当事者の意識調査から見えてきた双極性障害の就労継続に影響を与える要因とは

当事者の意識調査から見えてきた双極性障害の就労継続に影響を与える要因とは

公開日:2024.1.12
最終更新日: 2024.3.29

2023年7月21日に仙台国際センターにて開催された、第20回日本うつ病学会総会のランチョンセミナーに編集長・松浦が登壇しました。

本記事では、ランチョンセミナーで発表された双極はたらくラボとの共同研究内容の一部をご紹介します。

(執筆者:株式会社リヴァ 二宮ひとみ)

共同研究の詳細はこちら

学会概要

日時:2023年7月21日(金)12:30~13:30
場所:宮城県 仙台国際センター 展示棟 展示室1-B
題目:ランチョンセミナー2 当事者の視点から考える双極症のリカバリー~当事者の意識調査から見えてきた課題と期待~
座長:加藤忠史
演者:高江洲義和、松浦秀俊
共催:住友ファーマ株式会社 メディカルサイエンス部

はじめに

座長は日本の双極性障害研究第一人者である順天堂大学医学部精神医学講座教授 加藤忠史先生。加藤先生からランチョンセミナーの主旨についての説明と演者の紹介があり、講演がスタートしました。

演者紹介の様子。左から松浦・高江洲先生・加藤先生

まずは双極性障害を治療する立場から、琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座准教授 高江洲義和先生の講演です。

高江洲先生の講演要約「双極性障害当事者の就労支援の調査」

双極性障害による労働生産性の低下はうつ病よりも大きく、双極性障害の就労支援は喫緊の課題と認識されている。しかし、双極性障害は、薬物療法を受けていても再発を繰り返す疾患であるため、当事者にとって就労を継続することは容易ではない。このような背景を踏まえて、双極性障害当事者の就労支援に向けて、2つの研究を実施した。

研究①双極性障害の就労に関連する生活習慣の検討

双極性障害の就労に関連する生活習慣について検討することを目的に質問紙調査を実施。

調査は、双極はたらくラボ協力のもと、就労中もしくは就労を希望している双極性障害患者を対象とした。

質問紙調査に回答した989名のうち、有効回答が得られた939名を解析対象としている。

就労中の双極性障害患者(以下、就労群)569名と調査時点で就労していない双極性障害患者(以下、非就労群)370名を2群に分けて統計学的に比較した結果は次のことが分かった。


これらの結果から、双極性障害患者では食事、運動、睡眠といった基本的生活習慣を安定化することが、就労継続に寄与する可能性が示唆された。

研究②就労中の双極性障害当事者の労働生産性に関連する要因の検討

就労中の双極性障害当事者の就労継続と労働生産性に関連する主観的な要因について検討することを目的とし、質問紙調査を実施した。解析対象としたのは、研究①の対象者のうち、調査時点で就労中の569人である。

重回帰分析の結果、就労継続に関連する因子として確認できたのは、仕事内容への満足度と同僚や上司の理解度であった。セルフモニタリング、セルフケア、収入への満足度、家族の理解度、将来への希望が、就労継続との関連性が認められなかった。

労働生産性と関連する因子として確認できたのは、セルフケア、仕事内容への満足度、将来への希望。セルフモニタリング、収入への満足度、同僚や上司の理解度、家族の理解度は、労働生産性との関連性が認められなかった。

これらの結果から、就労継続には、仕事に満足していることと職場に理解されていることが重要であり、労働生産性にはセルフケアをすること、仕事に満足していること、将来について希望を持っていることが重要であると示唆された。


続いて「双極はたらくラボ」編集長の松浦が、当事者の立場から登壇しました。松浦は、高江洲先生の研究の調査対象者側の立場から、生活習慣における具体的な取り組みを発表しました。

編集長・松浦の講演要約「就労継続している当事者の取り組み紹介」

高江洲先生の研究調査の項目から、「生活習慣の規則化」「セルフモニタリング」「セルフケア(行動/捉え方)」仕事内容への満足度」将来への希望」について、自身の日常的な取り組みを紹介する。

【生活習慣の規則化】

睡眠時間を6~8時間未満に維持し、休日でも平日の就寝起床時刻から1時間以内のズレまでに規則性を保つ。子育てを機に家族で土曜朝にモーニングを食べに行く習慣ができたのも規則化の一助となっている。

【セルフモニタリング】

毎日継続的に記録することが苦手であるため、スマートウォッチで睡眠時間、睡眠の質、活動量、心拍数を自動記録している。自分で記録を取っているのは、寝起きすぐにチェックしている気分指数のみである。データは折に触れて振り返っている。

【セルフケア(行動)】

軽躁の予兆に気付けば行動を抑制し、うつの予兆に気付けば活動量を保つようにし、症状に関わらず困ったときに相談できる人(窓口)を複数確保している。

毎日余力を残して終われるよう、仕事の中での刺激量や、仕事以外の予定量を調整したり、家事を分担しつつ平日夜に1人で過ごす時間を作ったりしている。

自分を休ませるために計画的に有休を取得する「攻めの有休」を実践している。

軽躁時のセルフケアとして、SNSの投稿を1日1回に制限し、欲しいものがあれば買い物リストに記入し1日寝かせて必要性を吟味してから購入するルールを守っている。

【セルフケア(捉え方)】

「調子がいい」と「軽躁状態」の区別は難しいということもあり、あえて区別せず、気分の波に注意を払う。調子が良くても、一寸先はうつだと捉えて、刹那的に生きるのではなく細く長く生きるというライフスタイルにつなげている。

【仕事内容への満足度】

現職のリヴァ入社当初は、あまり興味のない福祉の仕事に満足できることはないと決めてかかっていた。しかし仕事をしていく中で楽しみを見出し、自分の関心のあるIT関係に業務内容を寄せられるようになり、現在のWebメディアの運営に繋がった。時間を掛けて仕事内容への満足度が上がってきたと感じている。

【将来への希望】

刹那的な発想になりやすいが、将来に希望を持つことで長期的な視点になり、短絡的な選択をすることが減ってきた。

講義について執筆者所感 

双極性障害の方の就労継続を考えていく際に、労働生産性の低下が当事者にとっての損失だけではなく、社会としての損失になっていることを心に留めておく必要があると感じました。

また、高江洲先生の研究結果から、双極性障害の方にとって生活習慣を規則的に整えることが重要であることが示唆され、当事者を支援する立場として、また当事者と共に働く立場としても意義深い講演でした。

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