双極症は服薬なしで治療できる? 飲みたくない人の悩みや治療法を睡眠専門医が解説

公開日: 2024.6.14

双極症(双極性障害)当事者の方々から「服薬したくない」「薬と通院を自己判断でやめたい」などの悩みが届いています。

服薬なしでも双極症の治療は可能なのでしょうか。

睡眠専門医の渥美正彦先生に、当事者からの悩みに回答いただきながら伺いました。

〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉

「働けるか」以前に大事なことは?双極症で働くためのポイントを睡眠専門医が解説

プロフィール 渥美正彦(あつみ・まさひこ)

医療法人上島医院院長
精神科と神経内科での臨床経験を生かし脳と心の問題に幅広く対応
YouTubeチャンネル「睡眠専門医渥美正彦」で睡眠と心の専門知識を発信

薬を飲みたくない理由を知る 双極症は服薬で安定するが別の方法も踏まえコミュニケーション

松浦
松浦

「薬を飲みたくないので、ほかの対処法によって双極症を安定させたい」
と相談された場合はどうされますか。

渥美先生
渥美先生

まず「薬を飲みたくない」という気持ちになった、きっかけを聞く必要があると思います。

きっかけは人によってさまざまです。

・副作用で困っている
・偏った情報を知って「飲まないほうがいい」という考えに至る
・「いつまで続ければいいのか」「意味があるのか」と、先が見えなくなってきた
・「薬を飲んでいる状態では人間とは言えない」と考える

各理由によって、医師の次の一言が変わってきます。副作用で困っていらっしゃる方に、偏った情報の話をしても響かないですし、逆も同じです。

まずはどういうきっかけで飲みたくないと思ったのか聞きます。

松浦
松浦

きっかけごとに対処法を考えていくと。

渥美先生
渥美先生

「服薬したくない」と考えるのは当然なんです。

嫌な情報を聞いたら、その情報のとおりになるとは思いたくないですよね。

医師としては、嫌な情報が出回っていることを受け止めつつ、正しいデータを伝えるといったコミュニケーションをとります。

双極症の方は、薬を飲んでいる状態と飲んでいない状態では、安定度が全く違うんです。

なので、最終的にはもう一度、薬を飲んでもらえるように持っていきますね。

結局、双極症は服薬なしで安定する? 薬を飲み続けることで再発予防と安定につながる

松浦
松浦

最終的に薬は飲まなかったものの、別の対処法で落ち着いた患者さんはいらっしゃるんですか。

渥美先生
渥美先生

1~2年単位で言えば、今もまだ飲んでいない方がいらっしゃいますね。

でもその方の場合、それ以前に1~2年ほど飲まなくても済んでいたんです。

「このままで大丈夫でしょうか」
とご相談いただき、
「大丈夫かどうか分からないですが、とりあえず3か月に1回来てくれますか」
とお伝えしました。今のところは再発していないようです。

ただし、現時点でお薬を飲んで治療されている方の場合は「薬はなくても大丈夫そう」と絶対に思わないでください。

松浦
松浦

うつ病は症状を緩和するために服薬するのに対し、双極症は再発予防のためだと学びました。

症状が表れていないから飲むというより、飲み続けることが結果的に対処法になっていると。

渥美先生
渥美先生

その通りです。
「今、落ち込んで苦しい」「今、ハイテンションでいっぱい無駄遣いしている」

こうした状態が一定期間続くことを我々は「エピソード」と呼んでいます。
うつ病の場合、再発はあり得ますが、エピソードを切り抜けたらいったん治療は終わりです。

一方、双極症はうつ状態と躁状態の2つのエピソード間を揺れ動く状態が続く病気です。
続くということは、どんな形であれ治療を続ける必要があると思うんですね。

双極症と診断した時点で「未治療放置」という概念は、我々のなかにはあまりありません。

なので、できれば薬を飲みたくない方が来られたときも、最低限診療に来るようお伝えします。

ほとんどの方は薬を飲み続けたほうが、エピソードも症状も安定しますね。

「双極症でも体調が安定 通院と薬を自己判断でやめた」約1年後には6割ほどが再発するので長期的観点が大切

松浦
松浦

「薬を飲んでいたが、体調も安定してきたので、自己判断で通院と薬をやめてしまった」
という相談者さんがいらっしゃいます。

渥美先生
渥美先生

心配ですね。「安定した」をどう定義づけるか極めて難しいです。


まず知ってほしいのが「寛解」という言葉。躁でもうつでもない状態が、最低2か月続いていることを指します。

1か月安定しているとしても、寛解にすら到達していません。 

「安定してきたようだから、薬を飲むのをやめるか」と考えるタイミングは、どんなに短くても2か月以上経ってからです。

さらに、寛解になったから薬をやめても大丈夫かというと、ほとんどの方は大丈夫じゃありません。

炭酸リチウム(リーマス)の場合、およそ1年後には6割程度の再発率があると言われています。それ以降になると、8割から9割が再発すると言われているんです。

炭酸リチウムをやめた場合の再発率(渥美先生作)
渥美先生
渥美先生

再発率の高さを考えると、寛解がずっと維持できるのは、服薬している方で5割ぐらいです。
服薬しなくなると、それが 1~3割ほどになってしまいます。

2年間無事で過ごせる人は10人に1人ぐらいしかいません。

少なくとも2か月以上安定しているか、1年後に再発していないか。

長期的な観点で見ていかないと、双極症は安定したとは言えないことは、知っておくといいと思います。

双極症の治療におけるSDMの広がり 本人が客観性・主体性・自己決定権を持てる方法

松浦
松浦

「薬をやめたい」と言ったら、先生から怒られると考える人もいそうです。

渥美先生
渥美先生

昔は主治医が「この治療法をやりなさい」と指示し、守ってもらうのが主流でしたからね。

でも、今は「共同意思決定/Shared Decision Making(SDM)」という考えがメインになっています。

医療の専門家・ 病気経験の専門家の2人がそれぞれの専門知識を生かして、双極症という研究対象を一緒に見ていく。

2人の専門家(渥美先生作)
渥美先生
渥美先生

外側から対象を見ることで、客観的になりますよね。

結果的に、患者さんは治療の主役になりやすいんです。

患者さんも医師と協働して、研究対象にどう対処していくか、意思決定の場に参加していきます。

人から「こうしなさい」と言われるより、少しでも自分で決めたことであれば、守りたくなりますよね。

「炭酸リチウムか、注射か」という選択肢があって、自分で色々と考えて炭酸リチウムを選んだら「やろう」という気持ちになりやすいですから。

客観性・主体性・自己決定権を持てるやり方ですね。

松浦
松浦

SDMという考えはどれくらい広まっているんですか。

渥美先生
渥美先生

言葉としては結構広がっていると思います。

「ちゃんと話を聞いてくれているな」と感じる先生なら、SDMを実践されている可能性がありそうですね。

松浦
松浦

お医者さんを選ぶ基準になるんですね。

渥美先生
渥美先生

「薬を飲みたくない」と話したとき、何かきっかけがあったのか聞いてくれる先生かという点は、大事かもしれません。

クリエイティブ職は躁状態で創作がはかどる? 長く安定して創作できるほうが幸せな場合も

松浦
松浦

クリエイティブ職の方からのご相談です。

「躁状態では発想力が高まるので、薬を飲むと仕事に支障がありそうで飲みたくない」のだといいます。

渥美先生
渥美先生

症状を安定させたほうが生涯における総合的な業績は上がる可能性が高いです。

ただ、躁状態でクリエイティブなアイデアが生まれやすいというのは、確かにあるかもしれませんね。

作曲家のロベルト・シューマンも、躁状態のときにたくさんの作品を作って、うつに入ると年0曲のときもあったそうです。

波のある生き方をしたためか、若くして命を落としました。もう少し安定した生活を送れていたら、どんな曲を作ったか気になりますね。

双極症では「生き急ぐ」ことが多いので、躁・軽躁状態のときにたくさん創作して、うつ状態でドーンと落ちてしまいます。

それよりは、長く長く創作できるほうが、幸せな人生の場合もあると思いますね。

松浦
松浦

私も昔は軽躁の勢いに乗って生きて、うつになると急に休み出すことがありました。落差が激し過ぎて、人生がしんどかったです。

現在は刹那的ではなく、コンスタントに結果を出し続けることができています。

細く長くやることのよさが、やっと分かってきたところですね。

「双極症はモバイルバッテリー」躁にもうつにもならないようゆっくり使っていく

松浦
松浦

次の状態の相談者さんは、どう対処したらいいでしょうか。

「うつのときは症状を戻したいから薬を飲む。躁状態は元気になった感じがするので薬をやめる。また落ち込むと薬を飲む」

渥美先生
渥美先生

双極症は「うつ状態だけをなんとかしよう」という単発の治療を行うものではないんです。

一定の幅のなかで生活できるようにしたほうが、最終的に生活の質は安定することが多いですね。

渥美先生
渥美先生

モバイルバッテリーに例えるなら、うつ状態は充電に該当します。

寛解は、一定の割合でバッテリーを使いつつ、減り過ぎないところで充電する状態です

躁・軽躁状態は塩水でも付けて「バッと一瞬で放電!」みたいな感じなので、なかに水が入ってうまく動作しない部分もある。

では、うつで40%くらいまで充電している状態で、躁状態に入ったらどうなるでしょう。
40%で一気に放電してしまったら、またカラカラになってやり直しになりますね。

なので、バッテリーの使い過ぎにならないよう、一定の割合で使える状態にする必要があります。

「躁の薬・うつの薬」で対処するのではなく、躁にもうつにもならないようゆっくり使っていく

その手伝いをしてくれるのが、気分安定薬です。

気分安定薬がうつを悪化させることはない 飲み続けることでうつから脱した状態を維持しやすくなる

渥美先生
渥美先生

「気分安定薬はうつにする薬だ」という誤解がかなりあるんです。

例えば炭酸リチウムはいい薬で、躁にもうつにもさせないはずなのに「飲んだらうつになったので、やめていいですか」と相談されたり。

薬は関係ないのに、症状が動いただけで「気分安定薬がうつにさせる」とすぐ思い込んでしまう方が多いです。

渥美先生
渥美先生

まず、抑うつエピソードに強い薬・躁病エピソードに強い薬・維持に強い薬があります。

「抑うつに強いから、抗躁効果はない」などというわけではなく、それぞれきちんと抗うつ・抗躁効果があると知っていただきたいです。

決して「うつにさせる薬」「躁にさせる薬」ではありません

またうつ状態から脱した後も飲み続けることによって、脱した状態を維持しやすくなることはきちんとお話ししています。

松浦
松浦

気分安定薬が症状を悪化させるイメージを持たれてしまっているんですね……。

渥美先生
渥美先生

躁状態で気分がいいと感じる方については「気分安定薬のせいで、躁ではなくなってしまう」と思っているケースが多いかもしれません。

医師としては、患者さんにとって躁状態がまずいものであるということも、理解していただきたいですね。

インタビューの全容は動画にて!

今回のインタビューの全容は、双極はたらくラボのYouTubeで公開しています。

「もっと知りたい」と思われた方は、ぜひチェックしてみてください。

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