双極症の公表「働いている事例を出すことに価値がある」/起業家・ハヤカワ五味さん【前編】

双極症の公表「働いている事例を出すことに価値がある」/起業家・ハヤカワ五味さん【前編】

公開日:2024.5.20
最終更新日: 2024.5.31

双極症(双極性障害)の診断を受けている方の中には、症状と付き合いながら働くことの難しさを感じている方も多くいると思います。

今回は、自身のnoteで双極症Ⅱ型であることを公表した起業家のハヤカワ五味さんにインタビュー。

診断前後の働き方を振り返りながら、双極症の公表に至った背景を聞きました。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

※インタビューは2024年3月23日に実施しました

プロフィール ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)

1995年、東京都生まれ。双極症Ⅱ型。高校生の頃からアクセサリー類等の製作や販売を行い、多摩美術大学入学後にランジェリーブランド「feast」を立ち上げる。2019年からは生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を立ち上げ、2022年にM&Aでユーグレナグループにジョイン。同年に「feast」を㈱ブルマーレに事業譲渡。2024年5月から無職。週末は、趣味のコスプレに必死。

ある日突然、朝起きられなくなった

松浦
松浦

今回は双極症を公表されるということで、ハヤカワ五味さんにインタビューさせていただきます。

ハヤカワさんとのつながりでいうと、2021年に双極はたらくラボWebメディアを立ち上げた際、クラウドファンディングで支援していただいたことから始まりますね。

そもそも、双極症の診断を受けたのはいつでしたか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

コロナ禍の2020年です。

サービスの立ち上げ前後にメンバーが突然抜けたり、さまざまなトラブルが重なって、予定していた作業量の2・3倍働かなければならないような忙しい時期がありました。

それを続けていたら、ある朝突然、ベッドから起き上がれなくなって。

先輩の起業家がTwitter(現X)で「朝起きられなくなったら病院へ行け」と言っていたのを思い出し、「あ、ついに来たか」と。それですぐに病院を予約しました。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

今もそうだと思いますが、ある程度大きな精神科だと、初診まで3~4週間くらい待つじゃないですか。

松浦
松浦

はい。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

元々パニック障害として治療を受けていたこともあったので、いったん繋ぎの薬をもらえるようなところに行って、なんとか朝起きられる状態にはなったんです。

それから数週間後に、病院にも行きました。

松浦
松浦

初診では何と診断されました?

ハヤカワさん
ハヤカワさん

すぐに「双極症じゃないか」と診断されて、治療を始めました。

双極症の方の中には、自分の躁・軽躁状態をなかなか認められずに、治療を始めるのが難しいこともあると思います。

私は立場上、自分を観察することは常にしていたので、「これは自分の特性だよね」とか「こんなエピソードもあったな」「まさに私だ」と素直に受け入れられました。

躁で借り入れた大金が、うつ状態ではプレッシャーに

松浦
松浦

もともと大学の時に起業されたんですよね。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

そうです。法人化したのは大学1年の終わり頃ですが、実際に事業が立ち上がったのは大学1年の春ですね。2014年の頭だから、ちょうど10年前。

松浦
松浦

振り返ってみると、双極症との関わりは何かあったと思いますか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

起業当初は症状というほどではなく、どちらかというと自分の性質が強く影響していたと思います。症状として出ていたなと思うのは、自分が20歳になったくらいなので、大学2~3年頃ですね。

授業や仕事の面では、気が大きくなる時と守りに入る時がありました。おそらく躁とうつの波と関連していて、気が大きくなる時は「これもできるし、あれもできる」といろいろ考えるようになります。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

例えば、大きな金額のお金を借りてしまう、とか。今考えると身の丈に合ってなかったと思いますが、幸か不幸か借りれてしまった。

逆にうつ状態になった時には、「なぜこんなことをしたんだろう」と過去の行動に苦しめられるんですよ。

躁状態の時に立てた事業計画や契約したものを見て、「毎月こんなに大きな金額は払えない」「こんなに売り上げ伸びると言ったけど、実現できないよね」とすごく悩む。これを繰り返していたなと思います。

松浦
松浦

お金でいうと散財するのも躁の症状の一つですよね。

私は個人レベルでたくさん買い物をしてお金を使ってしまいますが、事業で借りたお金を使いすぎることもあるんですか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

いや、すぐに使えるわけでもないですし、大金を使うのも結構難しくて。一緒に働いていたスタッフが冷静で、止めてもらうこともありました。

でも、借りるという意思決定は基本的には自分一人でできてしまいます。

松浦
松浦

そうですよね。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

借りること自体は全く悪いことではなく、むしろ素晴らしいこと。

ただ、無計画に借りてしまい、そのプレッシャーにうつ状態の自分が耐えられないのが問題だったんですよね。

20代前半は治療を受けず、躁うつの波が起きやすかった

松浦
松浦

実際どれぐらいの期間まで治療を受けずに、波が起きやすい状況だったんですか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

20代前半はほとんどそうだったと思います。

無理やりいい点を言うなら、会社にはCEO(最高経営責任者)とCOO(最高執行責任者)がいますよね。

松浦
松浦

はい。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

個人的にベストだと思う組み合わせは、ビジョンを大きく描いて人を引っ張るCEOと、冷静にそろばんを叩いてそれを実現するCOO。両極端の2人が合わさって会社を運営していくと、すごくうまくいくなと思っています。

自分に置き換えると、ある意味、双極症の影響でどちらの役割もできてしまっていたとも言える。躁の時は大きなビジョンを語って、うつの時は描いたビジョンに苦しみながらも、なんとかそろばん叩いて形にしなきゃって。

私がやってきた事業では、これまでCOO的な立場の人は殆どいなかったんですよ。1人代表でやってこれたのは、そういう側面もあると思います。

松浦
松浦

CEOとCOO、分かりやすい。

でも1人で2役をやっていたら、負荷も倍になりませんか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

そうなんですよ。でも今に至るまで、ほとんど仕事を休むことはなかったんです。

躁状態・うつ状態がひどい時でも、 仕事に関しては影響が少なかった。プライベートは結構影響があったんですけどね。

松浦
松浦

仕事への影響がなかったのは、なにか工夫されていたからですか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

たぶん責任感が強すぎたんだと思います。「責任感が強くて潰れる」とよく聞きますが、私の場合は逆。

痩せてるのであまり信じてもらえませんが、恐らく平均より体力がある方で案外動けたので、打ち合わせなどの外出もできたし、動くのがしんどい時はベッドの中からスマホで仕事をして、なんとか成立してきた部分があります。

松浦
松浦

働き方の融通が利きやすい立場だったことも、関係していそうですね。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

そうですね。もし会社員だったらうまくやっていけなかったかもしれません。

症状が重かった時期は、昼寝を挟まないと基本的に仕事できなかったので、例えば定時に出勤して、決まった時間ずっとその場にいなきゃいけないというのは難しい。

立場上融通が利かせられたことと、治療中にコロナ禍が重なったことが、ラッキーだったとは思いますね。

双極症にはマネージャー職の働き方が合う?

松浦
松浦

直近は企業に勤めてマネージャー職として働かれていましたよね。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

はい。バイトもしたことがなかったので、人生初めての会社員でした。

松浦
松浦

やってみてどうでした?

ハヤカワさん
ハヤカワさん

日本の場合、一般的にマネージャークラスの仕事に就きたがる人はそれほど多くないじゃないですか。

でも双極症の方の場合は、多分、マネージャークラスの働き方のほうが合うと思うんですよ。

基本的には労働時間を自ら管理する側ですし、「結果を出せばいい」という状況になります。

個人的に自分が1番しんどいのって、結果云々じゃなくて、定時で働いて毎日出席しなきゃいけないっていう状況なんです。万が一うつに落ちた時に、出勤できない日が続いてしまう可能性があるなと思っているので。

だから、比較的融通が利きやすいマネージャー職で働けたのは良かったなって思います。

松浦
松浦

実際にマネージャーとして働く中で、「この日行けない…」と思ったことはありましたか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

在宅勤務も多かったので、ほぼなかったですね。

例えば、発熱してる人であれば、在宅勤務ができる環境でも仕事をせずに寝た方がいいと思います。

でも双極症の場合、「風呂に入る元気とか、家から出る元気はないけど、仕事はできそう」っていう時があると思うんですよ。

働けたのは、マネージャーとか関係なく、その時期に在宅勤務が多かったからです。

松浦
松浦

認知行動療法でいう行動活性化みたいなものですね。

うつっぽいけど、動いてるとちょっと気分が持ち上がる。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

そうですね。一度電源をオフにしてしまうと、それから戻すのが大変なので。

どれだけ症状が重くてもずっと働き続けていたことが、結果的に良かったと思います。もちろん働く時間にムラはありましたが、働くこと自体からは離れていなかった。

もし途中で仕事を休んでいたら、しんどかったかもしれないです。

「双極症で働いている人もいる」と事例を出すことに価値がある

松浦
松浦

どうしてこのタイミングで双極症と公表されたんですか。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

2024年4月末で勤め先(株式会社ユーグレナ)を退社して、実質無職、厳密には無所属に近い形になりました。

双極症をオープンにするなら、できるだけ身軽な時にしたいと思っていたので、今のタイミングがいいかなと。

最近は双極症を公にする人が増えていますが、休職や休みを取る理由として双極症が挙げられることが多いですよね。

それが多すぎると、「双極症=働けない」というイメージが強くなりすぎるのが、個人的な懸念としてありました。

松浦
松浦

たしかに双極症が注目を集めるのは、有名人が仕事を休む理由として公表する時が多いですよね。

そうなると、どうしても双極症は働けない大変な病気だという認識が強まる。

ハヤカワさん
ハヤカワさん

自分の場合、おそらく20歳頃から症状がありましたが、それでも双極症と共に8年以上働いていました。

もちろん、誰もが同じように働けるわけではないし、みんなが頑張れるわけでもありません。

人によって症状には違いがあるのは大前提ですが、とはいえ「働いている人もいる」という事例を出すことに価値があると思いました。

松浦
松浦

今回、ハヤカワさんのような表に立ってる人が前向きな公表をされることは、本当に意義深いと感じました。

インタビューの全容は動画にてご覧いただけます!

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