
身近な人のサポートは辛い? — 双極性障害当事者に家族からの疑問を聞いてみた
今回は「当事者のご家族が当事者に聞いてみたいこと」というテーマで、コミックエッセイストのまりげさんから双極性障害の当事者である編集長松浦に、家族側の素朴なギモンをぶつけていただきました。

プロフィール まりげ
コミックエッセイスト。1988年埼玉県生まれ。
SNS総フォロワー数約27万人。2020年ライブドアブログ新人賞受賞【まりげのまんが。】
実のお母様が双極性障害(躁うつ病)と診断され、家族一緒に奮闘し続け光を掴むまでの日々を書籍化した「700日間の絶望トンネル 」を2022年4月に出版。

プロフィール 松浦
双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。
※記事で紹介した商品を購入すると、売上の一部が双極はたらくラボに還元されることがあります。
目次
動画「双極性障害(躁うつ病)に対する家族のギモン【まりげさん/コミックエッセイスト】」
家族にされて辛かったこと

「家族は自分のためを思ってしてくれているけど、それが辛い」と感じるようなことはありましたか。
ありましたね。双極性障害と診断を受ける前のことなんですが、仕事を辞めて家で休養していた時期があったんです。
その時、兄に「ずっと寝てるんじゃなくて、部屋から出て外の空気吸った方がいいよ」と言われ、見晴らしがいい場所に無理やり連れて行かれました。でも、まったく気持ちが切り替わらなかったんですよね。その当時は人目を避けたかったし、日中外へ出るのもしんどかったので。
兄はそういうふうに動いたら元気になったのかもしれませんが、私にとっては苦痛でした。


お兄さんの気持ちもよく分かりますね。私も母がしんどい時に「ドライブ行こうよ」と言ってしまったことがあります。
今思えば、落ち込んでいる時の本人はそんなことで気持ちが変わるレベルではないので、そういうことではなかったんだろうなと思うんですけど。
家族にされて助かったこと

逆に、症状が悪いときにやってもらって嬉しかったことや、助かったことはありますか。
母親の関わり方はすごくありがたかったです。
当時の私は病気のことをはっきり伝えていなかったので、会社も急に辞めて家で寝てたりした状態だったんです。その時は実家にいたんですが、母は多くを聞かずに日常最低限のサポートをしてくれました。
後は、子供が生まれて間もないときにプレッシャーでうつになって。
その時は妻が直接話すのも辛そうだと察してくれて、LINEで「私はちょっと実家に子どもと帰ってくるから、一人の時間を作っていいよ」みたいな感じで距離を取ってくれたのがありがたかったです。


奥様の対応がすごくいいですね。やっぱり松浦さんは基本的に症状が出ている時はほっといてほしいタイプなんですね。
でも、完全に放っておかれると寂しくなります(笑)

うつの時の心の状態は?

私が母との700日間の中で一番しんどかったのが、どんなに励ましてもネガティブで返ってきたことでした。
「お母さん、これしてみようよ!」と言っても、私まで落ち込むような言葉が返ってくるんです。松浦さんもやはり、うつ状態の時はそういう気持ちになりますか。
かなりネガティブになりますね。何か質問されたとしても、しんどいイメージしか浮かばないというか。
そもそも楽しめていたものが楽しめなくなるくらいなので、普通にしていてもしんどいです。世界が灰色になっちゃったのかと思うぐらい。



母も「何を食べても美味しくないし、本当に世界がグレーに見えた」と言っていました。
私の場合、色の感覚が確かにあって、軽躁になると世界が本当にキラキラしています。何を見ても楽しいし、綺麗に見えるような状態を味わっているがために、逆に振れると余計灰色に感じてしまうんだと思います。

心が不安定な時の家族の見守り方

私は母のネガティブな言動にイライラしちゃった時期もありましたが、当事者の方から見て、家族はどう対処したらよかったと思いますか。
私だったら、自分が求めない限りは放っておいてもらうというか、好きにさせてもらいたいです。例えば、本人がご飯を食べたいと言うなら食べればいいし、食べたくないならそれでいいと。
また、ある先生から聞いた話なんですが、家族のスタンスとしては「いつもと変わらず、ここにいるよ」っていう姿勢が大事なんじゃないかと言われて。
何か症状が出たからといって急に態度や関わり方が変わってしまったら自分も不安になるけど、ただ見守ってくれていて、でも自分が助けを必要とすれば助けてくれるし「いつもと変わらずいる」ということだけは伝える。
ただ、それを強要しないというか「助けを求めれば私はのるけど、でも変わらず待ってるよ」って。


「いつもと変わらず、ここにいるよ」っていうメッセージはすごく大事ですね。
もちろん家族の問題で悩まれている方もいらっしゃるので、一律にみんな家族に頼りなさいというわけではないけど、もし頼れる存在として家族がいるのであれば、そこは一つの選択肢として、そういうふうに機能できるとありがたいと思います。

絶望トンネルにいる方へのアドバイス

母が発症した時「自分がよくなるイメージが湧かない」「きっとこれから先、生きていても自分には病気と老いと死しかないと思う」と言っていたぐらい絶望トンネルに入っていたんですが、今まさに絶望トンネルの中にいる方にアドバイスはありますか。
絶望というのが私の中で言えば一番底の大うつの状態だとしたら、この記事を見ている絶望トンネルの中にいる方は、ここに辿り着いている時点で何かしらの出口への糸口を見つけようとされていると思います。
出口がないトンネルはないと常々思っていますが、渦中にいると、やっぱり永遠に続くと思ってしまうのがこのトンネルなんです。
なので私の場合、日々の記録を付けていて、大きいうつの期間が過去どれぐらいあったかについても記録しているんです。記録を付けないと「何となくうつになって、何となく抜けちゃった」という雰囲気になるので。


そうなんですね。

私はその「大うつ」という本当にしんどい状態は大体1か月なんです。期間が明確なのであれば、渦中の時はとりあえず30日間は嵐が過ぎるのを待とうと。あと、最近聞いた「時間ぐすり」という言葉が印象に残っていて。
時間の経過も大事で、やはり焦っても回復しないので待つ時期はあります。その期間は会社を休んでも仕方ないけど、無理して更に悪化させない。既に斜めに落ちているとしたら、V字回復をさせようとせず、落ちているのをできるだけ横ばいにするためにできることをやります。
絶望トンネルにいらっしゃる方へのメッセージとしては、ご自身の大うつの期間を明確にして、その間は嵐が過ぎるのを待つ心持ちでやってみるのも一つかなと思います。


「抜けないトンネルはない」ということを経験から学んでいくと心構えもできるし、嵐が過ぎ去るのをじっと待つことができるようになるってことですかね。
そうですね。後は大うつになる前にできることを増やしていくとか。うつになるときは、急になるというよりは、何かしらの兆しがあったりするんで。そこで何か手を打たないから大うつになってしまうんです。
例えば、先ほど昼寝し過ぎてうつっぽくなると言いましたが、それを気にせず続けていたらうつっぽさが加速します。なので睡眠時間を戻したり、適度に運動をして寝られるようにするなど平常な状態に戻すような働きかけを意図的にすることが大切だと思います。


確かに母を見ていても、波を小さくするっていうのが大事なんだなと思います。
以前は元気そうな母を見ると嬉しかったんですけど、今は低空飛行くらいがちょうどいいんだなと、私も1年経って感じています。
ありがとうございました。最後に、まりげさんから何かお伝えしたことなどありますか。


現在発売中の「700日間の絶望トンネル」は紙でも電子でも購入いただけます。双極性障害を支える家族の苦しみと当事者の気持ちを頑張って書きましたので、ぜひ読んでみてください。
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ライター
1990年生まれ。24歳のときにうつ病を発症し、病院のリワークを経て復職。その後3度の転職を経て執筆活動を開始。