双極性障害の方の精神科訪問看護利用事例

精神科訪問看護とは?双極性障害の方が利用するメリットを専門家が紹介

公開日: 2023.11.23
最終更新日: 2024.3.29

「訪問看護」と言えば、高齢者が利用するイメージを持つ人も多いかもしれませんが、精神疾患が対象の場合、年齢は不問です。

今回は「訪問看護ステーションみのり」統括所長・小瀬古伸幸(こせこ・のぶゆき)さんにお話をうかがいます。

精神科訪問看護に関心がある双極性障害当事者に向け、役立つ情報を解説いただきました。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

プロフィール 小瀬古伸幸

「訪問看護ステーションみのり」統括所長 / 精神科認定看護師。
精神科訪問看護に携わり、現在は訪問型の家族支援を中心に活動している。
WRAPファシリテーターや、執筆者としても活動中。
主著は『精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本』。

※記事で紹介した商品を購入すると、売上の一部が双極はたらくラボに還元されることがあります。

精神科訪問看護は双極性障害をはじめ精神疾患の診断を受けた人は誰もが利用できる

松浦
松浦

私は双極性障害当事者ですが、精神科訪問看護を利用したことがありません。

そもそも「精神科訪問看護」とは何でしょうか。

小瀬古さん
小瀬古さん

世間的には「訪問看護」というと、65歳以上の高齢者の方が介護保険を申請し、介護認定を受けるイメージがあると思います。

一方「精神科訪問看護」は介護認定を受けるわけではなく、精神科医の指示のもと、医療として提供されるものです。

よく「若くても利用できますか」と質問されます。

条件は、
精神科で精神疾患の診断を受けている
・主治医がいる
・通院している
こと。

その上で、主治医が「精神科訪問看護指示書」を発行すれば、基本的にはどなたでも受けられます

松浦
松浦

精神疾患といっても、
・双極性障害
・統合失調症
・うつ病
・発達障害
など様々なものがあります。

それぞれ支援の仕方は変わるのでしょうか?

小瀬古さん
小瀬古さん

支援方法は全く異なりますが、必ず共通する軸があります。

まず精神科看護の技術として必要な「エビデンス(根拠)」が重要です。科学的根拠があるケア・看護をしっかり提供すること。

さらに症状の表れ方は人ぞれぞれ違うので、前兆を早めに捉えて、完全に悪くなる前に一緒に対策を考えていきます。

どのように生活を整えて、症状とお付き合いしていけるか一緒に考えていくのが、非常に大きな軸です。

前兆を「注意サイン」として察知して、対処していく。
最終的には訪問看護師がいなくても、ご本人だけで察知していけるように支援していきます。

松浦
松浦

訪問看護はずっと受け続けるものではないのですね。

小瀬古さん
小瀬古さん

卒業する時期があることはお伝えしています。

それは、ご本人が自分の状態をしっかり把握し、自力で対策を講じられるようになった時期です。

最終的にご本人に目指していただくのは、自分の専門家ですね。

支援者や家族に自分の状態を伝え、どのようなときにサポートが必要なのか伝えられることを目指します。

精神科訪問看護に関する情報収集方法および費用と利用回数の上限

松浦
松浦

精神科訪問看護を利用したい方は、どこで情報を知ればよいのでしょうか?

小瀬古さん
小瀬古さん

X(旧:Twitter)やInstagramなどのSNS、Google検索で知る方が多いです。

またダイレクトに主治医から勧められる人もいます。あとはご家族やご本人が非常に困って、行政の相談窓口に行ったところ、精神科訪問看護を勧められることもありますね。

地域に障害福祉を担当している窓口があれば、情報を持っていることが多いです。

担当の課がある場合は相談員さんが、
「ここの訪問看護は精神が得意ですよ」
などと教えてくれます。

大きい病院であれば精神保健福祉士(PSW)さんがいらっしゃると思います。
相談窓口で、精神科を得意とする訪問看護ステーションの情報を聞いてみてください。

松浦
松浦

費用面については、精神科訪問看護の場合、福祉ではなく医療の枠組みで料金が発生するのでしょうか?

小瀬古さん
小瀬古さん

医療保険が適用されるので、基本的には3割自己負担ですね。

さらに「自立支援医療」という、医療費が1割負担で済む制度があります。

精神科訪問看護を利用されている方は、恐らくほとんどの場合申請されていると思います。

精神疾患の場合は「重度かつ医療継続が必要」とほぼ認められているため、上限額もかなり低く抑えやすいです。

都道府県や市町村によっては、支払った金額が還付される場合もあります。

保険の種類によって変わりますが、ぜひホームページでご自分の地域の自立支援医療情報を調べていただきたいです。

松浦
松浦

月の利用上限回数は決まっていますか?

小瀬古さん
小瀬古さん

基本的に医療保険で認められているのは週3回までです。

ただし、
・退院後3か月間は週5日まで利用可能
・精神科特別訪問看護指示書の交付により、最大で14日間は毎日でも利用可能
など週3回以上利用できる場合もあります。

精神科訪問看護を休職中に短期間だけ利用するケースも

松浦
松浦

双極性障害当事者でも、仕事も身の回りのこともできている方の場合、あまり精神科訪問看護は利用しないのでしょうか?

小瀬古さん
小瀬古さん

利用されないですね。
ただ、私が訪問した方のなかには、休職していた勤め人の方がいました。

産業保健師や産業医が定期的に訪問していましたが、なかなか復職が難しい状態でした。

このケースでは、産業医の方と連携をとりながら、一時的な訪問看護を3か月ほど提供しましたね。

松浦
松浦

体調を崩したり、働くのが難しかったりする状況のなかで、一時的に利用される方がいらっしゃるということですね。

小瀬古さん
小瀬古さん

そうです。働き始めたばかりの頃、仕事に慣れるまでに大きなストレスがかかる人もいます。

その間に、週1回や2週間に1回などの頻度で、精神科訪問看護を受ける方もいらっしゃいますね。

松浦
松浦

例えば調子が悪くて、薬を取りに行くのも難しい方がいらっしゃると思います。

その場合、精神科訪問看護で来た方に、代わりに薬を取ってきてもらうことは可能ですか?

小瀬古さん
小瀬古さん

可能ではありますが、それをいつまでも続けるわけにはいきません。

危機的な状態になる1歩手前で予防するために、精神科訪問看護が存在します。

できる限り、調子が悪くなる2歩手前、3歩手前で気づいて対策を講じることが大切です。

とはいえ、うまくいかない場合もあります。その際に私たちが重視するのが「ご本人にどのような動きができるか」です。

小瀬古さん
小瀬古さん

私たちは「診察に行くのが難しいから、代理受診します」と言うのではなく、一緒に状況を主治医に伝えるようにします。

電話で今の状況を主治医にどう伝えるか考える。
「電話するのもしんどいです」という状態なら、一緒に電話で話す内容を考えるんです。

電話中は私たちが横について、いつでも電話を代われるようにサポートしていきます。

「何でもかんでもやってあげる」のではなく、ご本人が必要なことに自分でアクセスできるよう、一緒にサポートしていくイメージですね。

精神科訪問看護を活用した「何段階も前の予防」が双極性障害では大切

松浦
松浦

実際に小瀬古さんが精神科訪問看護をされるなかで、心がけていることを教えていただけますか?

小瀬古さん
小瀬古さん

双極性障害の場合、一番大事なことは予防です。
1段階前じゃなく、2~3段階前にちゃんと手を打っていくこと。

ご本人は「軽躁状態ぐらいの方が、調子が良いんです」と仰る場合もあります。

しかし軽躁になるということは、何週間後、あるいは何か月後かにうつが来るということです。

小瀬古さん
小瀬古さん

うつの深さは双極性障害のⅠ型Ⅱ型ともに同じで、期間は長いと言われています。なので、できるだけ予防していきたいのです。

例えば、睡眠状態が不安定になりやすいのであれば、アプリで常にチェックしてみるとか。
ご本人が客観的に自分の状態をモニタリングできるようにしています。

2~3段階手前で対策を講じて、ご本人と一緒に、躁になる前にコントロールしていくことがポイントです。

情報:日本うつ病学会による冊子『双極性障害(躁うつ病)と つきあうために』の「双極性障害とつきあうために:患者さんご自身が心がけること」(pp.9~16)に、予防に役立つ情報が記載されています。

無料でダウンロードできますので、冊子に書き込むなどして、ぜひ活用してみてください。

松浦
松浦

これまで「訪問看護」というと、利用者の「これをやってほしい」という要望に応えていくイメージがありました。

どちらかというと受け身なサービスだと思っていましたが、実際は何段階も前の予防というきめ細かい対応をされているんですね。

小瀬古さん
小瀬古さん

要望に応えることは簡単です。自分たちも「支援できている」という実感を得られますしね。

ただ、やはり重要なのは、ご本人が自分でアクセスして情報を手に入れることです。
そこをサポートすることが一番大切な役割ですね。

松浦
松浦

双極性障害で働こうとされている方、働いている方、サポートするご家族などに、メッセージはありますか?

小瀬古さん
小瀬古さん

もし「精神科訪問看護が双極性障害の予防に役立ちそう」と思ったら、一度活用してほしいと思っています。

費用負担もそこまで大きくありません。

通院と薬局の利用だけで医療費の上限額に届く方の場合は、訪問看護を受けたとしても、自己負担がない可能性があります。

「支援があると自分の力になるんじゃないか」と思われた方は、まず主治医に相談した上で利用するか判断していただけたらと思います。

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