双極性障害で妊娠・出産した当事者の対談 症状悪化を防ぐポイント

公開日: 2022.11.14
最終更新日: 2024.5.2

双極性障害を抱えながらの「妊娠出産」「仕事復帰」「仕事と育児の両立」をテーマに、当事者2人の対談を実施。

進行役のひなさんと回答者のイブさんは以前「働く工夫#ショート」にも出演いただきました。

事前にまとめていただいた情報もふまえ、対談を3回に分けてお届けします。

第1回は「双極性障害での妊娠出産」についてです。

当事者に聞く、双極性障害と「妊娠出産」「仕事復帰」「仕事と育児の両立」

イブさん プロフィール

・女性:双極性障害Ⅱ型

・夫、子ども2人の4人暮らし

・新卒で金融系のコンサルティング企業に入社。退職後に妊娠・出産・育児を経て現在はコンサルティング企業で調査・提案などの業務に従事

イブさんの「働く工夫#ショート」はこちら

ひなさん プロフィール 

・女性:双極性障害Ⅱ型

・夫、子ども1人の3人暮らし

・大学2年生の時に摂食障害の疑いで通院開始

・新卒で入社した会社を5年目に休職した際、診断書に「双極性障害」と記載されていた

・建設関連企業で設計補助として勤務後、結婚して妊娠・出産。まだ仕事復帰はしていない

ひなさんの「働く工夫#ショート」はこちら

双極性障害での妊娠・出産「不安より役目をもらえる期待」

ひなさん
ひなさん

イブさんは今、お子さんが2人いらっしゃるんですよね。

はい、7歳と4歳です。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

そうですか。
私の子どもは今1歳で、まだ子育てが始まったばかりです。

子育てについては、まだまだ勉強中です。
イブさん、体調はどうでしょうか。今は安定されていますか?

去年の12月ぐらいから、ずっと安定しています。躁転もないですね。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

よかったです!
それでは、双極性障害を抱えながらの「妊娠出産」「仕事復帰」「仕事と育児の両立」について質問していきます。

まず妊娠出産に関してです。
「病気の治療が妊娠より先だった」とうかがいました。

私の場合は妊娠に際して「双極性障害の症状が悪化するリスクがあるのでは」と不安でした。

イブさんは妊娠出産される前に、病気に関する不安はありましたか?

第1子を妊娠した時は、まだ双極性障害Ⅱ型の症状が表れておらず、抑うつ・摂食障害・不安障害を発症していました。

イブさん
イブさん
イブさんの妊娠出産・双極性障害診断までの時系列図解

当時は「早く妊娠して、母親としての役目をもらいたい」という意識が強かったです。

摂食障害で休職するなど、勤めていた会社で何度か挫折を経験していました。

だからこそ、このまま会社で「キャリアアップしよう」「自己実現しよう」っていう意識は薄くて。

それよりは「早く妊娠して子どもを産みたい」と思っていました。今の状態をリセットしたい意識が強かったので、妊娠したかったんですよね。

その焦りも治療・月1回のカウンセリング・漢方の服薬で、徐々に消えていきました

当時は即効性のある薬は処方されず、漢方薬だけ飲んでいたんです。

焦った気持ちがだんだんと薄れていったタイミングで妊娠しました。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

少し落ち着いてきたくらいで、妊娠されたんですね。

そうです。だから第1子出産時、不安よりは、過剰な期待を抱いていたと思います。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

妊娠をすることで状況が変わる」という。

そうですね。「状況が変わるきっかけにしたい」という気持ちでした。

イブさん
イブさん

軽躁に近い状態からうつ病へ「断薬への不安は少なかった」

ひなさん
ひなさん

実際に妊娠や出産を経験した後、メンタルに大きな不調をきたしませんでしたか?

その時は診断を受けていないので分かりませんが、おそらく軽躁状態がずっと続いていたと思います。

待望の妊娠出産ができて、病気にもならずに、やっと私の役割がもらえて。
「これから新しい世界が待っているんだ」と興奮していたと感じます。

だから振り返ってみれば軽躁だったと思うんです。

それから第1子が1歳になるタイミングで、軽躁の反動でうつ病の診断を受けましたね。それが最初の受診でした。

「最初の」は妊娠して仕事を辞めて「双極性障害の判断をしてくださったお医者さん」のところで、初めて受診したという意味です。

受診自体は働いていた時期にも経験していました。

うつ病と診断された時、心理状況は人生最悪だったと思います。

仕事でメンタルに不調をきたして摂食障害になった時よりも、育児で躁の波がぷつんと切れた時の方が荒々しかったです。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

メンタルが上がっている状態ですか?

非常に攻撃的でした。

躁状態だったのかもしれませんが、その時はうつ病と診断を受けたので、うつの薬を飲みました。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

上のお子さんが1歳の頃、一番つらかったということですね。
妊娠中や授乳中も服薬はされていましたか?

第1子の妊娠・授乳中は服薬なしでした。第2子の妊娠中は、抗不安剤を断薬しました。

妊娠4~5週目ぐらいに「抗不安剤を断薬してください」と主治医に助言いただいたんです。

その時点でもかなり薬の量が減っていて、最初に飲み始めた頃の2分の1ぐらいになっていましたね。

すでに量を減らしていたので、断薬に関してはそこまで不安を抱いていなかったです。

妊娠中期頃には普段の服薬状態に戻ったと記憶しています。

イブさん
イブさん

持病がある「ハイリスク妊婦」事前の確認とかかりつけ医で入院許可

産婦人科によっては持病のある人をお断りしているところもあるので、自分はラッキーだったなと思いますね。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

メンタルの病気があると、大きい総合病院や大学病院でないと断られやすい気がします。

「ハイリスク妊婦」になっちゃうんですよね。私の場合、当時は里帰りしていて大丈夫でしたが。

里帰り出産する際、事前に「持病があるんですけど入院できますか」と産婦人科に確認していたんです。

「診断書を見てから判断したい」と言われたので、かかりつけ医の診断書を持っていきました。

初診は地元の精神科で受けました。里帰り中に頼れるかかりつけ医を確保しておくと安心できます。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

そうでしたか。

第2子の時は服薬されていたということですが、妊娠中は躁でメンタルの状態が上がっていたんでしょうか?

おそらく上がっていたと思います。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

第1子の時は服薬されていなかったんですよね?

はい。
結局は服薬に関係なく、第1子と第2子の時はいずれも精神状態は上がっていましたね。

イブさん
イブさん

双極性障害に診断変更「症状を軽くする工夫」

ちなみにひなさんは妊娠中どうでしたか?

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

私は妊娠中に服薬していて、出産後の授乳中もお薬を処方されていましたね。

どちらかというと安定していました。

もともと波があったから、結婚してだんだん波が小さくなってきて、妊娠中も波が小さくて。

病気を自覚する前は波が大きかったのですが、病気を自覚してから波を小さくするように心掛けていたのがよかったのだと思います。

なので、躁もうつ症状もあんまりなかったです。ただ育児疲れみたいな症状は産後に来ましたね。

産後1か月・3か月・5か月など、数か月おきにどっと疲れるタイミングが来るみたいな。

私は第1子の時は服薬しなかったものの、躁状態で睡眠時間がなくて。上りきって爆発したっていうんですかね。

1歳3か月目ぐらいのタイミングで、オーバーワーク状態だったと思います。かなり激しい爆発で。

メンタルクリニックを受診して、抑うつ剤を処方されました。

2週間ぐらいで効いたんですが、この辺りで先生は「うつではなく双極性障害では」と疑っていたみたいです。

抑うつ剤は漢方薬以外に飲んだ初めての薬だったのですが、早く効いた感じがしましたね。

そこから落ち着いてきた時期に、先生が双極性障害と診断を下しました。

イブさん
イブさん
ひなさん
ひなさん

診断後に双極性障害の薬を飲むようになってからは、だんだん落ち着いてきましたか? 

それとも波をくり返しましたか?

波をくり返しましたね。
「双極性障害って何よ」と考えて、1年間は病気についてよく勉強もしました。

「この自分の行動がよくないんだな」という情報を1個ずつ見つけて。

幼稚園の入園式や運動会では「これは上がりやすいイベントだな」と把握した上で参加するようになりましたね。

それまではママ友を作って一緒にディナーへ行ったりもしましたが、全くしなくなりました。

症状を軽くする工夫でだんだん波が落ち着いてきたんです。

イブさん
イブさん

[執筆/野木奈都、校正・校閲/二宮 ひとみ(臨床心理士・公認心理師)、編集/山口恵里佳]

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