双極性障害の症状によって、良好な対人関係を築くことが難しくなるケースがあります。
そこで治療法として取り入れられるのが「対人関係・社会リズム療法」です。
1回目・2回目の記事に続いて、専門家の生野信弘先生に、具体的なやり方やツールを紹介いただきました。
〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉
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プロフィール 生野信弘(いくの・のぶひろ)
こころの健康クリニック芝大門/精神科・心療内科 院長
過食症の対人関係療法、トラウマ関連疾患の治療、ストレス関連障害のリワークを行っている
目次
対人関係・社会リズム療法を、双極性障害の方が実践する場合のポイントを伺いたいです。
双極性障害の方は対人関係そのものに敏感です。
例えば、 友達に「昨日これ買ったんだよ。すごいでしょ」と言われたら「何も買えていない自分はダメだ」と考えてしまうことがあります。
「買えた・買えない」が「いい・悪い」の評価(ジャッジメント)になってしまうんです。
単に相手が嬉しそうにしているだけなのに、あたかも自分に対する当てつけのように感じてしまう状態ですね。
これは「症状なので仕方がない」のです。
「気分が落ち込んでいるときは、どうしても悪く考えてしまうよね」と、自分の受け止め方を変えてみると、少し楽になるかもしれません。
症状だから仕方ないと捉えて、どう対処していくか考えるんですね。
はい。
気分が落ち込んだままでは、夜寝る前の時間帯にあれこれ考えて寝つきが悪くなり、中途覚醒が起きる可能性もあります。
ただでさえ寝つきが悪いのに、就寝前にSNSで友人の嬉しそうな投稿が目に入ると「あの人と比べて自分はなんでダメなんだろう」と考えて寝られなくなりますね。
これは、代表的な3つの症状として説明できます。
・自分を責める
・人と比べる
・自分はなぜダメなのかと原因を探す
対人関係療法では、3つの根っこにある自責の感情に対して「自分がダメだというのは本当ですか」と問いかけていく。
「症状だから仕方ありませんよ」と言うだけでは納得してもらえないので、1つひとつに焦点を当てて対応するんです。
なるほど。
双極性障害の方は、治療のなかで対人関係療法にどう取り組んでいくのでしょうか。
摂食障害を含まない純粋な双極性障害の患者さんを担当したことはありませんが、仮に行うとしたら、まず病気について知ることから始めます。
対人関係療法では、人生の出来事を図で表す「ライフチャート」がよく使われます。
幼少期から現在までの出来事について「双極性障害という視点」から、どんな出来事だったのか一緒に振り返っていくんです。
双極性障害という視点で見ていく。
そうそう。
病気や症状を知る心理教育をして、今後同じようなことがあったらどう対処できるか考えて、社会リズム療法を実践するわけです。
例えば夜に寝られなくなり、朝に起きられなくなって、夕方から気分が上がっていくパターンがあるとします。
では「夕方から上がったテンションをどうコントロールしていけば良さそうですか」と、社会リズム療法の質問からしていくんです。
そのなかで、対人関係の問題が出てくることもあります。
他者と接触して受けた影響により、気分の振れ幅が通常より大きいときには、対人関係療法を行いますね。
対人関係で生じる問題は、4つの問題領域に分けて考えます。
どういったものでしょうか。
悲哀 ・役割をめぐる不一致・役割の変化・対人関係の欠如です。
「悲哀」は、重要な他者が亡くなってつらい状態です。
「役割をめぐる不一致」は、自分が相手に期待している、もしくは相手が自分に期待している役割が一致しないこと。
ご本人の役割と周囲が求める役割が異なる結果、不和が生じて、双方でバトルになります。
「役割の変化」は、今までは受け身でよかったのに、急にリーダーシップが必要な立場になるなど、求められる役割が変わること。
「対人関係の欠如」は、誰かと接するのがつらくなり、他者との関係を切ってしまうことです。
双極性障害では多くの場合、役割の不一致によるバトルになるか、相手との縁を切るか、いずれかに該当するケースが多いです。
役割をめぐる不一致か、対人関係の欠如になる。
そうやって原因を特定し、面談などで対処法を考えていくんですね。
はい。
一度生じた問題は、似たパターンがくり返されるものです。
「じゃあ今後は、同じことが起きたらこう対処していきましょうか」と、パターンを繋げていくんですね。
一連の流れはどれぐらいかけて取り組むのでしょうか。
うつ病は16回で、過食症は20回と言われていますが、双極性障害は20回では済まないでしょう。
短期集中型ではなく、長期的にフォローしていくことになると思います。
初期の頃は必要な知識を勉強していただくほか、記録を付けたり、コミュニケーションの練習などをしたり、ガッツリと詰めて行う必要がありますね。
最後に、読者の皆さんが取り入れられる対人関係・社会リズム療法のやり方やツールがあれば、教えてください。
社会リズム療法の行動記録票があるので、自由に使ってみてください。
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ツールで出来事と自分の気分、対人関係の強度をモニタリングし、支援者と一緒に対処法を探していくのはいいかもしれません。
もし通院している医療機関に心理師(心理士)がいたら「こういう状態では、どのような対処が必要ですか」と相談してみる。
あるいは「双極はたらくラボ」のようなサポーターに、必要な対応を一緒に考えてもらうのもいいですね。
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。