
双極性障害Ⅱ型の精神科医の発症から現在まで「新刊は自らの経験を通じて文章にした」
Twitter(アカウント名:さくら精神科医)でフォロワーさんが約4万人いらっしゃる精神科医さくら先生。新刊「みんなの双極症」にて、双極性障害の当事者であると明かされています。
前回の「双極性障害と仕事」に続き、今回は「双極性障害と働く工夫」をテーマに、さくら先生ご自身の経験談を踏まえながらお話を聞かせてただきました。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール さくら先生
精神科医。さくらこころのクリニック院長。三重大学医学部卒業。初期研修で挫折、休職を経験し、再起不能だと悩んだ過去あり。その後も苦悩しながらの医者人生。今は弱さを抱えつつも、自分のできることをやっていこうと前を向いている。自身の、医師として、患者としての経験を元に、Twitter(@sakura_tnh)でラクに生きるヒントを発信中。
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目次
動画「精神科医が『躁うつ症状、薬中断、仕事(臨床)の支障と工夫』全て語る」
「双極性障害で再休職を正当化してないか?」という葛藤

双極性障害の発症はいつ頃でしたか?
大学生の頃からだと思います。
誰とも会いたくなくて家に引きこもっていた時期と、活動的になり人と積極的に会う時期がありました。
活動的になると車で三重県から江の島まで出掛けたり、富士山に登って下りた後も疲れを感じないといったことがありましたが、その時は自覚がなかったです。


三重から江の島はかなりの距離ですね(汗)。
実際に双極性障害の診断を受けたのはいつでしょう?
大学を卒業し研修医になり、1年目の後半頃に過労で数か月休むことになりました。そのときは抗うつ剤の治療を受けて軽躁状態になってしまい、週3日くらい当直業務に入りましたが、あっという間に気持ちが落ちていきました。
休んでしまった分を取り戻そうとして一生懸命働きましたが、それも続かず再度休むことになってしまいました。



再休職のときに双極性障害の診断になったんですか?
そうですね。一般的には抗うつ薬の反応で軽躁状態になった場合は、暫定的に双極性障害の診断になることが多いのですが、その時は「おそらく双極性障害だろう」と伝えられました。


診断された時の心境は?
「本当にそうなのかな。いや違うかな」と思ったし、最初は病気を受け入れられませんでした。
また「自分の根性がないために休んだのに、こんな病名をもらって休んでいいのか」と、再休職を正当化してよいのかという葛藤もありました。

双極性障害と付き合いながら精神科医として働く工夫

双極性障害と診断されて、その後どのようにして精神科医を選ばれたのですか?
研修医が終わった後もしばらく休んでいましたが、「そろそろ働かないと」と考えて勤める病院を探しました。
精神科医を選んだのは、自分の姉にも精神疾患があり、精神科という診療科が身近だったことが理由の一つです。

加えて、体力に自信がなく、外科のように手術が始まると何時間も立ちっぱなしであるような仕事は難しいと考えました。
このように、積極的な理由と消極的な理由の両方で判断しました。


実際に精神科医として働き始めてどうでしたか?
抑うつ状態からのスタートだったので、体調不良という名目で欠勤したり、勤務中にしんどくて耐えられないときは当直室で落ち着くまで寝転んでいたこともありました。
とにかくこの仕事にしがみつかねば、という思いで働いていましたね。
研修医時代に休んだことで「今までの研修で培ってきたものが全て無くなってしまった」という思いにとらわれていたのですが、少しずつ仕事に慣れ、周囲のスタッフからも信用を得られるようになると、入職当初よりもストレスを感じずに働けるようになっていきました。


その時はどんな工夫や対処をして仕事をされていたのですか?
どの仕事でも言えることですが、ある程度は慣れですね。
石の上にも三年と言いますが、コツコツ積み重ねていくことで、うまくできることが少しずつ増えていきました。



先生は11年同じ病院に勤務されていますが、長く同じ場所で働き続けることに飽きたりしませんか?
私は前職まで、うつで休み過ぎた罪悪感によって退職したり、躁のときに勢いで転職したりを繰り返していたのですが、先生はそういったことはなかったのですか?
浮き沈みはあるけれど、沈んでいても仕事はできるぐらいの状態だったので継続できました。
しんどいときは帰宅してから寝込んだり、休日ずっと家にいたりしてバランスを取って何とか乗り切り、元気なときは仕事以外の時間に毎日ブログを書いたりしていました。


病院の仕事以外にも、自分なりに刺激を受けることをやっていたんですね。
病院の中で徐々に役割が増えたこともプラスでしたし、産休育休で仕事の重圧から離れたことも大きかったです。
育児ならではの大変さもありましたが、仕事から離れて休憩・気分転換できたことで、長期間、同じ病院で勤務医を続けられたと思います。

クリニック開業は軽躁の勢い?

開業を決断するにあたって、周りから反対されませんでしたか?
反対されましたね(笑)。


開業を計画し始める数か月前に軽躁状態になって、開業とは別の多額の投資話を進めようとして家族と揉めたんです。なので、また軽躁の症状が出ていると思われ、反対されたのも当然のことでした。


「軽躁の勢いではないので、開業しても問題ない」と先生自身も周囲も思えた根拠は何だったのでしょうか?
根拠の1つは、冷静に、現実的に、開業の計画について説明できたことです。
投資の話のときは周囲の「大丈夫なの?」という問いに、感情的に「大丈夫だよ!なんで反対するの!」と言い返していましたが、開業の話のときは冷静に「大丈夫、こういう条件でやっていくつもりだよ」「勤務医の方も続けるし、リスクを小さくするように考えて計画しているよ」と説明することができました。


勤務医と開業医の違いは何でしょうか?また、働き方に関して工夫していることはありますか?
開業医の場合は、自分の仕事の裁量権があること、業務量や業務内容をコントロールできることが大きな違いです。
働こうと思えばたくさん働けますし、その逆もできる点についてメリットが大きいと感じています。
また、大人数のスタッフで構成される病院とは違い「こういう診療スタイルで患者さんを診たい」という想いについても自由に表現でき、少人数のスタッフに共有できることも大きなメリットです。

働く上での工夫としては睡眠時間をきちんと取ることです。他には患者さんにも伝えていますが仕事の日も休日も同じ時間に起床、就寝することが大切です。睡眠時間が同じでも時間帯がずれると体調が整いません。
しんどい時は家族と過ごす時間を減らして1人で横になったり、仕事では診察の予約枠を変更して働く時間を減らすなど、早めに対処することを意識しています。

新刊「みんなの双極症」に込めた思い

「みんなの双極症」出版の経緯について教えてください。執筆は大変だと聞きますが体調に問題はなかったのですか?
書籍化の話をいただく前から、双極性障害の患者さんからの質問に答える「一問一答形式のブログ」を書いていました。
ある程度できていた文章を基に診療の合間や休日に加筆、修正等の作業をして完成させました。


ブログ記事という過去の積み重ねがあったから、ラクになる部分もあったんですね。
双極性障害をテーマに選んだのは、ご自身が当事者だからというのが大きな理由でしょうか?
そうですね。本の中にはあまり自分のエピソードは書いていませんが、自分の経験したことを通して文章にした部分が多々あります。
そういった理由から他の病気のことを書くよりも、より多くの方に届くような深い内容にできたのではないかと思っています。


双極性障害の知識や情報だけでなく当事者の目線に立った内容だと一読者として思います。
それでは最後に本に込めた思いと、これから読む方へのメッセージをお願いします。
双極性障害という同じ診断がついていても、症状や経過は多様なので、目指すゴールはそれぞれ個別であっていいと思います。


薬を多く飲んででも症状の厳密なコントロールを目指すゴール、多少浮き沈みがある生き方でもよいと容認しながら生きるというゴールもあるでしょう。
そういう指針に沿って、治療者と患者さんとが一緒にやっていけたらいいですね。
双極性障害は長く付き合っていく病気です。
ご自身の病気を理解してくれる方に伴走してもらいつつ出来るだけコントロールしながら、やりたいことをやって過ごせるような生き方を皆さんに目指してほしいと思います。

書籍「みんなの双極症」では
他にも様々な事例を紹介しています
「みんなの双極症」は、さくら先生がブログ上で「主治医には聞きにくいこと」をテーマに双極性障害の方から受けた質問を一冊の本にまとめたものです。
患者の困りごとや悩みごとに具体的に助言しており、科学的根拠のある話から、先生の治療者として、経験者としての経験からの回答となっている部分もあります。
この本を通じて、病気への理解を深めることや、再発予防のための生活習慣を見直すことはもちろん、ご自身の困りごとについて、主治医、家族、支援者などとのコミュニケーションに役立ててみてはいかがでしょうか。
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双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師
1982年島根県生まれ。21歳の時に双極性障害を発症。20代で転職3回休職4回を経て、リヴァの社会復帰サービスを利用。のち、2012年に同社入社(現職での休職0回)。 一児の父。