双極症当事者を支える家族も支えを必要としている

公開日: 2025.3.7

双極症と付き合いながら働く上で、当事者はたくさんの難しさを抱えています。躁うつの波に左右され、例えば、体調が優れず出社できなかったり、イライラして周囲と衝突してしまったり。

そんな中、家族をはじめとする周りの方のサポートは、当事者にとって大きな支えになります。

しかし、当事者家族の方々もまた「どのように接すれば良いのかわからない」「症状に振り回されて疲れてしまう」など少なからず悩みを抱えているのではないでしょうか。

今回は、双極症(双極性障害)当事者の夫を持つめぐみさん(仮名)にインタビュー。

前半では、出会いから暮らす中での違和感について振り返っていただきました。

後半では、双極症の夫との向き合い方や、双極症の当事者や家族に伝えたいことを伺いました。

※インタビューは2024年1月時点のものです

〈聞き手=山口恵里佳(双極はたらくラボ編集部)〉

前編『「暮らしにくい….」結婚生活の中で感じた夫への違和感』はこちら

プロフィール めぐみさん(55歳)

精神科の病院勤務の看護師。双極症Ⅱ型の夫(57歳)と、子ども3人の5人家族。
夜勤のある不規則な生活の中、夫と子どもたち、そして両親のために奮闘してきた。
夫のおさむさんは、11年前にうつ病と診断され休職したが後に双極症に変更。現在は、フリーランスの鍼灸師として働く。

夫と向き合うきっかけは、自分を支えてくれる人の存在だった

山口
山口

怒りや、騙されていたという気持ちを抱えながら、どのようにおさむさんと向き合おうと気持ちが変わっていったのでしょうか?

めぐみさん
めぐみさん

私を助けてくれる人がたくさんいたんですよね。

職場で「うちの旦那、うつ病だって言われて休職してさ」というようなことをフランクに話せる環境だったんです。精神疾患を持った人が家族にいるということに対して、みんな別に驚きもせず、「私、昨日歯医者行きました」くらいの感覚で聞いてくれるんですよ。

なので、「夫が調子悪い時は、私も休みをもらうかもしれません」と言えたし、私の表情が暗いときは、みんなが「大丈夫?」と声をかけてくれました。

めぐみさん
めぐみさん

私が職場で公表したことで、同僚の看護師さんが「実はうちの旦那も、うつ病で」と、こっそり打ち明けてくれたこともありました。

「支えなくては」という思いが強ければ強いほど、知らず知らずのうちに相手に巻き込まれていってしまうので、「引き込まれないようにね」と専門的なアドバイスをくれた先輩もいました。

私の話を聞いてくれる人がいて、サポートしてくれる人がたくさんいた。それでもしんどかったんですが、周りのサポートがなかったら、とっくに自分もダメになっていたと思います。

山口
山口

その後、うつ病の治療をしていくわけですよね。

めぐみさん
めぐみさん

そうですね。

でも、治療をしても全然よくならないんですよ。抗うつ剤も効かないし、薬が合っていないんじゃないかと思っていました。

そんなときに病院を変えるチャンスがあって、セカンドオピニオンに行ったんです。

そうしたら「うつ病じゃなくて、双極性障害のⅡ型ですね」と言われ、私の話もじっくり聞いてくれました。飲んでいる薬が双極症には適切ではないとのことで、薬も変わりました。そこから、症状は比較的落ち着いているように思います。

夫が双極症と診断されてどう変わった?

山口
山口

双極症Ⅱ型と診断されてから、10年くらい一緒に過ごされてきたと思いますが、いかがでしたか?

めぐみさん
めぐみさん

病気のことが分かってからも、やっぱり波はあるんですよね。今の仕事をするまでに、何回か仕事も変えていますし。

雇われて働くのって、別にそんな嫌じゃないんだけど、なんか合わないんだろうなって。それで、夫の希望もあったので、もう独立しちゃえと背中を押しました。

独立後は、すごく生き生きしてるように見えますね。

山口
山口

関わり方で何か工夫していることはありますか。

めぐみさん
めぐみさん

夫がサードプレイスを優先していて、一緒にご飯を食べる時間もなく、会話もない生活が続いていた時があったんです。「そんなんだったら、1人暮らしと何も変わらなくない?1人で暮らしてるみたいなもんだよ」と言ったことがありました。

病気が判明する前だったら、何が怒りのスイッチになるか分からないから、絶対そんなこと言えなかったと思います。でも、原因も分かったし、言ってもいいことなんだって思えて。

めぐみさん
めぐみさん

「1人暮らしと変わんないよね」って言えたことで、夫に気づいてもらえて、一緒に過ごす時間を作ったり、子どもを迎えに行ってくれたりとか行動が変わったんですよね。

みんなで話す時間も増えて、最近は私が帰りが遅い時はご飯作ってくれたりとか。子どもたちも「お父さん料理うまくなってきた」って。

今までの生活だったら、そんな時間は取れなかったので、双極症だと分かってよかったんだなって思います。

当事者家族もまた、支えを必要としている

山口
山口

最後に、双極症の当事者や当事者を支える家族に対して、伝えたいことがあればお伺いしたいのですが、いかがでしょう。

めぐみさん
めぐみさん

誰かを支えるということは、長期戦なんです。

支える人が、まず自分の思いを吐き出すことができる相手や場所があるかどうか。

本人はもちろん大変ですが、それを支える周りの人も本当に大変なんですよね。
周りの人の場合、当事者のことはもちろん、例えば子どもや親など、様々な問題がふりかかってきます。

だからこそ、当事者を支える家族を支えてくれる人がどれだけいるかによって、家族が当事者をどれだけ支えられるかが決まると思っています。

私も周りの人に支えがなかったら、きっと途中で潰れていたでしょうし、結婚生活も破綻していたかもしれません。

今、夫は安定していますが、それは本人の頑張りだけでなく、それを支えた周りの人、そしてその人を支えてくれたさらに周りの人のおかげでもあるんですよね。

それを分かってもらえるといいなと思います。

めぐみさん
めぐみさん

精神疾患って、まだまだ偏見があると思うんです。

私自身、精神科に勤務していながらも、夫から精神科の入院歴を聞いた時、「噓でしょ」と偏見の目で見てしまっていました。これが、例えば「胃潰瘍で入院歴がある」と言われていたら、「騙された」とは思わなかったでしょう。


サポートしようと思っていても、周りの人はどう接していいか分からなくて、腫れ物に触るように扱ってしまう。

でも、そうじゃない。

精神疾患を抱える本人はもちろん、その家族も、周りの人の理解やサポートを必要としています。

周りの人には気軽に声をかけてほしい。

「何かあったら言ってね」「いつでも頼ってね」
って。

そうすれば、当事者や家族が大変な時に、誰にも言えないんじゃなくて、助けを求められるようになると思うんです。

誰もが、いつかは精神疾患になるかもしれない。

紙一重で踏みとどまっている人もいるだろうし、既にかかっているけどなんとかやっている人もいる。

そういう人が本当にきつくなった時に、「助けて」と普通に言えるような、変な目で見られないような、そんな社会になったらいいなと思います。

【監修:二宮ひとみ(臨床心理士・公認心理師)】

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