの「ライフチャート」があります。

今までの気分の変遷を描き、合わせて出来事も記したライフチャート。気分が大きく上がっている山もあれば、下がっている山もありますね。
では、いつ頃に精神疾患を発症したか教えていただけますか?
現在58歳ですが、最初の病気であるうつ病を発症したのは40歳のときでした。
ただその前にも気分の変動は随分ありまして、初めてうつ病の症状が表れたのは大学入学の頃だったと思います。
大学・大学院時代は鬱々とした時期を過ごしました。
大学院を中退後に気分が回復し、そのうちに良くなりすぎた気がします。


会社に入ってからは上司が言っていることが馬鹿馬鹿しく感じられました。
20代後半の生意気盛りで、
「自分は上司より仕事ができる」
「自分は業界でナンバー1だ」
などと思っていましたね。
「会社にいても時間がもったいない」と考えて退職し、自分がやりたいことをやるため30歳になる手前で起業したのです。

躁状態で薬の開発を受託する会社の研究者として勤務

最初に入ったのはどのような会社で、まどっちさんは何をされていたのですか?
薬の開発を受託する会社で業務内容は研究でした。


研究者をされていたのですね。
その会社の中で、躁のような状態で横柄な態度を取ってしまったということでしょうか?
そうですね。


当時は気分が落ち込むうつ状態に入ったことはなかったのでしょうか?
まったくなかったですね。


3年間同じ企業にお勤めになっていましたが、在籍中はずっと気分が高かったということですか?
最初はフラットな気分だったのですが、最終的に高くなりました。



辞めるときの気分はどのような状態でしたか?
意気揚々と辞めましたね。
「こんな会社に関わっている時間がもったいない、もう関わらずに済むんだ」と考えていました。


周りからは退職を止められなかったのでしょうか?
止められましたが、聞く耳は持たなかったです。


社内の人との関係性も絶ってしまったのですか?
実は起業後も、辞めた会社から仕事をもらうことはありました。
仕事を辞めると迷惑がかかりますし、「起業後も会社の仕事を請け負ってくれないか」と言われて受注していました。

起業後は製薬業界にITを導入
「躁でもアイディアを冷静に分析」

どのような事業内容で起業されたのですか?
私が躁状態の中で思いついたアイディアは、製薬業界にITを導入すれば、大幅にコスト削減できるというものです。
当時は薬の開発をしながらITを導入している会社がなかったので、私がやることにしました。
Windows 95が出たことでインターネットが普及すると予測し、2000年よりちょっと前の時代に起業しました。

※Google創業(1998年)と同時期にインターネットに着目して起業。


かなり早い段階でインターネット普及を予測し、ご自身の経験、もしかすると躁状態も掛け合わさって起業したと。
そうです。


双極性障害の躁状態で浮かんだ考えは「現実離れしたアイディア」と言われやすいですよね。
それでも上場に至ったということは、アイディアは現実的だったと考えますか?
そう思います。


ご自身だけで、アイディアを現実的なものに落とし込めました?
私はもともと保守的な性格で。そのため気分がハイの状態でもアイディアを冷静に分析したと思っています。
絶対にこのビジネスは「モノになる」と確信していました。

上場と同時に燃え尽き症候群に
40歳でうつ病の診断

株式上場を経験されたそうですが、実際に上場するまで何年かかりましたか?
39歳のときなので、創業から10年弱で上場しました。


多くの会社は数年経てばなくなってしまう中、なぜ上場できたと思いますか?
お客様が信用してくれたからかもしれません。
仕事をやってみた結果に満足してくれて、続けて仕事をいただけるような状態になりました。
信頼してくれる会社が何社も増えてきて業績が伸びていきましたね。
お客様は主に製薬会社でかなり手堅い業界でした。そこで信用を重ねていった結果、上場できたのでしょう。
ただ上場した後でうつになり、社長であるにもかかわらず、会社へ行くことができなくなってしまいました。



燃え尽き症候群のような症状だったのですか?
会社が小さいときは「仕事を全部、自分で好きなようにできる」という面白味があったわけです。
しかし規模が大きくなると「社長の仕事」に縛られてしまいました。
実は社長の仕事があまり好きではなかったのだと思います。


上場するまでは自分の好きなことをやっていたけれど、社長業となると向いていなくて、うつっぽくなっていったという。
結果的に会社に行けなくなったということですか?
そうですね。


うつ病と正式に診断されたのはこのときでしたか?
はい、40歳のときです。

うつ病で経営者から薬局社員に

そして会社を辞めることになってしまった。
その後はどうなったのでしょうか?
治療を受けましたが、50歳の手前まで症状が良くなったり悪くなったりをくり返していましたね。


その間は会社で働かれていましたか?
薬剤師として調剤薬局に勤めていました。


「上場起業の代表」から「調剤薬局の社員」という立場の変化に葛藤はありませんでしたか?
確かに経営者と一薬剤師の仕事は全然違います。
リスクの面では、社長は会社全体の責任を担っているわけです。そのため社長時代は寝ても覚めても会社のことが頭を離れませんでした。
一社員になってみると、仕事をしている時間以外は会社のことをほとんど頭から外せたので、すごく気持ちが楽になりましたね。



まどっちさんとしては「社長」と「社員」のどちらが向いていましたか?
「社員は自分には無理かな」という気がしていました。
「型にはまった仕事」をむらなくやっていくことは自分には難しかったです。
かといって、自分が100~200人の社員の生活を背負っていくのも大変なので……。
つまりどっちもダメですね(笑)。


(笑)。
両方を経験されて、両方とも難しいと感じられているのですね。
両方に良さがあるけれど、両方に大変さもあるという。
東日本大震災後、診断が変更
双極性障害に納得

ここまでお話をうかがいましたが、まだ双極性障害の話題が出ませんね。
双極性障害はいつ診断されましたか?
気が付かなかったのですが30代の頃に※躁転をしていました。
それから東日本大震災の後にもう1回大きな躁転をしています。「どん」と大きくうつ状態に落ち、激しい躁とうつをくり返していました。
病院でお医者さんに診てもらったところ、初めて双極性障害の診断を受けたのです。

※うつ状態から躁状態へ急転すること。


診断に対してどう思われましたか?
「あ、なるほど」と、納得しました。
というのも、うつ病と診断されたときの症状は、一般的なうつの症状とは違う気がして腑に落ちませんでした。
例えば「悲しい」という気持ちはまったくなくて、ただ身体が動かないだけだったと思います。
双極性障害と診断されたとき初めて人生を振り返り「これは双極の人生だ」と気付けたのです。

精神疾患への理解を進めたい
ピアサポート活動を開始

現在取り組まれているピアサポートの活動に行きついたきっかけは何ですか?
50歳を過ぎ双極性障害と診断されるまで、薬剤師として自分の症状を観察してはいました。
だからこそ「なぜ薬剤師として双極性障害の症状に気付けなかったのか」と思うようになったのです。
今思うと、精神疾患の薬を機械的に扱っていたように感じます。
結局「薬剤師ですら精神疾患についてここまで理解できていないのだ」という強い思いに駆られました。
そうなると「一般的な患者さんはもっと精神疾患を理解できないだろう」とも思ったのです。
患者さんに精神疾患について分かりやすく伝えて、より良い生活に活かしてもらいたい。
この思いがピアサポート活動「ネット心理教育」に結び付いています。


具体的に、どのような活動をされているのですか?
精神疾患の治療は単にお医者さんから薬をもらって飲むだけではありません。
患者さん自身が病気や治療について知り、積極的に治していくことが効果的とされています。
ただ心理教育を企業で行うような活動は、日本ではまだまだ浸透していません。
そこで心理教育をインターネットで行うのが私たちの活動です。


双極性障害と起業
徹底的な検証が必要

最後に双極性障害の方が起業するという選択肢についてどう思われるか、ご意見をうかがえますか?
一般的な話として「人に起業をすすめるか?」という問いには、私なら「チャンスがあるなら起業すべき」と答えます。
ただビジネスプランは徹底的に検証する必要がありますね。
特に躁状態の人は「自己過信」や「無謀な判断」が混ざっている可能性があるためです。
検証する際は、例えば銀行の融資担当者がお金を貸してくれるかなどの結果が判断軸になると思います。
また起業家はお客様に対して事前に下調べをすることも重要です。
お客様に「お金を出してサービスを買ってくれますか」と確認するなどして突き詰めていくのです。
そうやってビジネスを成功させる確率を高めていけますし、自分の考えの抜けている点を補うこともできます。
なので起業するなら「徹底的に検証するプロセスを嫌わない」ことが重要です。



検証することで起業が現実的なものになっていくということですね?
そういうことですね。
あとは、起業するにあたって「1人で行動しない」こと。
躁のエネルギーはチャレンジの起爆力ですが、半面とても危ういもの。その危うさをフォローしてくれるのは良きパートナーの「耳に痛い言葉」です。

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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。