
安定して働くためのカギは「刺激のコントロール」 40代男性・双極性障害/ADHD 法務(正社員)
3度の休職、上司とのトラブルなども経験しながら、新卒から転職することなく1社のみで15年勤務されている金太郎さん(仮名)。「安定して働きたいけど、同じことの繰り返しだと刺激を求めてしまう」と話す彼が働き続けられている背景について聞きました。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール 金太郎
40代男性/IT系企業の法務セクションに所属し、主に輸出管理の業務を担当
新卒でシステムエンジニアとして現在勤務する会社に入社。心療内科でうつ病と診断されるも、4年後に転院先の精神科病院で双極性障害と診断変更される。これまでに計3回休職しているが、その後は無事に10年が経過。ADHD(注意欠陥・多動性障害)とも診断されている。
新卒から転職なし 1社勤務で15年


いまは法務のお仕事を担当されているとのことですが、具体的な内容は?
主に輸出管理という業務を担当しています。法律で「輸出する際には必ず経済産業省の許可を得なければいけない」と定められているものがあるんです。
自分の会社から海外に送る物品が規制対象だった場合は許可申請をする必要があり、その事務手続きをつかさどる業務です。


なるほど。
主にデスクワークですか?
はい。仕事のほぼ全部が机の上で完結しますね。


これまでに就労されたのは何社ですか?
新卒でシステムエンジニアとしていまの会社に入って15年、一度も転職せずに働いてきたので、1社のみです。


双極性障害を抱えながら、15年1社のみは凄いですね。
上司に「バカヤロー」と食ってかかったことも


仕事上の“しくじりエピソード”としては何かありますか?
入社していったんは大阪本社に配属されましたが、すぐに東京の客先へ派遣され、3つのプロジェクトルームを転々と渡り歩く日々を過ごすうちに体調を崩し、うつ病と診断されて休職をしました。
配置転換で法務部門に復帰した直後、今度はむしろエネルギーがみなぎってるように感じて、朝の5時に出社して、夜も残業して…みたいなことをしていました。
いま思えば、双極性障害の症状だったんですけど。


私も軽躁状態の時は、まさにそんな感じでした。
ちょっと感情的になって、上司に「バカヤロー」と食ってかかったこともあります。


それは、どういう流れで?
自分のやろうとしたことを邪魔されたと感じたんですよね。
イライラが強くなっていて、その根っこにはおそらく焦燥感というか、「じっとしていられない」みたいな感情があって。


うんうん。
朝早くに会社へ行って仕事をしようとしていたのを「ちょっと待て」と止められた時に「邪魔するな」という感じで食ってかかったり。
逆に、うつが発症した時は「食べられない」「眠れない」という感じだったんですけど、病院でもらった薬を飲んでいるうちに、過眠や過食などの症状が表れはじめまして。


以前とは逆の症状になったんですね。
はい。
その後、転院先の精神科病院で「双極性障害」と診断を変更され、3か月間入院しましたが、その後は再休職することなく10年が経過しました。

休職せず10年働き続ける工夫
「常識的な振る舞い」とは?


双極性障害を抱えながら休職せずに10年も働き続けているということは、何かしらの工夫をされてきたと思うんですが。
まずは、病院で正しい治療を受けることが大前提ですね。


はい。
その上で、社会人としての常識的な振る舞いを身に付けることでしょうか。


「常識的な振る舞い」とは?
やっぱり、上司や先輩に口答えは駄目ですね、当たり前ですけど(笑)。


確かに(笑)。
口答えは、軽躁が原因でしてしまったのですか?それとも逆に、カッとなって口答えしたことがきっかけとなって軽躁になっていったのでしょうか?
口答えは年がら年中するわけじゃなく、やはり、そういう(気分の)波が背景にありました。
当時の主治医にも「躁に傾いているときはカッとなりやすい」と言われていましたから、軽躁の影響はあると思います。


口答えをせず、常識的に振る舞うために、何か心がけていることは?
「周りの人を見る」っていうことですね。自分の職場ではどういう仕事のやり方をするのがスタンダードなのかを見る。
特に、評判のよい人を見る。僕の場合は1つ下の後輩にすごく仕事のできる人がいて、彼は周りとの人間関係もうまくいってるんです。
そういう人と一緒に仕事をするのが一番ですね。


口答えをしてしまいやすいのはどんなシチュエーションですか?
例えば、他部署から上司経由で対応を依頼されたときですね。「なんでそんなことしなきゃいけないんですか!必要ないって言い返してくださいよ!!」といった口答えをしていました。
その背景を冷静に考えてみると、単に「面倒くさい」というだけではなく、実は自分の中に「どう変えたらいいんだろう」とか「変えたときの影響が分からない」という自信のなさや不安があったんです。
だから、身近な人に八つ当たりをしていたんじゃないかと。


うんうん。
すぐに言い返さないで、いったん自分で受け止められるようになるには、仕事の実力をつけていかなければいけないんですよね。
もし、いまの僕が同じこと言われたら、多分「分かりました」と受け止めて、「A案とB案を作ったんですけど、どちらがいいですか」というぐらいのことは言えますね。
かつての僕には、上司や先輩に甘えている部分があったんです。それがリストラや不幸な出来事が重なって上司も先輩もいなくなり、自分がやるしかない状況で一年間仕事をやりきった経験から、「俺できるじゃん」みたいな自信が生まれたという感じです。

自分から刺激をコントロールすることが
安定に繋がる


現在、働き続けるためにされている工夫は?
十分な睡眠をとることですね。毎日7、8時間は寝ています。


気分の波があって寝付きにくいときには、何か工夫をしていますか?
一時期は松浦さんみたいにスマートウォッチを着けて、記録をとっていたんですけど、最近はあまり意識していません。
コロナ禍でテレワークになり、「早く寝ないと明日の通勤とか仕事がつらいぞ」というプレッシャーがなくなったからかもしれないです。


なるほど。
あと、なるべく遅刻・早退や当日欠勤をしないようにしてます。
精神疾患で悩んでいる人には「それができれば苦労しないよ」って言われると思うんですけど、「遅刻してもいいや」「早退してもいいや」「休んじゃってもいいや」と思うと、私の場合は実際そうなりがちです。
でも「絶対しないぞ」って言ったら、結局挫折して、すごく自己嫌悪することになる。だから「なるべくやれるところまでやろう」っていう意識を持つようにしています。「なるべく」っていうのがミソですね。


他にも工夫されていることはありますか?
仕事での成果を意識することですね。かつての自分は、とりあえず出社して、依頼された仕事に対して反応していただけだったんです。
問い合わせの電話がかかってきたら対応するし、メールが来たら返事するし、上司に何か言われたらやるし…みたいな受身的な過ごし方をしていました。
でも漫然と同じような日々を過ごしていると、だんだん飽きていくんですよね。


分かります。私も同じことを繰り返す状況になると、変化や刺激を求めてしまいます。
だから最近は、自分で何かアクションを起こすようにしています。「社内勉強会を開く」とか「法改正の解説を◯ページ書く」とか。
そういうアクションを普段からまとめておくと、業績面談とかでもアピールしやすいですし。


変化や刺激を求める背景に「飽きやすい性格」があると思われますか?
やっぱり刺激は大事だと思っています。
でも僕の場合、「飽きたから転職しよう」と考えたことはなかったですね。「刺激がなかったら、それでもいいや」とダラダラして、周りからもそれを黙認されて。
主治医から「病気だから無理をしない、6割の力で」と言われたのを、都合よく解釈していたんだと思います。でも、いまは自分からアクションを起こすようにしています。
上司に「今度こういう企画を考えてるんですけど、ぜひご意見ください」と働きかけたり。


自分から刺激を起こす、刺激をコントロールするっていうことが、安定に繋がっているということでしょうか?
そうですね。それが結果として人事評価にもつながるという、良いサイクルに入ったかなと思っています。
自分よがりじゃなくて、ちゃんと周囲から求められているアクションをすることが大事ですね。


金太郎さんのお話をうかがって、働き続けるには、単純に安定を図るだけじゃなく、より上を目指すような工夫も必要なのかなと思いました。
ありがとうございました。
イラスト:あかり*生き辛いOL
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双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。