双極症の治療を受けても自分の強みは消えなかった/起業家・ハヤカワ五味さん【後編】

双極症の治療を受けても自分の強みは消えなかった/起業家・ハヤカワ五味さん【後編】

公開日:2024.5.24
最終更新日: 2024.7.5

自身のnoteで双極症(双極性障害)Ⅱ型であることを公表した、起業家・ハヤカワ五味さんへのインタビュー後編。

今回は、双極症と付き合いながら働く上での対処法や、今後の働き方について聞きました。

▶前編『双極症の公表「働いている事例を出すことに価値がある」/起業家・ハヤカワ五味さんに聞く「双極症と働く」』はこちら

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

※インタビューは2024年3月23日に実施しました

プロフィール ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)

1995年、東京都生まれ。双極症Ⅱ型。高校生の頃からアクセサリー類等の製作や販売を行い、多摩美術大学入学後にランジェリーブランド「feast」を立ち上げる。2019年からは生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を立ち上げ、2022年にM&Aでユーグレナグループにジョイン。同年に「feast」を㈱ブルマーレに事業譲渡。2024年5月から無職。週末は、趣味のコスプレに必死。

重要なのは躁転させないこと

松浦
松浦

働き続けるための工夫として、何かやっていたことはありますか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

薬を飲んだからといって、すぐに良くなるわけではないですよね。

自分なりの理解では、双極症の治療はもちろん薬で状態を安定させる部分もありますが、むしろ日々の生活において躁・軽躁状態に転じさせないことが重要だと思っています。

だから、自分の生活習慣を見直したり、普段と違う状態になった場合に周りの人から指摘をもらうとか。実際、私の場合は友人からTwitter(現X)の投稿数が増えると、連絡が来ました。

松浦
松浦

友人には双極症と伝えている?

ハヤカワさん
ハヤカワさん

はい、一部の友人には伝えてました。

数年前に双極症についてオープンにしている相手から、「最近ちょっと攻撃的なツイートが多くない?」と言ってもらったこともありました。

松浦
松浦

例えばツイート数の指摘を受けたとき、人によってはカチンと来ることもあると思います。

躁状態だと、批判されているようで受け入れられない。そこは受け入れられましたか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

受け入れられる人とそうでない人がいるので、事前に信頼できる人を固めておく。

自分の中に困ったときに相談する人のリストがあって、そこの誰かに何か言われたら、無条件で信じるようにしています。

松浦
松浦

そこに違いがあるんですね。

生活習慣は具体的にどのように変えていたんですか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

ここ1年くらい安定していますが、元々は睡眠時間に影響が出やすいタイプでした。

平常時は7時間前後で安定しているんですが、状態が悪い時は10時間寝ても眠い。

それをスマートウォッチで記録したり、分析したりしていました。

松浦
松浦

私も、「8時間越える日が続くとうつになるかも」とか「6時間以下だと躁状態になりやすい」という一定の基準を持って調整していますね。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

治療してる時にややこしいと思ったのが、 抑うつ気分が、症状なのか単にストレスによるものか見分けることです。

双極症であっても、ストレスが多すぎて躁状態と関係なく抑うつ気分になる時もあるじゃないですか。 ここを見分けるための手段を持っておくといいと思っています。

私の場合、ストレスで抑うつになる時は睡眠時間に睡眠にはそんなに影響ないんですが、食欲が減って体重が落ちるんですよ。

逆に双極症の症状による場合は、睡眠時間が長くなったり短くなったり。

これが分かってからは、スムーズに睡眠時間のベースラインを維持できるようになりました。

松浦
松浦

なるほど。他にもやっていたことはありますか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

すぐに治るわけではないし、そもそも完治するものでもないので、症状と付き合っていく必要がありますよね。

治療を始めた後も、いろんなトラブルもありましたし、M&A(企業の合併・買収)とか事業譲渡のような、大きな仕事も重なって。

でも、それを「病気だからやりません」と手放すと、その後の自分が働きづらくなると思っていたので、正直しんどいときもありましたが、なんとかやってきました。

トラブル対応で深夜まで仕事して睡眠時間が狂うと、あっさり躁転しちゃいますけどね。

パートナーには躁転のサインや病院の連絡先をまとめた「トリセツ」を共有

松浦
松浦

ご自身のトリセツ(取扱説明書)も作られているんですよね。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

そうです。

最近、マッチングアプリで出会った人と結婚したんですけど、交際前に送っていました。

松浦
松浦

「こういうふうに扱ってください」みたいな?

ハヤカワさん
ハヤカワさん

事前に「こういう時はやばいです」「ここに連絡してください」「誰々を頼ってください」みたいなのを一覧にして、共有しています。

どうなるか分かっているからこそ、初めて会った人に、また同じことを繰り返して混乱させるのも申し訳ないので。

松浦
松浦

効果は感じます?

ハヤカワさん
ハヤカワさん

トリセツには、「Aが起きたらB」のように、めちゃくちゃ細かく書いてあるんですよ。

「精度も高いし、これで完璧!」と思っていたんですが、実際に使ってみると、双極症と全く関わりがなかった人には、深刻さが共有できないことが分かったんです。

自分にとっては命に関わる重要なことなので、しっかり読んでその通りに対処してほしい。

でも、いざ対応する状況になった時にその通り動きづらいだろうから、初めからトリセツが完全に機能するとは思わないほうがいいな、と(笑)。

松浦
松浦

結構、情報量も多いんですか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

なるべく絞ってはいますが、それでも情報量はありますね。

ただ、自分の場合はランダムに抑うつ状態がくるのではなくて、「こうなったら抑うつになる」という型があるんですよ。

そこが分かっていているので、相手側からすると安心感はあると思います。

松浦
松浦

未知のものじゃない、と。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

はい。

パターン化していることを提示するだけでも、価値があるのかなって思います。

松浦
松浦

これを読んだ双極症の当事者の方が、トリセツを作ってみようと思われたとき、何がポイントになりますか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

「睡眠時間がこうなると躁の気配があります」とか、自分なりの躁転のサインをまとめる。人によっては、数日間家を空けることかもしれないし、めちゃくちゃ買い物をすることかもしれない。

躁転しなければうつにも落ちにくいというのが基本的な考え方だと思うので、周囲の方によって、躁転するのを防げる環境がつくれるといいですよね。

私は同居してるパートナーがいるのですが、日々一緒にいる人だと変化も顕著に分かるものですね。

松浦
松浦

確かに、ずっと一緒にいるから変化に気づきやすい。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

こういう時は躁転してるから病院に連絡を取る・薬の飲み忘れをチェックするなど、具体的にどう止めたらいいかも書いておく。

あと、病院の連絡先をまとめておくと意外と役立ちますよ。

これからの仕事は探索中も、アグレッシブさと冷静さを兼ね備えたバランスで仕事ができている

松浦
松浦

今、一応無職ということですが、これからどのように働くか考えていますか?

ハヤカワさん
ハヤカワさん

いろいろな話を聞いていて、自分がやる意義があったらやろうかな、と。

それが起業家かもしれないし、どこかに所属することかもしれないですが、いったんゼロベースで考えています。

自分の症状とうまく付き合えるようになってきたからこそ、25歳前までの自分とは得意なことが違ってきていると思うので、改めて今の自分の状態で仕事をしたいと思っています。

松浦
松浦

25歳以前と今で、具体的にどう変わってきているんでしょう。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

大人になりましたね。年齢なのか、症状が落ち着いたからか分からないですけど。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

双極症の治療を始めたときに、いろんなものへの面白がる力とか、興味を持つ力が減るんじゃないかと思っていたんです。起業家精神たるものは、自分の双極症からきているんじゃないかと思ったので、正直治療が怖くて。

でも実際に治療をしてみたら、いろんなことに興味を持って取り組む力は全然変わらなくて。

前のような無謀なこと・破壊的なことをする部分が減ったので、今は「ある程度アグレッシブだけどバランス感のある人」みたいになっていると思います。

今の自分の性格とか、スタンスのほうが好きなんですよ。人間としての深みも全然減るわけではなかったし。

だから今の自分に一番合うポジションで働いてみたいという思いは、すごくありますね。

松浦
松浦

私もハヤカワさんと同じような感覚ですね。

昔は無謀なチャレンジばかりしていましたが、今はアグレッシブさもありつつ冷静に見るバランスがついたというか。

それでも現実的なチャレンジをすることはできる。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

ですね。全然両立する。

今まで私は、刺激中毒的な部分とか、大きくリスクをとって破滅に向かうようなちょっとギャンブラー的なところがあったんですよ。

そこが減ったので、多分、今の自分のほうがうまく事業を推進できると思います。気分のムラも少なくなったから人もうまくまとめられるし、信頼してもらいやすい。

ここから、もう1ゲームやれそうな感じがしています。

松浦
松浦

最後に、読者に何かメッセージはありますか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

私の場合は、早めに双極症と診断を受けて、 比較的早く寛解に近い状態になりました。

なんでそうなったのか振り返ると、基本的に素直に人の言うことを聞いていたんですよね。

あと、勝手に治療をやめるとか自己判断をしないことが、結局は1番大事なんじゃないかな、と。

治療を始めてから、躁状態・うつ状態の自認があったらそこで大きな判断をしないということは一貫して守っていますし、判断として間違わなかったなと思うことが多いです。

だからまずは自分の状態を知って、その上で「自己判断しない」「波が安定するまでやり過ごす」などの選択肢を持っておくことが重要だと思います。

服薬は勝手にやめないようにしましょう!

インタビュー全容は動画にて

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