双極性障害と睡眠障害を専門に研究されている、精神科医の高江洲義和(たかえす・よしかず)先生。
琉球大学大学院医学研究科で準教授を務め、日本うつ病学会「下田光造賞」をはじめ数々の受賞歴がある精神科医です。
今回は、双極性障害で睡眠に不安を抱える方の悩みや不安に関する質問に、専門家はどう考えるか回答いただきました。
プロフィール 高江洲先生
高江洲 義和
琉球大学大学院医学研究科 精神病態医学講座 准教授(医学博士)。
研究テーマは「双極性障害」「睡眠障害」。料理が趣味の愛犬家。
目次
双極性障害では、躁とうつでやるべき対処が変わってきます。
躁状態になった時は「睡眠自体とらなくてもいい」ような状態になったり、とろうと思ってもとれない状態になったりすると思います。
まずは「ある程度寝られなくなってしまうのは仕方ない」と、理解することが大事です。
双極性障害の方に一番関係しているホルモンは「ドーパミン」という、興奮するためのホルモン。
ドーパミンが増えてくると、躁状態になって気分も高くなります。夜も含めて元気になるので、なかなか眠れなくなってしまうんです。
逆にうつ状態になると、ドーパミンが減って、元気が出なくなります。
寝ても寝足りなくなり、過眠という症状が表れてくることも。
では、睡眠薬を使わずに寝付きを良くするにはどうするかというと、リラックス効果がある行動をとることがおすすめです。
スマートフォンや蛍光灯などの強い光を避けつつ、興奮した身体をリラックスさせる手段を選ぶといいと思います。
「何がいいか」は人それぞれで、アロマを嗅いでみたり、ストレッチをしてみたりとか。
寝る1時間ぐらい前に、自分がリラックスできる方法をとって、落ち着いた状態でベッドに入ると寝付きは良くなると思います。
おそらく多くの方が「躁になった後に、上がった気分がどんと落ちるうつがくる」という、つらい経験をされていると思います。
うつ転は、季節ごとの日照時間の変動と関係していると言われているんですね。
北欧のような緯度が高い地域では、季節性の双極性障害という診断を受ける方もたくさんいるんです。
日本でもやはり季節ごとに日照時間の変動があって、冬が過ぎて春になると、日照時間が長くなり自然と気分が上がってきます。
夏が過ぎて、秋・冬に向かうにつれて日照時間が短くなると、うつになる。これは多くの方に自然と起きています。
ジェットコースターと同じで、ある程度上がったら、その後は落ちてしまうしかありません。
1回躁・軽躁になってしまったら、多少落ちるのはやむを得ないのです。
躁の後にうつになる原因はまだ分かっていないことが多いですが、躁の時にエネルギーが上がり、活動しすぎることが一つの要因ではないかと言われています。
躁状態では早く起きてたくさん活動したくなると思いますが、できるだけ決められた時間はベッドの上で過ごしていただきたいです。
自分のなかで最適な睡眠時間を確立し、躁の時もいつもと同じ時間までベッドの上で過ごすことを心がければ、睡眠への影響が多少は和らぐと思います。
躁状態で困る方も多いと思うんですが、やはり双極性障害の方が一番苦しいのはうつです。
うつ状態での過眠については、時々ご家族や職場の方に「本人の怠け病じゃないですか」と言われることがあります。
ご本人も「自分のせいなのかな」と責任を感じて、自分を責める気持ちが強くなり、どんどん悪い状態に進んでしまうことも。
まず当事者の方や周囲の方には、過眠が症状の1つで、本人の意思ややる気とは違うものだと分かっていただきたいです。
一度うつで過眠の状態に入ると、コントロールするのはかなり難しいのですが、薬の処方や治療法で良くしていくことは可能です。
ただ、どうしても時間がかかるので、過眠状態にならないように予防することが大事だと言われています。
普段から睡眠のリズムが乱れないように意識して、安定している状態の時にも、リズムを規則的にとっていくこと。
また冬場に日照時間が減ると、症状が悪くなりやすいので、夏から秋にかけてなるべく光を浴びる意識をしていただきたいです。
休みの日でも午前中に外出し、太陽の光を浴びてお日様と仲良くなる。
太陽を浴びないようになればなるほど、過眠の症状が表れやすいためです。
「調子が良い状態の時」に、いかに睡眠を整えられるかが最大のコツです。ただ、少し気が緩みやすいですよね。
心がけてほしいのは「寝る時間・起きる時間」を、休みの日ではなく、仕事がある日と同じにすることです。
睡眠のリズムは基本的に仕事をしている日に合わせて、夜更かしをせず、規則的な睡眠リズムを確立するのがいいと思います。
珍しくはありません。なかなか睡眠薬を飲んでやめられない方は多いです。
特に旧来型の睡眠薬「ベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)」は、一定期間飲み続けると身体依存が生じてしまいます。
飲まなくなったら離脱症状という、禁断症状みたいな症状が表れてしまうので、簡単にはやめられません。
薬の問題なので、本人が薬に依存していなくても、身体が睡眠薬に慣れすぎて減らしにくいのです。
一方で、どうしてもやめられないかというと、そのようなことはありません。
実は安定したら、ほとんど睡眠薬は必要なくなります。
コツは急にやめないこと。
身体がびっくりするので、薬剤師さんや病院の先生に相談して、段階的に少しずつ減薬していけばいいと思います。
ある程度安定している状態だったら、うまく減らしやすいです。
また「オレキシン受容体拮抗薬」という睡眠薬は、旧来のような依存性がありません。
そういった依存性が少ない薬に切り替えるのもいいでしょう。
身体依存がなくなり、やめやすくなるので、工夫次第で睡眠薬を手放せる方が多いと思います。
一度担当の先生に相談してみてはいかがでしょうか。
いったん双極性障害を離れて、人間の睡眠が年齢とともにどう変化するのか、少しお話しさせてください。
基本的に人間の睡眠時間は、生まれてから一方向性にどんどん短くなっていくと言われています。
生まれた時が最大で、1日の3分の2程度にあたる16時間ほど寝ているんです。
それが中学生・高校生になると9時間、20歳を過ぎると8時間になって、30歳・40歳・50歳・60歳と年齢を重ねるにつれて短くなっていきます。
短くなった睡眠の質はどうなるかというと、途中で起きてしまう時間は逆に増えてくるんです。
ある程度の年齢になると睡眠が短くなるのは、誰にでも起こり得る問題です。
とはいえ、双極性障害の影響で短くなっている部分もあるので、自分に最適な睡眠時間を見つけることが大事。
日中に自分がやるべき仕事ができていれば、睡眠時間は十分です。
質問者の年齢は45歳、6時間以下の睡眠になってしまっているということですが、日中活動できているなら問題ないと思います。
ちなみに私は今44歳ですけれど、実は今5時間ちょっとしか眠れていません。
「足りないな」と思いますし、お昼を過ぎると眠くなりますが、仕事は困らないぐらいにはできています。
なので「もう仕方ないか」と受け入れるようにしているんです。
極端に1時間程度しか眠れていないなら問題ですが、常識的な範囲内であれば、多少短くても問題ないと思います。
ただし、同じ時間の安定したリズムが確立されたのに、それが短くなったり長くなったりするのは悪い症状のサインです。
普段からリズムが乱れないように、同じ睡眠リズムを意識して寝るようにする。
それでも早く目が覚めるようになったら、黄色信号だと考えて、専門家に相談して対処することが大事です。
今回のインタビューの全容は、双極はたらくラボのYouTubeで公開しています。
「もっと知りたい」と思われた方は、ぜひチェックしてみてください。
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。