「訪問看護ステーションみのり」統括所長として、精神科訪問看護に携わる小瀬古伸幸(こせこ・のぶゆき)さん。
精神疾患当事者へのサポートだけでなく、家族や支援者に向けた「家族支援」にも尽力されています。
今回は、精神科訪問看護の利用を検討する当事者のご家族や支援者に、家族支援について解説いただきました。
〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉
▶双極性障害の当事者に向けた精神科訪問看護の解説記事はこちら
プロフィール 小瀬古伸幸
「訪問看護ステーションみのり」統括所長 / 精神科認定看護師。
精神科訪問看護に携わり、現在は訪問型の家族支援を中心に活動している。
WRAPファシリテーターや、執筆者としても活動中。
主著は『精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本』。
※記事で紹介した商品を購入すると、売上の一部が双極はたらくラボに還元されることがあります。
精神科訪問看護を検討している方の、家族に向けた支援方法について教えてください。
基本のスタンスは、ご家族が今までやってきたことを絶対に否定しないことです。
苦労しながら「何とかしよう」と努力されてきたはずなので、まずはお話を伺い、受け止めていきます。
双極性障害の場合、ご本人がうつ状態のときよりも、躁・軽躁状態のときにご家族は困るケースが多いです。
この場合、ご家族をどうサポートされるのでしょうか。
支援者がよくやりがちなのは、「ご本人の症状や状態を分かってあげてください」と説明することです。
ただ、ご家族は自主的に調べて、躁状態のこともよく分かっているはず。
分かった状態で対応してきているので、私たちはまずその大変さを受け止めて、お話を聞いていきます。
ご家族は、自分の話を聞いてもらう機会が非常に少ないものです。
双極性障害について語り合える家族会も少ないし、友達や親戚にも気軽に話せません。
小さなお子さんを抱えながら、悩みを溜め込んでいるケースも多いです。
誰にも話せないまま、いろいろな思いが蓄積されていき、しんどくなるんですよ。
そうですよね。
そこで、まずは気持ちを解きほぐすためにお話を聞きます。
「大変だったのではありませんか」と聞いていくと、30分~1時間くらいかけて思いを語ってくれます。
現状や悩みについて、存分に語っていただくのですね。
では、話を聞いた後はどう対応していくのでしょうか。
支援の説明をします。
よくご家族から「(ご本人が)軽躁状態のとき、病院に通ってほしいけれど嫌がっている」と相談をいただきます。
躁状態になると、他者の言葉の受け入れが難しくなることもあります。
その状態では、周囲の言葉はあまり耳に入らないし、通院自体を無意味だと考えてしまう方も多いんですね。
はい。
そこでお話しするのが「身体の心配を伝えてほしい」ということです。
ご本人はいつもよりはるかに活動的な状態で、睡眠も不足しているかもしれない。
だから「心配なので一度、一緒に主治医に診てもらいに行こう」と伝えていただくようにお願いしています。
ただし、精神科への通院を嫌がるからといって「内科に行こう」と嘘をついて、精神科に連れて行くのは避けてください。
きちんと精神科の主治医に診てもらうようにしましょう。
身体の心配を伝えるのはいいですね。
「軽躁っぽいから精神科に通おうよ」と言われると、事実を否定したくなります。
でも睡眠不足なのは事実で、身体の不調はうっすら自覚しているので、受診の動機にはなりやすいかもしれません。
体調が優れない場合に、元々通っている精神科を受診するのは自然ですし、伝え方の工夫としてはいいと思いました。
精神科訪問看護での家族支援は、医療の枠組みで提供されているんですか?
はい。通常の訪問看護は認められていませんが、精神科訪問看護では医療の枠組みで家族支援が認められています。
注意点は、ご本人のお住まいにご家族もいる必要があることです。
同居の必要はありませんが、訪問するのはご本人の自宅であり、ご家族の自宅に伺うことはできません。
なるほど。ご本人を対象とした支援のなかで、家族支援も行えるということですね。
他にも気を付けることはありますか?
よくある事例が、ご本人がいない場所で、訪問看護師とご家族がコソコソ話してしまうことです。
それをご本人に聞かれて、気まずい空気になってしまった場合、私の経験上あまりうまく支援できませんでしたね。
「あいつら(家族)、医療者に告げ口してるんじゃないか」と不信感をあおってしまうんです。
確かにそうですね。
でも支援するなかで、ご家族が気を遣わずに本質的な話ができるよう、ご本人のいない場所でお話ししたいときがあります。
その際はご本人に「〇〇なので、ご家族と20分ほどお話しさせてもらっていいですか。大まかな内容は後でお伝えします」と退席してもらいます。
ケースバイケースでご本人を含め3者でお話をすることもありますが、ポイントはご本人にちゃんと手の内を見せていくことですね。
なるほど。当事者としても納得できる伝え方でした。
最後に、精神科訪問看護の家族支援サービスの探し方を教えてください。
現在、私が提供しているのが「メリデン版訪問家族支援」という、家族支援も含む看護プロジェクトです。
インターネットで名前を検索すると、一般社団法人 ジャパンファミリープロジェクトの公式サイトが出てきます。
アクセスした後は、下にスクロールしていってください。
家族支援の研修を履修したファミリーワーカーの名前と所属先の記載箇所があるので、ご相談いただくのは1つの手です。
ファミリーワーカーのなかには、行政機関や訪問看護団体、病院に所属している人もいます。
いずれも家族支援の基本的な研修を受けている方々です。
どのような形で支援しているのか気になる方は、一度見ていただけると、参考になるかと思います。
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。