双極症(双極性障害)で休職後、スムーズに職場へ復帰するためには注意点があります。
当事者が注意するだけでなく、上司や同僚が正しく接することも、復職の成功に不可欠です。
産業医の佐々木規夫先生から、双極症の当事者・周囲の人に向けて、復職を成功させるためのポイントを解説いただきました。
〈聞き手=松浦秀俊(双極はたらくラボ編集長)〉
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プロフィール 佐々木 規夫(ささき・のりお)
産業医科大学 特命講師
2004年に産業医科大学医学部卒業。
東京警察病院を経てHOYA株式会社の専属産業医および健康統括マネジャーとして従事。
その後、医療法人財団厚生協会 大泉病院での精神科勤務を経て、現在は精神科診療と複数の企業の産業医活動を行っている。
目次
休職して体調が安定してきたら、復職の判断はどのタイミングで行えばいいですか。
「割と気分がいい」と思っていたら、翌週にまた調子が悪くなることもあるので、一定期間は様子を見たほうがいいですね。
1か月くらい落ち着いて生活できたら、復職を検討しても問題ないかと。
ただし「安定して1~2週間で戻りたい」と思っても、意外と気分には波があります。
また、仕事は社会と関わっていく必要があるので、家のなかだけで生活していた期間とのギャップを埋めるのが非常に大事です。
例えば、
・朝起きてから外出してみる
・地元の図書館に行ってみる
・リワーク※施設に通ってみる
家に1人でいる状態から、色々な人と関わる活動を増やしていき、体調が安定しているか確認することが大切です。
※リワーク:うつ病や双極症などの精神疾患によって休職して療養期間を経た方が、職場復帰に向かうために行うトレーニングのこと。「retern to work」の略。
主治医の先生とよく相談しながら、通勤の練習として職場の近くまで行ってみるなど、徐々に負荷を上げていく。
各段階をクリアできれば「やれそうだ」という自信が出てきます。
休職中と復職後のギャップが大きいほど、復職後につまずきやすい点も意識しておきましょう。
「えいや!」と勢いで戻るよりも、しっかり準備してギャップを埋める作業を行ったほうが、安定就労につながりますから。
「すぐにでも復帰したい」と相談された場合はどうなさいますか?
まず大事なのが、主治医の先生がOKを出しているかどうか。
さらに実際の状況を確かめるために、家での生活の様子を書いてもらいます。
朝何時に起きて、昼は何をしていたのか。
お友達と交流はあるか、電車に乗って職場の近くに行ってみたか。
全然できていなければ、実践期間を設けて取り組んでもらいます。全部できたタイミングで、改めて復職が可能かどうかを話し合う流れです。
復職前の準備のポイントとして、自分で自分のコンディションをある程度コントロールしていくことがあげられます。
加えて、復職後の環境調整も大事ですから、産業医がしっかり確認するのが、うまくいくコツですね。
これまで担当された双極症の方で、復職後にうまく適応できた方々に共通する点や、復帰後に気をつけたほうがいいポイントはありますか?
せっかく復帰の準備をしても、復帰後に頑張り過ぎると、また調子を崩す可能性があります。
特に双極症の場合は、長く治療していかなければなりません。
復帰後に働き過ぎると、症状が再燃するかもしれませんので、長期的に経過を確認し、業務量を調整することが大切です。
私見ですが、双極症の方は残業も1日1時間程度(月20時間以内)に抑えると、無理のない範囲で働くことができると思います。
私も入社当初は残業せずに1年間様子を見て、無理なくちょっとずつ広げていきました。
双極症の方は真面目な人が多いので「休職で迷惑をかけた」と考えてしまいやすいんですよね。
抱え込み過ぎず「できることはできる」「できないことはできない」と、コミュニケーションできる場を作れるといいかもしれません。
自然体で相手に配慮しながら自己表現できること(アサーティブ)が、非常に大事だと思います。
復職直後は、自分の希望をある程度言える貴重な機会なので「こういう風に働きたい」としっかり伝えてほしいですね。
その通りにならなくても、自分の意思を発信することが大切なので、意識してみてください。
ちゃんと話を聞いてもらえる機会にもなりますね。
後で「こうじゃなかったのに」と言うと、職場は「もっと早く言ってくれればいいのに」と思ってしまいますから。
あと、復職直後は基本的に残業しないでいただきますが、定時で帰ることに後ろめたさを感じる方もいらっしゃいます。
でも「帰る練習」だと思って、仕事をどこかで区切り、線を引く作業をすることがとても大事です。
制限をかけることを習慣化していく。
制限を徐々に解除する際も、自分の働き方についてよく理解しておくといいですね。
「こうすればうまくいく」
「これ以上やると、サインが表れる」
など、自分でよく理解していれば、職場復帰がうまくいく可能性が上がると思います。
残業制限がかかるのは、復職後どれくらいの期間ですか。
企業によって違いますが、早ければ約3か月で解除するところもあるでしょう。
一般的には半年だと思います。もし残業するとしても月10~20時間程度までで様子を見ていく。
長ければ1~2年の会社もあるとは思いますが、どの期間でも、自分の働き方をちゃんと獲得できるようにしたいですね。
症状や疾患のコントロール状況、職場の忙しさによっても改善できるかが変わりますから。
周りがモーレツに働いている職場だからと制限を解除すると、うまくいかなくなるかもしれません。
やはり会社・職場とのコミュニケーションがポイントでしょう。
過重労働を強いられる状況で、復職後にまた体調を崩すのは、元も子もありませんからね。
残業制限中に「この時間内でなら、責任を持って働けます」と、自分で理解した上で、しっかり伝えてほしいです。
それを会社が理解して、受け入れてくれるかにかかっていますからね。
理解してくれない会社であれば、今後5~10年もそこで働いていけるのか考えてもらいたいです。
健康を崩しても会社は責任をとってくれませんよね。
自分の健康は自分で守ることが、とても大事です。
「この会社じゃないかも」と思ったら、環境を変えるという視点も必要ではないでしょうか。
休職していた方が職場に戻ってきた際の、上司や同僚など、周囲の方の関わり方で注意点はありますか?
上司の方には、部下が復職したら、まずはちゃんと話を聞いていただきたいです。
休職明けの方は「頑張ります!」と言うことが多いですが、そのまま受け入れると、無理をさせてしまいかねません。
復職後の3か月~半年ぐらいはご本人の言うことを受け入れるだけでなく、ちゃんとコミュニケーションをとって、無理のない職務設計をしてほしいですね。
特に上司にとって大切なのは、話しかけやすい雰囲気を作ること。話しかけにくい上司って嫌じゃないですか。
嫌ですね。
部下に「今日は機嫌悪いのかな」「今話しかけて大丈夫かな」と考えさせるのは無駄なコストです。
人間なのでいつもニコニコはしていられませんが、意識はしていただけるといいですね。
色々な事情があっても、機嫌良く相手を受け入れて話を聞くと、見えてくるものがあると思います。
同僚は、何か気遣う必要はありますか?
しばらく休んで戻ってきた方は、多少の浦島太郎感があると思います。
半年前にできていたことでも、忘れてしまっているのはよくあることです。パソコンのログインパスワードを忘れてしまうことだってあります。
そこで大切なのが、「また一緒にやっていこう」「何かあったら聞いて」という姿勢です。
「無理しないでね」など、ちょっとした声かけで構いません。
同じ組織に所属する仲間の一員として「一緒に頑張ろう」というメッセージを伝えてみてほしいです。
私も休職明け初日にすごく緊張して「誰に会うんだろう」などと、ずっと考えていました。
声かけがあって、受け入れてもらえることで、気持ちもだいぶ違うと感じます。
戻ったものの、初日にやることが決まっていなかったり、上司がいなかったりすると最悪ですからね。
ちゃんと迎え入れるスタンスで接してほしいと思います。
後ろめたさを感じている方を「そんなことないよ」と受け入れていく。
休職中の方の仕事を請け負って、大変だった方もいらっしゃると思いますが「お互い様」と思って接してもらえればいいなと。
最後に、読者に向けて、メッセージをお願いします。
もし会社に産業医の先生がいらっしゃるなら、先生が来るタイミングで面談を申し出て、どんな方か見ておくといいかもしれません。
産業医の先生が話しやすいなら、いい相談相手になると思いますし、リソースをたくさん作ることにもつながります。
話しにくいなら、距離を置いて付き合っていくのもアリですが、まずは話してみないと分かりません。
精神科医かどうかにかかわらず、産業医は相談役として社内で機能します。
ぜひ頼っていただきたいです。
『ちょっとのコツでうまくいく! 躁うつの波と付き合いながら働く方法』
を2024年9月27日(金)に発売します。
双極症での働き方に悩む方へのヒントが詰まった一冊です。ぜひお手にとってご覧ください。
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。