双極性障害と就活 ひきこもった時間も無駄じゃなかった(NHK障害福祉賞 最優秀賞受賞者)

双極性障害と就活 ひきこもった時間も無駄じゃなかった(NHK障害福祉賞 最優秀賞受賞者)

公開日:2022.7.11
最終更新日: 2024.3.29

双極性障害Ⅰ型の体験記で「NHK障害福祉賞 最優秀賞」を受賞された赤岩さん。

「双極性障害と付き合いながらの大学生活の工夫、就職活動について、障害者雇用枠で働くこと」など赤裸々に語っていただきました。

〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール 赤岩

19歳のときに双極性障害Ⅰ型を発症。現在27歳の社会人1年目であり、金融機関に在職中。

赤岩さんの「NHK障害福祉賞 最優秀」の作品はこちら

動画「双極性障害Ⅰ型20代女性「大学生活、就活、仕事」を赤裸々に語る」

双極性障害の発症時期と診断前

松浦
松浦

双極性障害の発症はいつ頃ですか?

高校を卒業した年の春休みに躁状態になり、双極性障害Ⅰ型と診断されました。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

高校時代など、診断を受ける前の様子は?

学校全体の雰囲気が活発で部活や勉強、行事にとアクティブに参加していたので少しナチュラルハイ状態でした。

高校3年生の夏休み頃にうつっぽくなり、当時は燃え尽き症候群だと思っていたのですが、今考えるとそれが軽躁からうつに切り替わったタイミングだったのではと考えています。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

高校時代から予兆的なものがあったんですね。初診からいきなり双極性障害という診断だったのですか?

高校3年生の春休み頃、睡眠時間が極端に減ったり、あまり仲良くない友人や知り合いにたくさんメールを送りつける等の奇行をしてしまう状態だったので、すぐに双極性障害の躁状態と診断を受けました。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

知識がない人だと、奇行に見えても双極性障害の可能性までは分からないのでは?

母が医療従事者でメンタル系の病気に一定の知識があって、医療的な観点でこれは普通のハイテンションではないと気付いてくれました。

「調子がおかしいから病院、一緒に行かない?」という風に誘われたので、そこについては周囲に恵まれていたと考えています。

赤岩さん
赤岩さん

アルバイト経験と大学卒業までにした工夫

松浦
松浦

学生時代に働いた経験は?

大学3年の時から地元のカフェレストランで週1、2回、バイトをしていました。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

働く中で気分の波があって辛かったりしましたか?

週に1、2回というのもあって、日常生活に支障をきたすようなことは無かったのですが、調子が悪い日はキャンセルしてました。バイト初期の頃は障害のことを店長やオーナーに言えず…。

就活の時期になり、過去に休学して引きこもる時期があったと伝えたところ「社会復帰のために僕のところを選んでくれてありがとう」と言ってもらって。

今でも本当に大好きな職場です。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

素晴らしい環境でしたね。大学を卒業するために工夫したことはありますか?

無理ができない病気なので、論文やレポートのスケジュールが出たらコツコツ頑張ることを意識的にやっていました。

具体的には、①早めに取り掛かる②先延ばしにしない③忙しくし過ぎない(やることが溜まらないようにする)等です。

赤岩さん
赤岩さん

双極性障害を受容するまでの葛藤と障害者雇用での就活体験

松浦
松浦

就職活動の時期、働き方に悩むことはありましたか?

障害者雇用枠の存在を知っていたのですが、それを使うことで「自分で障害を認めて、この枠で生きていくんだ」と受け入れることになかなか踏ん切りがつきませんでした。

しかしNHK障害福祉賞を受賞して、周りから「使えるものは何でも使った方がいいんじゃないか」と助言をもらい、この枠で就活を進めてみようと思ったのがきっかけです。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

NHK障害福祉賞がきっかけで、障害者雇用を知った?

受賞のご縁で知り合った方に、障害者雇用専門の会社を紹介してもらいました。

障害者雇用枠については、母が大学の就職説明会に相談しに行ってくれましたが、学校側からは「前例がないのでお話しすることがあまりない」と言われてしまって…。

当時は障害者雇用義務の対象として精神障害者が加わってから2年目。「パイオニアになるしかないね」という母の言葉で、「挑戦してやる!」という気持ちになりました。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

一般枠の求人数に比べて障害者雇用枠は少なく、業務の幅も狭まると思いますが、実際に就活していてどうでしたか?

選べるところはそんなに多くなかったけれども「自分が何になりたいか」だけでなく「どうなりたいか」というのも大きいと思っています。

ある新聞社の説明会で、柔道の試合で半身不随になってしまった車いすの男子学生がいました。彼から「僕みたいな外から見て分かる障害は分かりやすいけど、赤岩さんのように外から見て分かりづらい障害は大変だよね」と言われて。

自分の障害に向き合った上で、人への思いやりや、器の大きさをすごく感じました。そこから「何になりたいか」だけでなく「どういう人になりたいか」も強く意識し始めましたね。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

赤岩さんは、とても新卒1年目とは思えないほど達観してますね。そういう考え方に至るのは簡単ではないと思うのですが。

休学中はうつ状態が強くて苦しむことが多かったのですが、同時に自分と向き合う時間も多かったので、自らを俯瞰する力がつきました。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

ネガティブに捉えると「引きこもってしまった」という発想にもなりそうですが、赤岩さんの中では必要な時間だったと?

その時間がなければ挑戦できたこともあるので難しいですね。

でも、私の中では「無駄が無駄でいい」と気付けた分だけ無駄じゃなかったと捉えています。

色んな障害を抱えていたりすると無理やりマイナスをプラスにしないと損するという風潮があると思うのです。でも、人生長いので無駄な時間があってもいいんじゃないかと開き直れ、無駄ではなかったと今では考えています。

赤岩さん
赤岩さん

今の会社に決めた理由と入社後の苦労

松浦
松浦

実際はどういう企業に決められたんですか?

金融機関に決めたんですが、就活当初は全く考えていない業界でした。

障害者雇用枠で狭くなった選択肢の中から決めた理由も興味を持つきっかけになったのも、「人」でした。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

その企業の「人」?

人事担当の方も支店訪問先で働いていた方も、面談で会う上司の方たちも素晴らしくて、一緒に働けたら自分も成長できそうだと強く思えて。

また、自分と企業につながりを見つけられたことも大きかったです。
バイトで貯めたお金で大学3年生のときにドイツに短期留学をしたのですが、そのとき自分の貯金で人生を選べたことで「お金を使ったことで人の人生を支えられたら素敵だな」と思うようになりました。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

実際、働き始めてから苦労したことはありますか?

学生時代よりも、深い自己理解と発信する力が求められていると感じます。

学生時代の友人であれば、長い時間を一緒に過ごせるので普段と危ないときの状態の違いを分かってもらえる。

でも、触れ合う時間の少ない上司に説明するには、自分の性格を理解してもらった上で、障害がどういうものなのか相手に理解してもらえるように話さないといけないので。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

会社では働いている時間しか一緒にいないから変化がつかみづらく、その分説明する必要があるんですね。

在宅勤務なので上司との連絡手段に電話が多いのですが、軽躁状態だと回数が多くなり脈絡のない話をしてしまうことがあるので、あえて文字に起こすようにしています。

読み返したときに話が変な方向に行ってないかを自分でダブルチェックしてからメールを送ったり、5W1Hを明らかにしてから電話したりしています。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

その他に工夫していることはありますか?

無理をし過ぎず「ちょっと怪しいぞ」というサインが出たら早めに予防策を立てて、半休などで無理やり自分に休みを与えることをしています。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

赤岩さんの場合はどんなサインがあるんですか?

カラオケに行く回数や、歌う回数が多くなると危ないですね。普段2週間に1回が、多くなると週3回以上になるので。

逆にうつっぽくなるとLINEが開けなくなり、カラオケも行けなくなるか、歌うにしても暗い曲ばかりになります。

赤岩さん
赤岩さん
松浦
松浦

サインの出方は人によって特徴が現れると言いますが、赤岩さんの場合は歌に出るんですね。

これから就活しようとしている方へ

松浦
松浦

これから就活しようとしている方へ伝えたいメッセージはありますか?

タイミングや症状は人それぞれで一概には言えませんが、障害者雇用枠で就職して働けていることが、私だけの特例ではなく誰かの前例になればいいなと思っています。

赤岩さん
赤岩さん

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