双極性障害の早期診断 理想と現実のギャップから見る治療の課題とは?

双極性障害の早期診断 理想と現実のギャップから見る治療の課題とは?

公開日:2022.9.7
最終更新日: 2024.3.29

2022年7月15日(金)に大分県で開催された「第19回日本うつ病学会総会」に、双極はたらくラボ編集長の松浦が参加しました。

シンポジウムでは、座長の高江洲義和先生(琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座)を中心に、前半に二つの講義、後半にディスカッションが行われました。

本記事では、前半に行われた双極性障害に関する講義についてご紹介します。

※後編「アンケートで見る双極性障害の当事者と医師の目線のズレ」はこちら

【第19回日本うつ病学会総会 概要】
日時:7月15日(金)9:50~11:50
場所:大分県 J:COMホルトホール大分
題目:共催シンポジウム1「双極症のアンメットメディカルニーズ※を再考する」
座長:高江洲義和、加藤忠史
演者:武島稔、田中輝明
パネリスト:加藤忠史、武島稔、田中輝明、松浦秀俊
共催:住友ファーマ(株)メディカルアフェアーズ部

本シンポジウムの目的

今回の共催シンポジウムは「双極性障害のアンメットメディカルニーズ※を再考する」がテーマです。

双極性障害の診断や治療はこの20年間で大きく進歩しましたが、果たして医療者の行っている診断や治療が十分なものなのか。また当事者の方々が今の治療に本当に満足しているのかについて、医療者・当事者の双方の面から検討が行われました。

※アンメットメディカルニーズ:いまだ満たされていない医療ニーズ

座長の高江洲先生

講義1「双極性障害を早期に診断する 
~うつ病を難治化・複雑化させないため~」

武島先生(明心会柴田病院)より、双極性障害の早期診断の重要性と困難さ、および診断の工夫について講演いただいた内容の一部を紹介します。なお、講演は医療従事者向けを想定したものでしたが、一般の方にも参考になるものです。ぜひご覧ください。

講演者 武島先生

武島先生:双極性障害の早期診断が必要な理由は、単極性のうつ病(躁状態の無いうつ病)と治療方針が異なってくるためです。診断がつかず、双極性障害に対する治療が遅れれば、躁病エピソードの発生や自殺企図の危険性が高まることが考えられます。

双極性障害は珍しい病気かというと、決して珍しいものではありません。抑うつ症状を訴えて病院を受診される方の中に、双極性障害の方が多く含まれていると考えられます。

しかし、双極性障害の早期診断は難しいとされています。近年の研究では、初診で双極性障害であると診断された割合は全体の4分の1程度に留まり、残りは当初うつ病やパニック障害と診断されていたようです。

なぜ早期診断が難しいかというと、1つ目にはうつ状態の期間が圧倒的に長いことが挙げられます。

次には他の「精神科併存症(併発している他の症状)」の陰に躁状態が隠れてしまうこと

3つ目には躁とうつがどちらも存在する「混合エピソード」の症状が十分認知されていないことが挙げられます。

3つ目に挙げた理由の中の混合エピソードとは、躁・うつ両方の症状があらわれている状態です。私はこの混合エピソードを発見する事が早期診断の鍵になると考えています

早期診断の観点からは混合エピソードの意義はとても大きく、診察の場で確認可能な双極性障害のサインだと考えられます。当事者の方は通常、うつあるいは不安の症状しか訴えないので、ほとんどが適応障害や不安障害と診断されることが多いのです。混合エピソードがわからないと、治療の中で双極性障害の兆候が埋もれてしまうので、医療者は意識して躁・軽躁状態の症状を拾い上げる必要があるでしょう。

双極性障害の診断に関しては、過活動などのエネルギー増加の病歴を最初に尋ね、気分の変動を最後に尋ねるのが良いでしょう。

なぜなら過去の非常に短い期間の中で生じた気分を、細かく思い出せる人は中々いらっしゃらないからです。むしろ過活動や睡眠の変化は客観的に思い出しやすいので「過去に活動的で元気だったころはいつ頃でしたか。仕事や遊びで深夜まで起きていても疲れを感じず、睡眠が短くても平気だったことはありませんか。」という質問を行うわけです。

当事者の方はうつ症状や他の症状で受診されるかもしれませんが、常に双極性障害の可能性を考えながら診察するのが良いと思います。双極性障害の治療が上手く行かないのであれば、併存している症状の存在にも気を配る必要があるでしょう。

講義2「理想と現実のギャップから見る、双極症治療の臨床課題」

次に、田中先生(KKR札幌医療センター精神科)より、双極性障害の治療に伴う臨床課題についてご講演いただきました。

講演者 田中先生

田中先生:双極性障害の治療の現状としては、過去に比べて新しい治療薬が登場したことにより治療選択肢が増え、症状が悪化する急性期治療にも対応できるようになってきています。治療の有効性やエビデンス(治療の根拠)も科学的に確認されるようになりました。昔よりも治療しやすい環境になっています。

だからといって全ての問題が解決できたわけではありません。様々なタイプの双極性障害への治療について、まだまだ課題もあります。

例えば症状が消失した状態である「寛解(かんかい)」だけでは、十分な回復とは言えないと指摘されています。以前の治療は「寛解」を目指していましたが、現在では「パーソナルリカバリー」という状態を目指すようになりました。「パーソナルリカバリー」とは、「疾患があったとしても、十分にその人が満たされた状態」であることを指します

つまり単に病気が良くなったということではなく、その人にとってのウェルビーイング(本質的に価値のある状態)に到達することが重視されるようになりました。

パーソナルリカバリーを目指すことについては、さらに課題もあります。たとえば再発の問題。再発を繰り返すことで双極性障害の治療は難しくなっていきます。

昨今、指摘されている治療課題は他にも、

・機能的な回復を目指すにあたり、寛解しても認知機能障害が残ってしまう

・症状の改善を維持するための「急性期治療」から「維持治療」に移る難しさ

・身体的な健康を維持する難しさ

などがあります。

双極性障害の治療はより高みを目指す方向に進歩していますが、医療者に求められることも多くなっています。目の前の症状の改善・再発予防にとどまらず、その先の当事者の生き方までも含めた話し合いと、共同の治療体制が必要になると思います。

講義について執筆者所感 

シンポジウムの前半では、双極性障害の早期診断と、理想と現実のギャップから見る治療の課題について講義が行われました。

講義1では、双極性障害の正しい診断を行うためには、慎重な経過観察を必要とする一方、いくつかのポイントをおさえることで早期診断に繋がる可能性を示唆いただきました。

講義2では、現在の双極性障害治療の最前線から、どの様な治療課題が存在し、どういった治療目標を目指すかについてお話をいただきました。

双極性障害に関する最新の知見を得ることで、症状の理解に役立てることができたと考えます。

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