「暮らしにくい…」結婚生活の中で感じた夫への違和感【双極症の当事者家族にインタビュー】

公開日: 2025.2.28
最終更新日: 2025.3.7

双極症と付き合いながら働く上で、当事者はたくさんの難しさを抱えています。躁うつの波に左右され、体調が優れず出社できなかったり、イライラして周囲と衝突してしまったり。

そんな中、家族をはじめとする周りの方のサポートは、当事者にとって大きな支えになります。

しかし、当事者家族の方々もまた「どのように接すれば良いのかわからない」「症状に振り回されて疲れてしまう」など少なからず悩みを抱えているのではないでしょうか。

今回は、双極症(双極性障害)当事者の夫を持つめぐみさん(仮名)にインタビュー。夫のおさむさんは、以前インタビューにご協力いただき、ご自身の経験を語っていただきました。

お二人の出会いから現在に至るまで、妻のめぐみさんの視点でのお話を詳しくお聞きします。

※インタビューは2024年1月時点のものです

〈聞き手=山口恵里佳(双極はたらくラボ編集部)〉

プロフィール めぐみさん(55歳)

精神科の病院勤務の看護師。双極症Ⅱ型の夫(57歳)と、子ども3人の5人家族。
夜勤のある不規則な生活の中、夫と子どもたち、そして両親のために奮闘してきた。
夫のおさむさんは、11年前にうつ病と診断され休職したが後に双極症に変更。現在は、フリーランスの鍼灸師として働く。

勤め先での出会いからトントン拍子に結婚へ 元気で感じの良い「普通」の人だった

山口
山口

さっそくですが、お二人はどのように出会ったのでしょう?

めぐみさん
めぐみさん

私が看護師として働いていた病院に、彼がアルバイトとして来ました。当時は夜勤が多かったので、そんなに接点はなかったですが、会うと雑談をする関係でした。

それが、お互いにハイキングしたり旅行したり、外に出ることが好きなことが分かって、ちょこちょこ出かけるようになり。

そんなこんなしているうちに、結婚しました。

山口
山口

そんなこんな!まとめましたね(笑)。

めぐみさん
めぐみさん

早かったんですよ。付き合った後、私が一人暮らししていたところに、夫が荷物まとめて転がりこんできて。一緒に住んでいるんだったら、結婚しようかという話になりました。

そこに、あんまり物語はないです(笑)。

山口
山口

そのとき、おさむさんは双極症の診断は出ていないですよね。出会ってから結婚するまで、何か「ひっかかるな……」と思ったことはありました?

めぐみさん
めぐみさん

普通の、元気で感じのいい人でした。「おかしい」「不思議」と病気を疑う余地もまったくなく、毎日楽しかったです。

「今日は夕方5時にそこで待ち合わせしようね」「次は、花火を見に行こうか」なんて。

「普通」と思っていた夫への違和感

めぐみさん
めぐみさん

結婚してからも、子どもが生まれるまでは普通だったんです。

山口
山口

ということは、お子さんが生まれてから何か変化があったんですか?

めぐみさん
めぐみさん

「あれ?機嫌が悪いな」と思うことが増えました。

子どもが生まれると、どうしても子育てで手一杯になるじゃないですか。

後から聞いた話ですけど、今まで2人だけの生活だったところに子どもができたことで、夫婦で会話をしたり一緒に出かける時間が無くなって、子どもに取られた感があったみたいです。

山口
山口

でも、当時はなんで機嫌が悪いのか分からなかったんですよね。

めぐみさん
めぐみさん

分からなかったですね。

一人目の子どもだったので、分からないことだらけで、私もいっぱいいっぱいでしたし。

ありがたいことに二人・三人と子どもが増えたんですが、子どもが増えるにつれ、夫のイライラや不機嫌が増えたように思います。

子どもたちが寝た後に「話をしたい」とよく言われてたんですけど、1日働いて、保育園のお迎えをして、ご飯を作って、お風呂に入れて、寝かしつけて、「じゃあ夜10時から話そう」って言われても、疲れすぎてて絶対無理。寝かしつけてる時に充電切れで寝ちゃいます。

そうしたら朝、夫が「昨日の夜、話をするって言ったのに、なんで寝ちゃったんだ!」って、すごく怒ってるんです。「いや、限界だよ……。」って思うけれど、口答えするとまた怒るから、何も言えない。そんな生活が長く続いていました。

山口
山口

怒るというのはどんな感じだったんですか?

めぐみさん
めぐみさん

へそを曲げてるとかではなく、マジで怒ってるんですよ。 なんかこう……表現が難しいんですけど、脅威を感じる怖さというか。だから、とにかくその場から逃げたかったです。

山口
山口

お子さんが生まれたことで、そういうことが増えたんですね。

他に、おさむさんの機嫌の悪さについて、思い当たることはありますか?

めぐみさん
めぐみさん

結婚前から、気分が安定する漢方薬と、パキシル(抗うつ薬の一種)という薬を夫が飲んでいたのは知っていました。

でも、薬代がかかるので、子どもが生まれてからは薬をやめさせちゃったんです。

めぐみさん
めぐみさん

そうしたら、さらに機嫌が悪くなったんですよ。ちょっとしたことでも、ものすごく怒るようになって、暮らしにくかったです。

薬を飲んでいた時のほうが落ち着いていたことを思い出して「パキシルを飲んでみたら」と言って飲んでもらうと、穏やかになる。そうすると私も暮らしやすくなって。

そこで、初めて「あれ?」って思ったんです。

「薬をやめると、すごい攻撃的で怒りっぽくなるけど、パキシルを飲むと穏やかだな」って。

山口
山口

なるほど……。その時初めておさむさんの様子に違和感を覚えたんですね。

パキシルが効くと分かった後は、どうなったんでしょう?

めぐみさん
めぐみさん

不思議だなとは思ったんですが、スルーしちゃったんですよね。

そこからズルズルズルズルと、生活は続いていきました。

休職をきっかけに過去の入院歴が発覚

山口
山口

違和感を感じながら生活を続けていく中で、「これは転機だった」と思えるような出来事はありましたか?

めぐみさん
めぐみさん

夫が介護保険のデイサービスの会社に入社して3年目の時に、休職しました。10年前なので、46歳ぐらい。

中間管理職になって、上からは「売り上げ伸ばせ」と言われ、下からは「そんなのできるわけない」と言われ…板挟みになって辛かったようです。

頑張りすぎてしまうタイプで、その結果気分が落ちて、仕事や生活に支障がでてくる。

山口
山口

大変でしたね…。その時のおさむさんは、めぐみさんから見てどうでした?

めぐみさん
めぐみさん

明らかに様子がおかしかったですね。

めぐみさん
めぐみさん

これはまずいと思ったようで、精神科のクリニックを受診しにいきました。

私は仕事で付き添うことはできなかったのですが、気になって休憩中に電話で様子を聞いたんです。

そうしたら、「うつ病だって言われた」って。

診断結果を聞いて少しショックを受けたのを覚えてますね。

山口
山口

ショックというのは、どうしてでしょうか?

めぐみさん
めぐみさん

どこか偏見を持っていたんだと思います。

”その時は”、自分の家族にうつ病とか精神疾患になった人がいるのが嫌だなって思ったのかもしれないですね。

山口
山口

実際に自分がそういった立場になって初めてどう感じるか分かりますよね…。

とはいえご家族のことなので、ほっとくわけにもいかないと思うのですが、うつ病と診断された後は、どうなったのでしょう?

めぐみさん
めぐみさん

心配だったので、次に夫がクリニックに行くタイミングで、私も一緒に行きました。そうしたら、先生が診察室に私のことも呼んでくれたんですよね。

診察室に入ると、先生から「旦那さん、今かなり調子が悪そうだから、入院歴もあることだし、今回は長めに休職しましょうか」って言われたんです。

入院歴について聞いたことがなかったので、「いやいやいや、外来には行ってましたけど、入院したことはないと思いますけど」と返したら、横から夫に止められて、「入院したことがあるんだ」と言われました。

そこで、頭が真っ白。

山口
山口

えっ!?突然、入院歴を知ることになったんですね。

その時の心境は覚えていますか?

めぐみさん
めぐみさん

なんというか…….怒りもあったし、いろんな感情が渦巻いて「言葉が出ない」っていうのはこういうことか、と。

それまでずっと、隠されていたわけですから。

山口
山口

怒りは、将来への不安からきたものですか?

めぐみさん
めぐみさん

いや、「騙されていた」という気持ちが大きかったですね。「なんでそんな大事なことを隠してたの!!」という怒り。

でも、同時に「だからパキシルが効くんだ…」と、看護師として冷静に分析している自分もいました。

暮らしにくさの原因が分かった気がして、霧が晴れたような感覚でしたね。

ただ、冷静でいられたのはほんの数分。すぐに怒りがこみ上げてきて、その場を離れたくなりました。

気づいたらクリニックを飛び出していて、誰かの声を聞きたくて、手当たり次第に友人に電話をかけていました。

一番仲の良い友人に繋がった時、もう限界で、周りの目も気にせず泣き崩れたことを今でも覚えています。

【監修:二宮ひとみ(臨床心理士・公認心理師)】

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