「双極症で働き続けるために」休職のラインと過ごし方について産業医がアドバイス

公開日: 2024.8.16
最終更新日: 2024.8.20

産業医は、企業で働く人が心身ともに健康に働けるよう、専門的な立場から指導・助言を行う医師です。

双極症(双極性障害)と付き合いながら働くなかで、体調の波によって仕事に影響が出てしまうことは少なくありません。

今回は、産業医の佐々木規夫先生に「双極症と休職」をテーマにお話を伺い、双極症当事者が退職せずに、うまく働き続けるためのポイントを解説いただきました。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

プロフィール 佐々木 規夫(ささき・のりお)

産業医科大学 特命講師
2004年に産業医科大学医学部卒業。
東京警察病院を経てHOYA株式会社の専属産業医および健康統括マネジャーとして従事。
その後、医療法人財団厚生協会 大泉病院での精神科勤務を経て、現在は精神科診療と複数の企業の産業医活動を行っている。

産業医の役割は「仕事と人をうまくマッチングさせること」 休職後にちゃんと良くなって職場に戻るための方法を考えていく

松浦
松浦

そもそも、産業医は具体的に何をされるのでしょうか。

佐々木先生
佐々木先生

産業医の役割は、病院で診療することとは少し違います。例えるなら、仕事と人をうまくマッチングさせることでしょうか。

社員一人ひとりが健康を損なわず、安心して働けるよう、様々な面からサポートしています。

松浦
松浦

産業医の方は、メンタル面を中心にサポートしてくれるイメージがありました。

実際はそれ以外の活動もされているんですか。

佐々木先生
佐々木先生

メンタル不調からの職場復帰サポートは、重要な役割の一つですが、それだけではありません。

健康診断の結果を踏まえた指導、ストレスチェックや健康経営の実施支援なども重要な役割ですね。

※健康経営…従業員の健康管理や健康増進への取り組みを、将来的に企業の業績や収益性を高める投資と考え、戦略的に実践すること。

参考:健康経営|経済産業省

松浦
松浦

実際に担当されている企業では、メンタルとそれ以外の問題の比率はどれくらいですか。

佐々木先生
佐々木先生

会社によりますが、製造業は安全面や衛生面を多く診ていくので、メンタルは2割程度だと思います。

オフィス系の企業は危険作業がないので、8~9割はメンタル面ですね。

活動するなかで感じているのは、メンタル面の問題を抱えながら働くことが、昔より普通になってきているということです。

精神的な不調があるのは当然で、どう働くかを考えてくれる社会になってきたのではないでしょうか。

松浦
松浦

では、休職や復職が一般的になってきて、実際に数も増えているのでしょうか。

佐々木先生
佐々木先生

はい。

私が関わっている会社は、とにかくちゃんと良くなって職場に戻るのが基本路線です。

病気になっても退職を希望しない方はいらっしゃいますから。

ちゃんと良くして復職するにはどうしたらいいのか、産業医がご本人と会社と一緒に考えていくのが重要ですね。

産業医を選任する事業所の規模と診療の実態 双極症の専門知識以上に「仕事と人がマッチングできるか」の視点が大切

松浦
松浦

産業医を配置する会社の規模は決まっているそうですね。

佐々木先生
佐々木先生

1つの事業所に所属する人数が50人を超えた場合、産業医を選任しなければならないという法律があります。

※参考:産業医について|厚生労働省

松浦
松浦

産業医の方のご専門が精神科とは限らないですよね。

専門外でメンタルの相談を受ける場合、どうされるんでしょう?

佐々木先生
佐々木先生

実際のところ、産業医は、精神科や心療内科以外の先生がほとんどだと思います。

ただ、必ずしもメンタル面について専門家的に詳しい方が適任とは限りません

より大切なのは、従業員の方の業務や仕事の適応状況から、今後も職場で働き続けられるか考えていく力です。

もちろん双極症の方を診るなら、双極症に詳しいほうがいいでしょう。
でもそれ以上に「仕事と人が合っているか」という視点を持てることが、専門知識より重要だと思いますね。

松浦
松浦

「産業医の先生が自分の病気を分かってくれない」と言う方にお会いすることがあります。

佐々木先生
佐々木先生

その方は、病気の細かい知識より、自分の心情や苦悩、大変だった経験、病気のつらさなどを分かってほしいのではないでしょうか。

そういう文脈であれば「話を聞いてくれない」「杓子定規な対応をされた」と感じることはあるかもしれません。

松浦
松浦

なるほど。
「産業医が精神科出身じゃないから、分かってくれない!」
という意味ではないんですね。

佐々木先生
佐々木先生

私も含め、精神科出身の医師でも分かってあげられないことは、どうしてもあるでしょう。

逆に、精神科出身ではなく、きちんとご本人に寄り添える先生もいらっしゃると思います。

大切なのは「産業医マインド」を持てるかですね。

双極症で休職しやすいのは「頑張り過ぎる人」産業医は休むべきラインで介入する

松浦
松浦

産業医が双極症の方に関わるのは、主に休職から復職までの期間かと思います。

佐々木先生が担当されたなかで、双極症で休職される方の傾向やパターンはありますか?

佐々木先生
佐々木先生

働き過ぎる・頑張り過ぎる方が多い気がしますね。

双極症の方は気が利いて、細かいところまでよく気づき、色々と先読みして頑張ってくれる方が多いと感じます。

仕事でも優秀で頑張れるので、ついやり過ぎてしまい、それがきっかけでうつ状態に入ってしまう。

逆に、テンションが上がって気分の波をコントロールできず、体調を崩す方もいらっしゃいますね。

お薬を自己中断するなど、服薬を自分の裁量で調整してしまうのも原因の1つです。

松浦
松浦

ある程度の症状があれば、まず休職を検討することになりますか。

佐々木先生
佐々木先生

状態によりますが、必ず休まなければならないとは思いません

過重労働や働き過ぎが原因の場合、職場と相談して業務調整すれば、勤務を続けながら落ち着いてくる方もいらっしゃいます。

ここでお伝えしたいのが、双極症の方にとって大事なのは、生活リズムということ。

夜勤やシフト制などの働き方で、出社時間がバラバラだと、症状が悪化するかもしれないんですよ。

出社のタイミングを固定すれば、必ずしも休職しなくても、働きながら症状を落ち着かせられる可能性があります。

松浦
松浦

働き方の調整は、産業医の先生が言えば、職場が実施してくれるものですか。

佐々木先生
佐々木先生

ケースバイケースですが、産業医に相談が来る時点で、すでに上司や同僚も普段と違う様子に気づいていることが多いです。

「こうすればうまくいくかも」と話せば、調整してくれる会社は多いと思います。

松浦
松浦

調整しても難しい場合、休職せざるを得ないラインはどこでしょうか?

佐々木先生
佐々木先生

・出勤できない日が週に1~2日など、一定期間続く
・うつ状態や躁状態などにより、職場でうまく機能できなくなっている

そうなると働き続けるのは難しいですし、悪い状態を長く続けるメリットは、ご本人にも職場にもあまりないでしょう。

そこで、まずは一定期間、配慮しながら様子を見て、それでも変わらなければ「一度休んでみたら」と話しますね。

松浦
松浦

受け入れてもらえますか?

佐々木先生
佐々木先生

いきなり「休みなさい」と言うのは、ご本人にとって受け入れ難いものです。

真面目で一生懸命な方が多いので、思い悩んでしまうでしょう。
「仕事を投げ出していいのか」「迷惑かけちゃうんじゃないか……」と。

なので、医療のラインでストップをかけるべき時はありますが、もう少し様子を見ても良さそうなら、強引にご本人の意向は無視しません

話し合いながら様子を見て、ご本人も「1か月やったけどうまくいかなかった」と判断した段階で休むなら、納得を得やすいと思います。

松浦
松浦

判断はご本人に任せるけれど、ドクターストップのラインもあると。

佐々木先生
佐々木先生

はい。

分かりやすいのは「混合状態で身体は動くけれど憂鬱感がすごく強い」「生きていることがつらい」という時。これも、休むタイミングです。

本人が休職を望んでいなくても、休んで主治医に治療してもらわなければ、状況が悪化してしまうでしょう。

明らかな躁状態に入った場合、周囲を巻き込んで色々な事象が起きてしまうケースも想定できます。

ご本人は問題が起きている時に意識していなくても、後で「周りに迷惑かけてしまった」などと苦しむんです。

だからこそ、産業医が病状を理解し、ちゃんと介入します。

双極症で実際に休むことになった場合は一定のリズムで生活 自由度の高い任意入院と費用の抑え方

松浦
松浦

休職が決まった際の、良い休み方・過ごし方はありますか。

佐々木先生
佐々木先生

まずは、ちゃんと薬を飲むことですね。

薬が合わなくても勝手に服薬をやめず、主治医に相談していただきたいです。

また、休んだ直後はいいですが、ある程度落ち着いてきたら、生活リズムを元に戻していきます。

特に起床時間が大きくズレ込まないよう一定のリズムで生活して、普通の生活に近づけていくのが大事です。

松浦
松浦

一人暮らしで何も予定がないなか、生活リズムを整えるのは難しい気がします……。

佐々木先生
佐々木先生

昼夜逆転してしまったり、どうしても整わないなら、ご実家に戻るのも1つの手ですね。

家族など周りの人と共に生活することで、自然とリズムが整うことがあります。孤立感や孤独感が減れば、回復しやすいかもしれません。

とはいえ、ご家族との関係で同居が難しいという場合もありますよね。
その場合、当事者の方がどう思うかにもよりますが、私は入院も1つの選択肢と考えています。

松浦
松浦

入院ですか。

佐々木先生
佐々木先生

任意入院で生活リズムを整えていくのも十分ありかなと。

※:任意入院…患者自らが選択・同意して行う入院。原則、夜間を除いて病院への出入りは自由。

症状が改善した場合、医師の判断や本人の希望により退院が可能。

佐々木先生
佐々木先生

ある程度の強制感があるなかで、生活のサイクルが整っていくんです。

門限はあるものの、外出も含めてほぼ制限されないので、比較的自由に生活できるのもメリットと言えます。

松浦
松浦

朝は強制的に起こされ、朝昼晩と決まった時間に食事が出るので、自然とリズムが整うと聞いたことがあります。

佐々木先生
佐々木先生

ただ、入院には抵抗を感じる方もいらっしゃいますよね。

でも私は決して悪い選択肢ではないと考えています。
実際、生活リズムが乱れている患者さんには、1つの手段としてですが、提案することもあります。

松浦
松浦

入院はお金がかかりそうですが。

佐々木先生
佐々木先生

健康保険の高額療養費制度を活用すると、自己負担額を超えた分の払い戻しが受けられます。

高額でいきなり払えない場合は、事前に限度額を申請して、自己負担限度額以上を支払わなくて済む方法もあります。

※参考:医療費が高額になりそうなとき(限度額適用認定)|全国健康保険協会

佐々木先生
佐々木先生

実際に申請したい方は、入院を希望する病院や、会社が加入している健康保険組合に問い合わせてみてください。

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