今回は精神疾患になった方が心理専門職で働く際に気をつけるポイントや、精神疾患の経験を活かして心理専門職を目指そうか悩んでいる方へのメッセージなどを、心理系の大学院受験対策講座を15年以上指導している宮川先生に伺いました。
プロフィール 宮川先生
2005年名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 心理発達科学専攻 博士課程前期卒。
河合塾KALS心理系大学院受験対策講座にて、15年以上の指導歴。臨床心理士・公認心理師資格試験に関する講座や教材作成も担当。
また近年は、臨床心理iNEXTへの参加や、youtubeチャンネル「ミヤガワRADIO」の開設など、心理学教育の幅を広げる活動にも注力している。
プロフィール 松浦
双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。
目次
心理専門職を目指すにはどうすればいいのでしょうか。
まず公認心理師になるためには、心理系の学部で指定の単位を取る必要があります。その上で心理系の大学院に進学し、大学院で指定の単位を取得して、公認心理師試験が受けられる。
臨床心理士になるためには、臨床心理士指定大学院を修了する必要があります。出身学部はどんな学部でも構わないことがポイントです。
精神疾患の経験を活かしたいと考えている方が、心理専門職を目指す際に気をつけたほうがいいことはありますか。
自身の苦しさや葛藤を相手に押しつけて、相手にそれを解決させようとする「患者への投影性同一視」は気をつけなければならないですね。
例えば「あなたはもっとこうしなきゃだめ」みたいなアドバイスをしているけど、結局相手に対するアドバイスではなく、自分に対するアドバイスになっているんです。
支援の現場でピアサポーター※をしたときに、私も最初自分の経験を押し付けるミスをしています。自分の経験が相手に求められていると思って「過去にこういう経験してきたよ」と伝えるだけで満足してしまって。
結果、いびつな関わりになった時にはすごく反省しましたし、学びなおしたきっかけでもあります。
※ピアサポーター:一般には、同じような問題や環境を体験した人が対等な立場でサポートする関係性のこと。ここでは、精神疾患の当事者であるスタッフが他の当事者の方を支援する関係性を指す。
当事者目線の話だけだと、見えなくなってしまうものがあるんですよね。
松浦さんの話は「同感」と呼ばれるもので、相手の経験を自分に置き換えて、自分の立場で感情を味わうことを指します。
「私も双極性障害の経験がありました。あなたの経験もきっと私と同じでしょう。だから私はあなたの考えていることが手に取るようにわかる」と。かなり嫌味っぽく言っていますが、近いことを言ってしまう瞬間があります。
結局「私の困難とあなたの困難は別のものだ」ときちんと理解していないから、どこかぎくしゃくした関係になってしまうんですよね。
当時は私の経験から「軽躁(またはうつ)になったらこうすればいいと思う」ということをあたかも答えとして伝えて、押しつけていたなと。
双極性障害の方が自分と同じわけではないことが分かってからは「自分は一つの例でしかないし、答えではない」とあえて毎回言うようにしています。
ご自身の経験や体験をもとに支援をすることに限界を感じるからこそ、理論や専門性が必要になってくるんですよね。ここに大学院や専門職を目指したいという学びが発生するんだと思います。
大学院受験や心理専門職を目指したいと思っている方は、自身の経験を活かすというよりは、自身の経験がものを捉える上での色眼鏡になってはいけないとしっかり自覚することが大事だと思います。
その上で専門的な態度というのが「共感」なんです。
相手のパーソナリティーや価値観・感受性・生活経験などを十分に理解し、相手の感情を相手の感情として理解しようとする。
完全に理解することはできないかもしれないけど、そこを理解するためのものの捉え方や話の仕方、実習経験を通じて、共感的な態度を身につけていくのが専門的な態度の一つなんです。
「傾聴的に関わる」と支援の現場でも言うんですけど、一番難しい態度でもあって。どうしても自分の価値観や判断がよぎって「こうしたらいい」と言ってしまいがちになります。
興味があることは耳を傾けてしまうし、興味がないことは聞いているつもりで聞いていない。
例えば、街角で救急車の音が聞こえてきたとしても、普段は気にしないかもしれません。でも、何かソワソワしてる時は、救急車の音が気になったりとか。
裏を返せば、相手の話も救急車の音みたいに、聞いているけど聞いてない状態になってしまう可能性は十分にあるんですよね。結局興味がないと流してしまう。
だから、きちんと「あなたがどんな人なのか知りたいです」と相手に興味を持つことが大切だと思います。
こういう話をすると「向いてないんじゃないか」と考える方もいると思いますが、それは違います。
心理専門職になりたいと思った気持ちはぜひ大事にしていただきたくて。
ユングという心理学者が「人は病み傷つくことによって人を癒す力を手に入れる」と述べています。つまり、支援者や治療者と呼ばれる人達は、何らかの形で傷つきを持っている。
傷つきを持っているからこそ、優しくなれたり慎重になれたりするわけです。
別の話になりますが、大学で心理学部に行った友人に自分の経験を経て支援者になった話をしたら、友人も高校の時に悩んだ経験から心理に興味を持ち学部を目指したと話していました。
やはりその傷つきや痛みが何らかの形でエネルギーになっていたり、自身を支えていく原動力になる瞬間もあると思います。
松浦さんはご自身の傷つきや痛みとうまく距離を取ったり向き合いながら、いろいろな人と関わっていくことができているので、僕はすごくバランスのいい方だなと思います。
私はもう俯瞰して見ています。常に「松浦」という存在を後ろで操作している感覚で。
共感と同感の話がありましたが、松浦さんが俯瞰して見ているというのが、共感的な態度に見えるんです。
俯瞰して見てるという意味では冷たいとか思われてしまうかもしれないけど、自身の感情と相手の感情をきちんと区別して、冷静に客観的に相手のことを見ているということなので。
ピアサポートグループなど、当事者同士の情報交換は同感であっていいと思うんです。そこでしか分かち合えないものは必ずあると思うので。
でも専門家を目指すというのは、同感的な関わりをするわけではなくて、共感的な関わりをしていくことなんです。
自分と相手は違うんだと冷静に理解し、本人には見えていない側面を客観的に俯瞰してみて、専門的にアドバイスをしていきます。
これから心理専門職になる人が同感から共感にいくためには、どうしたらいいのでしょうか。
まずは同感と共感という言葉を理解すること。
「相手を理解するとはどういうことなのか」を、色々な知識や経験を積んでいくことによって「これが共感的に理解することなんだ」ということが見えてくると思います。
繰り返しになりますが、同感がダメだと言ってるわけではありません。家族が共感的に接してたら、ちょっと冷めてる気がしますからね。
ただその当事者グループに関わる専門家は、一歩引いたところで俯瞰することが必要で、それが専門家だと思います。
当事者の方で「支援職・心理専門職を目指そうかな?でもハードル高そうだし、やっぱ無理なのかな」と思う方がいたら、我々河合塾KALSのキャッチコピー「始めよう。まだ、未来は変えられる」をお届けしたいです。
“まだ”未来は変えられるんですよ。
自分には無理だと思ってらっしゃる方も、それは自分自身でそう思い込んでしまっているからなのかもしれない。
やろうと思った時がその瞬間なので、変えようと思った方はぜひ挑戦してほしいです。
最後に宮川先生の方から何か皆さんに伝えたいことはありますか。
もし記事を読んで、支援職や心理専門職になってみたいと思われた方は、河合塾KALSの相談会などに参加してみてください。より具体的なお話をしますので、活用していただければと思います。
特に双極性障害の方が心理専門職になることはまだまだ未開の領域であると思うので、心理専門職になってどんな活動ができるのか、僕自身すごく興味があります。ぜひ期待しております。
本日はありがとうございました。
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ライター
1990年生まれ。24歳のときにうつ病を発症し、病院のリワークを経て復職。その後3度の転職を経て執筆活動を開始。