
睡眠リズムが崩れやすいときの対処法|双極性障害と睡眠の関係を精神科医が解説
双極性障害と睡眠障害を専門に研究されている、精神科医の高江洲義和(たかえす・よしかず)先生。
琉球大学大学院医学研究科で準教授を務め、日本うつ病学会「下田光造賞」をはじめ数々の受賞歴がある精神科医です。
今回は「睡眠リズムを整えるポイント・睡眠リズムが崩れやすいときの対処法」について、解説いただきました。
〈聞き手=松浦秀俊(まつうら・ひでとし)〉

プロフィール 高江洲先生
高江洲 義和
琉球大学大学院医学研究科 精神病態医学講座 准教授(医学博士)。
研究テーマは「双極性障害」「睡眠障害」。料理が趣味の愛犬家。
目次
双極性障害で睡眠リズムを整えるポイントは社会的同調因子


私は土日にリズムが崩れやすかったのですが、息子ができて変化がありました。
息子が朝起きるので、自分も起きざるを得なくなったんです。
また外に出て公園で遊ばせる必要があるから、自分も日光を浴びるというリズムができ、体調が良くなりました。
外的要因として息子がいたからうまくいったのですが、それがないと難しかったと思います。

睡眠のリズムは自然と乱れるもので、整えるためには要因が必要です。
日中に光を浴びてメラトニン※の分泌を夜間に増やすとか、生物学的な治療法もあります。
※:睡眠・覚醒リズムの調整作用があるホルモン。日中より夜間の分泌量が十数倍に増加する日内変動がある。
参考:「メラトニン」 e-ヘルスネット – 厚生労働省

同時に大事なのが「社会的同調因子」と呼ばれるものです。
「社会」という言葉が付いていることがポイント。
自分のリズムを合わせるペースメーカー的な存在であり、これがあればリズムが自然と整うとされています。
例えば松浦さんのように、自分が周期的な睡眠をとるための家族がいること。
周期的にリズムを取るための仕事をしたり、学校に行ったりする習慣があることが大事です。


もちろん症状が重いと仕事ができず、学校にも通えないと思います。
症状が良くなってきた頃、状況に合わせて「社会のリズムに生活リズムを合わせていく」と、より安定していきます。
仕事ができるくらい良くなったタイミングで、基礎的な生活リズムを確立するのです。
すると、より体調が良くなって、気分の波も安定します。

私も働き出してより健康になっていく、整えやすくなっていく感じがしました。
逆に長期休暇が苦手で、予定を組まないまま休みに入ると、寝て過ごすだけになっていましたね。
結果的に、ひどくうつ症状が表れた状態で休みが明けてしまうことがあって。
なので、社会的同調因子の影響で症状が良くなるという理屈は、かなり納得できました。
双極性障害で睡眠リズムが乱れやすい場合は段階的に整えていく

双極性障害で生活と睡眠のリズムが乱れてしまう方には、年末の診察でこのように言葉をかけます。
「これからクリスマスが来て、お正月が来ます。大晦日はないと思ってください。
大晦日も普段通り10時に寝て、お正月も6時に起きる生活を心がけてくださいね」
1回夜ふかししてしまうと、一気にリズムが乱れて、休み明けに元に戻りにくく体調を崩しやすいためです。
双極性障害の方にとっては大変なことですが、休みの日や自由に過ごしたい日ほど、整えることを意識しなければなりません。

他に「睡眠に関する対処の仕方や心得」はありますか。

リズムが乱れやすい方には、まず「夜に光を浴びない生活をしてください」とお話しします。
夜間に光を浴びると、人間の体内時計がズレてくるためです。
光を浴びてしまうと、あっという間に体内時計がズレて朝起きられず、日中に眠くなって体調も崩れてしまいます。

テレビやスマートフォンのような、光を発するものが多い現代では「夜に光を浴びない」のは難しそうです。
双極性障害の方に納得してもらうために、伝える際に工夫していることはありますか?

どこまでがよくて、どこからがダメなのかが分かるよう具体的に提案していますね。
例えば「テレビはつけていいので、夜9時ぐらいになったら、スマートフォンの電源を切りましょう」「蛍光灯は消しましょう」などです。
顔に近い位置で光を浴びるのがよくないので、スマートフォンやパソコンなどの顔から近い光を避けるようお伝えします。


朝は1時間ぐらいでいいので、少し早めに起き、可能であれば10分程度の外出をおすすめしています。
家の外に出て太陽の光を浴びると、体内時計が整いやすくなりますから。
そこから段階的に起床時間を早めていきます。
最終的に「23時に寝て7時に起きる」というようにリズムを固定し、日曜から土曜まで同じリズムで整うようになれば、症状はかなり安定します。

でも、結構時間がかかりそうですね。

私が診てきた方のなかで、短い方でも3か月、一番時間がかかった方は、リズムを整えるためだけに3年ぐらい必要でした。
家に引きこもっていた方だったんですが、リズムが整った結果、障害者雇用でフルタイム勤務ができる状態になりました。
時間をかけてでもリズムを整えていく意義があると考えています。
双極性障害で良い睡眠をとるために 残業がある場合の工夫

働いている方のなかには、残業が多い方もいらっしゃると思います。
夜遅くまで光を浴びる場合、どのような工夫ができますか。

「できるだけ残業しないでください」と言いたいですが、なかなか難しいですよね。
当事者の方からすれば「やっと仕事ができて、残業もできるぐらいになったのに『残業するな』ってどういうことですか」と。


それでも残業は、できる範囲に設定することが大切です。
例えば「なるべくパソコン作業は夜を避ける」とか。
身体に悪い光は「顔から近い光」と「強い光」で、悪い光トップスリーがスマートフォン・パソコン・蛍光灯です。

そうなんですね。

どうしてもパソコンを使う必要がある場合、蛍光灯を消し真っ暗な状態にして、パソコンにブルーライトカットを入れる。
照度を最も落とした状態にした上で、可能な範囲で作業をするようお伝えします。
「終わってからは速やかに暗くして、寝られる体勢にしましょう」とも。


場合によっては、メラトニンの薬をお出しすることもあります。
どうしても夜に光を避けられない人には、そのように対処して、少し早めに寝やすくしていますね。

私もYouTube動画を撮影した日は、高い照度のライトを浴びてかなり疲れます。
光が原因だったんだと、今回よく分かりました。
インタビューの全容は動画にて!
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。