アンケートで見る双極性障害の当事者と医師の目線のズレ【回答1058名】

2022年7月15日(金)に大分県で開催された「第19回日本うつ病学会総会」に、双極はたらくラボ編集長の松浦が参加しました。

松浦は共催シンポジウムにパネリストとして登壇し、双極性障害に関するディスカッションでコメントしました。

後編となる本記事では、松浦が参加した共催シンポジウムの様子をお伝えします。
前編「双極性障害の早期診断 理想と現実のギャップから見る治療の課題とは?」はこちら

【第19回日本うつ病学会総会 概要】
日時:7月15日(金)9:50~11:50
場所:大分県 J:COMホルトホール大分
題目:共催シンポジウム1「双極症のアンメットメディカルニーズ※を再考する」
座長:高江洲義和、加藤忠史
演者:武島稔、田中輝明
パネリスト:加藤忠史、武島稔、田中輝明、松浦秀俊
共催:住友ファーマ(株)メディカルアフェアーズ部

※アンメットメディカルニーズ:いまだ満たされていない医療ニーズ

パネリストの方々のご紹介

ディスカッションに参加されたパネリストの方々をご紹介します。

写真左より

・田中 輝明先生(KKR札幌医療センター 精神科部長)

・松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長/精神保健福祉士/公認心理師 双極性障害Ⅱ型当事者)

・武島 稔先生(医療法人 明心会 柴田病院 精神科/神経内科/心療内科 医師)

・加藤 忠史先生(順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学/医学部精神医学講座 主任教授)

・高江 洲義和先生(琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座 准教授)

アンケート結果の分析

今回のディスカッションに先駆けて、2022年6月に双極はたらくラボのYoutube、Twitter、LINEなどを通して、1058名の方に「双極性障害の当事者が医師に求めること」をテーマにした設問5つの事前アンケートを実施しました。

また発表当日の会場でも医師などの参加者(会場参加・WEB参加 計120名)にアンケートを取り、事前アンケートと一緒にグラフ化しました。

アンケート1.発症当時のあなたの医師は、症状が出てから双極性障害と早期に診断をしてくれましたか?

高江洲先生:アンケート1では、当事者側からは医療者の方が早期に双極性障害の診断をしてくれたかどうかについての調査を、また医療者からはうつ病と双極性障害の早期鑑別の難しさについての調査を行いました。

結果を見ると、双極性障害の早期診断の難しさが伺われます。当事者の方からすると、もっと早く診断してほしかったという意見が、医療者からすると当事者の気持ちも分かったうえで、早期の診断が難しいという苦しい気持ちが見て取れました。

今回の結果で意外だったところは、ポジティブな解答が多く含まれていたこと。これは双極性障害の診断技術や治療方法の選択の幅が増えたことが背景に考えられますが、特に今回のアンケートでは双極はたらくラボに参加して、ある程度症状が回復してきている人達が解答をされたからではないかと考えられます。

先生方のコメントはいかがでしょうか。

松浦:当事者の方にはたくさんお会いしていまして、皆さん早期に診断して欲しかったと仰っていました。一方で、実際には早期に診断をしてもらえていたという方も多いと感じました。

これは年代の違いがあるのかもしれません。今の若い方の世代であれば、双極性障害に関する社会の理解も進んでいて、早い段階で診断を受けている人も多いのではないかと思います。

武島先生:アンケートの結果から、医療者が早めに診断をしてくれていると当事者の方が評価されていることが伺われ、嬉しく思います。医療者は困難を感じながら診断を行うのですが、やはり診断はそう簡単なものではないですね。

もともと、うつ病と双極性障害ははっきりと分かれるものではないので、区別する事は難しいのですが、診察するときに頭のどこかで「この方は双極性障害かもしれない」という可能性を思い描きながら経過を追っていくのが重要なのではないでしょうか。

アンケート2.日々の診察であなたの主治医(現在)に対して自分の症状を伝えきれていると感じていますか?

高江洲先生:結果は医療者側が想像していた以上に「当事者の方々は医療者に症状を伝えることができている」という回答が見られました

医療者は行動記録表や睡眠記録表といった資料を当事者にお渡しし、コミュニケーションの補助資料にしたりと、皆さん色々な工夫をしています。このアンケート結果をもとに、医療者と当事者のコミュニケーションについて検討していきたいと思います。

松浦:双極はたらくラボのWebメディアにアクセスする方々は、働くことに関心があり、そのために自分の症状理解について前向きに取り組んでいる方が多い印象です。

そういった方々は、自分の症状を言語化したり、記録をつけて医療者に見せたりすることができているようですね。それが結果的に「医療者に症状を伝えきれている」という回答につながっているのではと思います。

武島先生:積極的に症状を話していただける人がいらっしゃる一方で、言いたいことがあったけれども言えなかったという人はたくさんいると思います。

治療の中で、様々な記録表やスクリーニングシート(評価のためのシート)を使うことができるので、それらを待合室で書いていただき、診察に持ち込んで活用していただくのも良いのではないでしょうか。

アンケート3.あなたにとってご自身の症状を認識して対処することは難しいと感じていますか?

高江洲先生:アンケート3では当事者の方にとっても医療者の方にとっても、日々変わりゆく双極性障害の症状を認識することは、決して容易ではないという結果が出ました。

松浦:そもそも双極性障害は症状の対処が難しいから困っているんだというコメントもいただいており、当事者の皆さんは大変だと感じているようです。

私も気分指数を毎日つけているのですが、今日(学会当日)は指数がプラス2でちょっと高かったのです。この大分の会場に来て人前で話をするとなると、気分指数が上がることは予想できました。やはり自分の症状への対処は難しいなと思いながら、今後も付き合っていかなければならないと感じています。

この設問で大半の方が「症状への対処が難しい」と回答していますが、逆に言えば難しいと思いながら、どうすれば前向きに症状に付き合っていけるかを考えているのだと思います。

田中先生:私も難しいテーマかなと思っています。症状が出ている時に自覚することは難しくないと思いますが、わずかな再発の兆候などを捉えることは難しい。

当事者の方と日々の記録を共有しながら、特徴的な症状がないかを見つけるような方法ができると良いと思います。

加藤先生:今回のアンケートを拝見しますと、症状を自覚することが難しいと感じている方が7割ほどいらっしゃいますが、これは双極はたらくラボの読者の方々が、すでに双極性障害であることを受け入れて対処されているからこその数値だと思いました。発症したばかりの方だと、9割くらいの方が難しいと感じられると思います。

発症初期はまず病気を受け入れられない方がほとんどで、発症後の段階から少しずつ対処を続けていくとしても、病気を受け入れる状態までたどり着くには何年もかかるでしょう。

今回のアンケートをご家族にお願いしたら違う答えが返ってくるかもしれません。例えば本人は軽躁状態の時は調子のよい状態と思っているのに対し、ご家族はそうは思っていないなど、症状の受け取り方にズレが生じたりすることがあります。

アンケート4.あなたの意見は治療意思決定に十分に反映されていますか?

高江洲先生:アンケート4の質問は、「共同意思決定(SDM)」の視点からも非常に興味深い質問です。これは世界中の色々な疾患に対してよく問われる質問なのですが、ほとんどの場合は医療者と当事者との考え方にズレがあり、医療者は当事者の意思決定を尊重できていると回答するのですが、当事者側からは十分でないという回答が得られます。

ですが今回の結果では、むしろ当事者の方が意思決定に積極的に参加していると回答していて、医療者の方が十分に話し合えていないと答えている結果となりました。今回、回答された方は双極はたらくラボに関心のある方々なので、おそらく状態が改善している方を中心に回答が集まったからなのではないかと思います。

松浦:個人的な経験ですが、診察の時に治療に対する考えを伝えることができた医師と、できなかった医師がいまして、伝えられなかった医師とは関係性ができていなかったり、話を聞いてもらえてないという印象を受けました。

その時の症状を伝えても、「でも、問題ないんですよね?」と聞き返され、頷くとすぐに先生との診察が終わり、処方箋が出されて帰るということもありました。

自分の気持ちを伝えられたと感じた主治医の時には、「症状がこうなってきたからこう治療しよう」といったことを互いに話し合えて、一緒に治療を決めている感覚がありました。医療者と当事者がお互いに情報を伝えあえる関係性が大事だと思います。

加藤先生:このアンケートの結果を見て、共同意思決定が9割の方でできていると捉えて良いのかというと、必ずしもそうとも言えないのではと。

ここでいう治療の意思決定というのは、「医療者の治療方針の決定に、多少は自分の意見が入っているかな」くらいの意味合いでも、「自分の意思が反映されている」と回答されている方も多かったのではないでしょうか。

本当の意味での「共同意思決定」として、一緒に話し合って決めるところまで十分やれているという方は、今回のアンケートのように9割いるとは必ずしも言えないと感じます

医療者側から見ると、意思決定をそこまでやらなければいけないと考えてはいるけれども、できていない人が多いのではないでしょうか。

アンケート5.あなたの主治医(現在)から十分に服薬継続の必要性の説明を受けて理解していますか?

高江洲先生:アンケート5の結果は予想通りで、医療者は普段からちゃんと説明しているという回答ですが、当事者の方はそこまで説明を受けていないと答えているという結果が出ています。

おそらくですが、医療者も説明自体は行っていると思うのですが、医療者が説明したことがイコール当事者が理解したことにはならないのではと考えられます。医療者が伝えきれていない部分、あるいは説明はしているけど当事者に理解してもらえていないことがあるのではないでしょうか。

松浦:医療者の方から説明をしていただくとき、例えば初診で当事者側の調子が悪い時などは、説明が理解できないことがあります。

私はリーマスを服薬継続した方がいいということに納得したのは、今日登壇されている加藤先生が過去に講演されていた市民講座で、予防の重要性のお話しを伺ったときです。その時はリーマスの効果を感じていたわけではないけれど、双極性障害は再発予防が重要で飲み続けることで予防になると伺い腑に落ちました

主治医から十分な説明を受けた、という経験は私の場合はあまりなかったように思います。

田中先生:当事者の方が「いつ説明を受けたか?」という視点が大事ですね。例えば医療者が1回説明したから、それで当事者にも理解してもらえたと思うのではなく、症状の経過を見て何回か同じ説明を行うといったように。

症状が安定している時も、継続して薬を飲む必要性を確認していく。そういったところを、医療者と当事者が一緒に確認しながら進めていくことが大事だと思います。

加藤先生:当事者のアンケートで、医療者の説明で理解していますかという質問に対し、20%くらいの方が「いいえ」または「どちらかといえばいいえ」と回答されていて、まだまだ説明を理解することが難しいと答える方が多いなという印象です。

当事者全員にパンフレットなどを使い、時間をかけて説明ができているかというと、100%できているとは言い切れない。このことは反省しつつ、明日からの診療を頑張りたいと思います。

ディスカッションを終えての感想

質疑応答の様子

武島先生:双極性障害には色々なアンメットメディカルニーズがあり、診断も治療も難しいと思います。当事者の方に「こういうことをやって意味があるんですか?」と言われることもあります。

その辺りを、我々医療者はできるだけ当事者とお話し、希望をもって治療をしていければと思いました。

田中先生:今回はアンケートの結果を見て、当事者の方々がどのようなことを思っているのかを知ることができました。様々なニーズをすぐに解決はできないので、医師と当事者で一緒に取り組んでいくことが大事だと思います。

加藤先生:双極性障害のアンメットメディカルニーズですが、双極性障害の薬は体重が増加するなどの副作用が多いと言われています。また症状がなくなっても、仕事ができないという場合が多かった。その背景として、認知機能障害という、認知機能検査の成績が低下していることが関係していると言われています

認知機能というと、認知症の始まりかと心配される方もいらっしゃるかも知れませんが、こうした症状も薬によって改善することが報告されつつあります。臨床試験でも、症状を評価するだけでなく、実際に当事者の方ご本人に社会的・職業的な機能が回復したかどうかを聞いたところ、改善が確認されています。

躁・うつの症状に加えて、認知機能も標的として治療していくことで、生活を取り戻すことにつながると思います。

松浦:本日は貴重な機会にお招きいただき、ありがとうございました。

学会に参加しませんかと言われたときに、お医者さんばかりの会場で何をしゃべればよいのかなと不安になりました。先生方のお話を伺って、治療をどうしたらよいかということを真剣に考えていることが伝わってきて、当事者として先生方の姿勢を嬉しく思いました。これから双極性障害が早く診断されたり、治療が安定する方が増えたらありがたいです。

私は当事者として、今回話された内容が学会の場だけでの共有にとどまらず、双極性障害の当事者にも広く知られる情報になることが大事だと思います。今回参加させていただき、多くの学びを得られました。

私たち双極はたらくラボは、医学研究というよりは、当事者による研究という体制で、実際に当事者の方が働くにあたってどう工夫しているのかということを取材しています。今後は医療と当事者との間で情報を交換できるような形で、何かお力になれることがあれば嬉しいです。

シンポジウムについて執筆者所感 

今回のシンポジウムでは、双極性障害のアンメットメディカルニーズという観点からディスカッションし、診断・治療についてまだまだ医療者がやるべきことは多いとわかりました。

松浦のコメントを中心に、もっともっと医療者は当事者と対話していくことが必要だということが感じられました。外来に来る当事者と話すことも大事ですし、このような学会の場にも当事者の方が一緒に参加していただいて、双極症の診断治療について絶えず議論をすることが大事なのではないかと思います。

編集長の学会レポート動画

【動画】双極性障害の当事者1058人が精神科医に求めること

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