障害者雇用枠の正社員で、リーダー職として働かれている、はるパパさん。
自動車関連メーカーで10年勤めた後、別の会社に転職。在職中に双極症と診断され、元の会社に戻ります。
今回は、はるパパさんが双極症の診断後に受講したリワークに関する内容と、それが仕事にどう役立っているか伺いました。
〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉
※インタビューは2023年7月に実施しました
▶休職を経てオープン就労の正社員として働くまでの対談記事はこちら
プロフィール はるパパ
・双極症Ⅱ型 病歴20年
・40代
・自動車関連メーカーに勤務(障害者雇用枠の正社員)
・妻と子3人の5人家族
目次
一度離れるまで、今の会社で10年間勤めていらっしゃいましたよね。
当時、体調は安定していたんですか。
はい、特に問題はありませんでした。
ただ、別の会社に移ってからうまくいかなくなり、体調を崩してしまったんです。
双極症の診断を受けたのもこのタイミングで。
その後、病院で治療とカウンセリングを始めたら、少しずつ気分が良くなってきました。
そこの主治医の先生から、リワークに行くよう助言されたんです。
すすめられたきっかけは?
僕が復職に焦っていたからです。
「子どもも小さいし、早く会社に戻らないと!」
と考えていたときに、復職支援のプログラムとしてリワークを教えてもらいました。
それで、紹介された「リワークプログラム」を受けに行ったんです。
リワークではどんなことを?
認知行動療法やセルフケア、休職要因を深掘りする講座など、色々なプログラムがありました。
基本的に平日は毎日実施され、時間は9時から15時。
フルタイムで働くよりは短いですが、働くうえで必要なリズムができたと思います。
また同じような状況の参加者の方と一緒に勉強して、働くための体力を養っていくうちに、大きく人生が変わったように感じます。
実際に働いているなかで、生かされている内容はありますか?
深く自己理解したことで、これまでの失敗の原因も納得できたのは大きかったです。
プログラムを受けるなかで色々と調べるうちに「自分は発達障害じゃないか」と思うようになったんです。
担当のスタッフさんと先生に確認したら、テストを受けさせてもらえました。
結果はやはり発達障害で、特にADHD(注意欠如・多動症)の要素が多めだったんです。
思いついたことをすぐ口に出したり、人の話を聞くのが苦手だったりという特徴が当てはまっていました。
今まで人間関係でミスマッチを起こしていた原因が分かり「だから俺は学校で、あんなに浮いていたんだ」と納得できましたね。
リワーク後はすぐ復職されたんですか。
いえ。
リワークの1クールは3か月と設定されていました。
なので、大体の人は 「3か月だけ受けて早く戻ろう」と考えていたようですが、僕は居心地が良くて(笑)。
長くても2クール(6か月)で出て行かれる方が多いんですが、楽しくなっちゃって4クールも受けてしまいました。
リワークを経て仕事に戻られましたが、今も双極症の治療を継続されているんですよね。
症状が仕事に支障をきたすことはありますか。
攻撃性が出やすい点が課題です。
仕事が軌道に乗っていて、自分でも楽しめるようになってくると、テンションが高くなってきちゃうんですよ。
ミスした人や、やる気がなさそうな人に強く言い過ぎてしまうといった、躁の症状が表れやすいのは感じています。
怒り・イライラが人に向いてしまう。
周りの様子が目に入ると勝手に怒って、悪循環を作ってしまいます。
それでもお仕事ができているということは、何かしら工夫されているのでは?
仕事や人の良いところを探すようにします。
リワークを通じて「悪循環しちゃってる」と自分で気づけるようになりました。
なので、気づいたら人の悪口やネガティブなことは絶対に言わないようにします。
逆に、つまらないと感じる仕事や、ちょっと態度が悪い人の良いところを探すんです。
人の良いところを見つけたうえで、人助けを最優先して、怒り・イライラに負けないように気を付けています。
結局、人を助けるのは、自分が困ったら助けてほしいからでもあるんですけどね。
躁・軽躁に入ると、自分の状態に気づけない方も多いです。
気づけるようになったのは、やはりリワークが大きかったということでしょうか。
最初はやっぱり、自分の状態に気づくのは難しかったです。
今では、客観的に状態を把握することに慣れてきたのかもしれません。
その点で、リワークで役立ったことがあるとすれば、ずっと活動記録表をつけていたことです。
日記ほどガッツリ書かなくていいので、1日の睡眠時間や外出時間などを記録していました。
マーカーで「この時間に寝て、 5時間睡眠だった」などの状況を毎日書くんです。
僕は双極症なので、気分の上がり下がりも記録しました。
南中さくら先生や加藤忠史先生の本で学んだ、安定している状態を基準にプラス2、マイナス1などと気分の波を記録する方法です。
気分指数ですね。
奥さんに「今日のテンション、プラス1くらいだった?」と聞いて、判断してもらうこともありました。
とにかく記録していくことで、段々と気づけるようになっていきました。
ご自身で記録するだけではなく、奥さん側から伝わる客観的な事実と合わせて評価していくのが、すばらしいです。
気づけるようになったのですから、記録の精度が今上がってきているということですね。
そう思います。
逆に、うつで支障が出ることはありますか。
双極症になってからは、イベントなどに遊びに行くことは極端に減りました。
体調が戻ってくるにつれて、ちょっと遊びに顔を出すようになったこともありましたが、夜中まで飲んでしまうんです。
次の日はテンションが下がり、動けなくなるので、そういった反動がきつかったです。
ガクンと落ちるんですね。うつ期に入りそうなときは、どうしているんですか。
うつ期と呼べるほどの期間は、まだ来ていないんですよ。
ただ、単発で気分が下がることはあるので、そういうときは思いきり休みます。
役に立っているのが、リワークで勉強した「行動活性化療法」です。
認知行動療法に含まれるもので「行動を変えると気持ちが変わる」という考えがもとになっています。
悪い考えが浮かぶと気持ちでは止められないので、行動で断ち切るという発想の治療法だと学びました。
行動活性化療法の例
うつ状態でずっと寝ている場合、何もする気が起こらないからと言って布団の中でじっと過ごすと、「今日も何もできなかった」という負の思考に陥りがちです。
しかし、急に「外に出かけよう!」と気合を入れると、ハードルが高く感じてしまい、挫折することもあります。
そこで、
・まずは身体を起こしてお茶を飲む
・パジャマから部屋着に着替える
・徒歩3分のコンビニにコーヒーを買いに行く
といった小さな行動を起こすことで、少しずつ充実感や爽快感が得られ、意欲が出てきます。
はるパパさんの場合、行動活性化療法では何をされるんでしょうか。
単純に、まず起き上がる。
次は色々あります。何をやったら正解になるかは、そのとき次第です。
今は比較的安定しているので、朝ヨガをやりますね。あとは自転車に乗るとか、マインドフルネスみたいになること、 無心になれることをやる。
自転車に乗っている間も、ペダルを漕ぐふくらはぎの筋肉に意識を集中させています。
うつ期にぐるぐると頭を回る嫌な考えから、意識が離れるんですね。
今働いていらっしゃる、もしくは働こうとされている双極症当事者の方、ご家族や周囲の方に向けて、メッセージはありますか。
毎日苦しく不安で、 先が見えないのがつらい病気だと思います。
でも身体的な病気と同じで、捉え方次第では、意外とコントロールできるかもしれません。
そう思えるようになったのは、自分の症状や性格、考え方をしっかり把握できるようになったからです。
僕の場合は朝ヨガですが、毎日同じことをコツコツ続けるのがいいと思います。
毎日同じことをしていると「今日は体調がいいな」「悪いな」という、その日の状態に気づきやすいからです。
自分のことが客観的に分かると「上がってきたぞ」「落ちてきたぞ」というのを、早い段階でキャッチできます。
気分の変化を早くキャッチできると早く元に戻せると思うんです。
戻す方法は人によってそれぞれ違うので、好きなことをやってみてください。
でも対処方法を1個しか持っていないと、それが失敗したら心が折れちゃいます。
あまり深刻に考えず、いくつか持っておいて「ダメだったら次、また次」と、どんどんやってみるといいかなと。
僕のやり方が、誰かの役に立てばと思っています。皆さん一緒に頑張りましょう。
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。