
周りに期待せず自分の看病と仕事を両立 40代女性・双極性障害 専門職(正社員)
欧州に本社を構える外資系企業にお勤めの”さんご”さん(仮名)。入社11年目で室長に昇進するも、業務過多のため体調を崩して半年で休職。復職後は、タスクの見直しに加え、働き方や生活面での工夫により現在まで働き続けています。「周囲が配慮してくれるわけではない」という意見を聞き、自分から働き方を変えていったと話すさんごさん。どんな工夫をして働いているのかについてうかがいました。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール さんご
40代女性/外資系メーカーでプロジェクト管理と業務支援を担当
過去4社で働き、外資系メーカーに転職。現職で2度目の休職後、気分の波が激しくうつ状態がひどくなった際に双極性障害と診断された。会社と話し合って職場環境を整え、現在は専門的な知識を必要とする部署でプロジェクト管理などの仕事をしている。勤続14年目(2021年5月現在)。
管理職での業務過多
仕事が重なり休みがちに


さんごさんのお仕事について教えてください。
外資系メーカーでプロジェクト管理や業務支援をしています。


具体的にはどんなことをするのですか?
プロジェクト管理は、部署が立てた活動計画の予算策定や進捗管理をしています。業務支援は、上司のスケジュール管理や報告資料の作成、会議のサポートなどです。


管理から事務的なことまで幅広く担当されているんですね。
早速ですが、仕事上で苦労した経験を教えてください。
入社11年目のことです。室長に昇格し、増加した業務量に対応できず休職をしました。
管理職として復職して2,3か月はなんとか働いたのですが、「管理職なんだから新しくこれをやってほしい」「問題が発生したからチームを率いて解決して欲しい」など次々に仕事が来て、未経験の仕事が重なったことがきっかけで休みがちになりました。


復職してから休みがちになるまでの体調はどんな状態でしたか?
うつ状態と躁状態の気分の波が激しく表れていました。
私のうつ状態は、ネガティブになるというよりも体が動かなくなります。ひどいときはベッドから起き上がれませんでした。
躁状態はどんどんアイディアが浮かびます。「こういう切り口で」「こういう提案を」など次々と浮かんで、関係する部署の人に実現に向けて掛け合いました。
この時は提案内容が現実的だったので後から人に責められなかった。でも、躁状態の後にはうつ状態がセットで来るので、躁状態自体が良いものではないと現在は自覚しています。

上司が偏見なく聞いてくれた
「躁やうつのトリガーは?」


休みがちになった時、双極性障害の自覚はありましたか?
その頃に初めてリーマス※を処方されました。
主治医は恐らく「双極性障害という病名にとらわれない方がいい」という理由から診断を断定はしてくれませんでしたが、私は双極性障害になったと思いました。

※気分安定薬の一種。双極性障害の躁状態とうつ状態の治療と予防に効果があり、双極性障害薬物治療の基本となる薬

服薬の変更によって自覚されんたんですね。
リーマスを服薬して気分が落ちついても、業務が多忙になるとまた気分が高揚しました。その後、ふたたび身体が動かなくなって「いよいよ会社と働き方を交渉しないとダメだな」と思いました。
主治医に「うつ状態では上司に病状をわかってもらえないから、病名をはっきり言ってほしい。それをもとに会社と話し合いたい」と伝えたら、診断名が双極性障害になりました。


診断が変わったのですね。会社に病名を報告された時、どんな反応でしたか?
上司から聞かれた最初の質問が「躁やうつに入るトリガーは何か?」でした。上司にとっては何を避ければ対処になるかが一番の関心事でした。


それは的確な質問ですね。
はい。「的を射たことを聞いてくれた」と思いました。「躁状態に入るトリガーは深夜まで働くことで、徹夜が一番まずい」というのは確信があり話がしやすかったです。
偏見なく話を聞いてもらい納得もしてもらえて、上司に恵まれました。


上司に恵まれただけでなく、会社と交渉するため主治医に掛け合ったり上司からの質問に端的に回答したりされた対応もすごく良いなと思います。
他に会社と話し合ったことはありますか?
私から「部署を異動する」「同じポジションのまま業務量を減らす」「会社を辞める」の3つのいずれかを選択したいと掛け合いました。
最終的には、ポジションはそのままで業務の一部を上司が代わりにやってくれることに。上司との業務進捗管理の打ち合わせを定期的に行うことにもしました。


管理職業務の中で、何が負担かを明確にして整理されたんですね。
同じ部署の人には病気のことを話しましたか?
「時短勤務など特別な働き方をするわけではないので、病気のことを他の人たちに言う必要はない」という話になったので伝えていません。

子育て中の同僚を参考に
自分の看病と仕事を両立


働き方について工夫していることはありますか?
以前は、「同僚が残業している時、先に帰ってはいけない」という考えがありました。
双極性障害の当事者会に行った時にその話をしたら、参加者から「仕事の時間は自分で制限をしないと、周囲が配慮してくれるわけではない。周りに期待をしないで自分から”ここまで仕事をしたら帰ります”という、線が引けるようにならないといけない」と言われ、はっとして。
自分から働き方を変えなきゃいけないんだなって考え、実行するようにしました。


周りに合わせるわけではなく、自分を大切にするように切り替えたんですね。
同僚の中には時短で働く子育て中の人が多く、その姿を見て「育児と仕事を両立しているように、私は自分の看病と仕事を両立させよう」と参考にしました。


色々な場面をご自身の気づきに繋げている点が素晴らしいですね。
あとは、優先度の低い仕事は手を抜くことも意識しています。


手を抜くというのは?
人にやってもらうとか「こだわりでやる」は、なるべくやめるようにしましたね。


こだわりを手放すことは簡単ではないと思うんですけど、どうやってやめられたのですか?
体力の限界があり、そこで向き合いました。過去に10の力を出せた時と比べて、今は6までしか働けない。客観的に自分を見て「その作業をしたら6に収まらない」と判断したら、諦める。
当事者会で「やりたいことを気が済むまでやりたい」という話をよく聞きます。


私も何度か耳にしたことがある話題ですね。
「やりたい」というのは自分の思いであって、それが今の仕事で求められているのかというと違うかもしれないですよね。
調子が良いという気持ちよさを優先するのは、ちょっと違うんじゃないかなと思いますね。
あと、工夫からは外れますが、業務で英語を扱う職場であることはいい面もあります。日本語だったら喋り過ぎてしまうところを、英語では一旦考えてからでないと話せないことが躁状態の防止に役立っています。


私も英語を読むためには集中しないといけないので、抑制される感覚は分かる気がします。
現状を継続する努力
どれだけ節制しても構わない


では、生活面で工夫されていることはありますか?
入社7年目で初めて休職した時に内服を開始したため、お酒を止めました。数年前からは栄養バランスを意識した食事を週末に作り置きしています。
それに加えて、双極性障害の診断をきっかけに体調への負担が少なくなるようにライフスタイルを変えました。
移動による疲労と満員電車のストレスを避けるため、会社の近くに引っ越しました。


引っ越すという行動自体に体力が必要だったと思いますが、体調に影響はなかったですか?
影響はかなり意識しました。調子が崩れることを予測して、通常よりも慎重に取り組んだので問題はありませんでした。
あと、通院の頻度は多く、直近1年間は週1回のペースです。


働きながら週1回は多いですね。私は月1回で、調子を崩した時でも隔週でした。
私の場合は、症状が落ち着いているときでも2週に1回は通院をしてます。
他にはノートを取るようになりました。働いている時間や睡眠の時間、日々の体調や精神的な状態などを記録して自己管理に役立てています。



手書きで記録をつけられる人を尊敬します。私は断念して、スマートウォッチを使った自動記録に頼っています。
手書きも向き不向きがあると思いますが、私には合っていますね。
主な中身は、睡眠や活動の記録をマーカーで塗り、日々の体調や気分・思考力を文字で書いています。体調への影響が大きい「負荷の大きい仕事」や「人と接するイベント」などは目立たせています。
毎晩、その日を振り返りながらノートを書いています。


どんな記録をつけているか参考にしたい人は多いと思うので、実物を見せていただけてありがたいです。
休日はどのように過ごされていますか?
映画やお芝居を見たり、美術館に行ったり。そういうのがすごく好きなんです。好きなことを楽しむにはお金を稼がないといけない。
「お金がないから諦めるよりは、やりたいことをやるために頑張って仕事をしてお金を稼ぎたい」という考えです。


プライベートの時間をとても大切にされているんですね。
今はある程度満たされていて、この状態を継続する努力をしたい。そのためにはどれだけ節制をしても構わないと考えています。

イラスト:あかり*生き辛いOL
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双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。