
双極性障害で産後の仕事復帰 当事者のエピソードと働く工夫
双極性障害を抱えながらの「妊娠出産」「仕事復帰」「仕事と育児の両立」をテーマに、当事者2人の対談を実施。
進行役のひなさんと回答者のイブさんは以前「働く工夫#ショート」にも出演いただきました。
事前にまとめていただいた情報もふまえ、インタビュー形式で行った対談を3回に分けてお届けします。
第2回は「双極性障害での産後の仕事復帰」についてです。
当事者に聞く、双極性障害と「妊娠出産」「仕事復帰」「仕事と育児の両立」

イブさん プロフィール
・女性:双極性障害Ⅱ型
・夫、子ども2人の4人暮らし
・新卒で金融系のコンサルティング企業に入社。退職後に妊娠・出産・育児を経て現在はコンサルティング企業で調査・提案などの業務に従事
イブさんの「働く工夫#ショート」はこちら

ひなさん プロフィール
・女性:双極性障害Ⅱ型
・夫、子ども1人の3人暮らし
・大学2年生の時に摂食障害の疑いで通院開始
・新卒で入社した会社を5年目に休職した際、診断書に「双極性障害」と記載されていた
・建設関連企業で設計補助として勤務後、結婚して妊娠・出産。まだ仕事復帰はしていない
ひなさんの「働く工夫#ショート」はこちら
目次
双極性障害で子育てしながら
無理なく仕事復帰できた理由

まず産後の仕事復帰についてお聞きしたいです。
仕事復帰は第2子出産直後でした。同業他社の先輩に「働いてみない?」と声を掛けられ、雇ってもらったんです。
子どもが3~4か月ぐらいの時に復職したことになりますが、実際には働いていませんでした。
まず仕事に必要な資格を取得するために、勉強期間に入ったんです。費用は全額会社持ちでした。
本格的に働き始めたのは8月末~9月頃だったと思います。
最初にもらった重めの業務は、海外企業との仕事に必要な英文の契約書を読む仕事でした。
子どもがちょうど1歳の時から現在まで月100時間ぐらいのペースで働くようになりました。



重めの仕事を頼まれたタイミングで、気分が上がったりはしませんでしたか?
上がりましたが、双極性障害だと分かっていたので症状が悪化しないよう気を付けていました。徹夜だけはしませんでしたね。
自分が社会的に何かしらの価値を提供できるのが2~3年ぶりだったので、仕事ができることが嬉しかったです。
ストレスはあまり感じませんでした。
仕事の完成度もそこまで求められなかったんです。
「契約書の和訳がないと案件が進まない」というレベルの仕事ではなくて。
「参考資料として和訳があれば助かる」程度のものでした。
「何が何でも私がやり切らなければいけない」というプレッシャーがなかったのが、しんどくなかった理由の1つです。


プレッシャーがない分、気を張らずに働けたんですね。
会社の方も「未経験だから、そんなに頑張らなくていいよ」という感じで。
もしノルマを出されたら、「私の評価が決まるんだ」と気を張ってしまうので、キツかったと思います。
だから本当にラッキーでしたね。

子どもの就園後はママ友や先生との交流で情報交換

産後1年経った頃がすごくつらかったとうかがいました。
それがお子さんの就園で落ち着いたということだったので、何か工夫したことがあればお聞きしたいです。
第1子の時は服薬したことが大きかったんですよね?
はい。
第1子の、年少になる前にお試し入園ができる「プレ幼稚園」の面接が、2月にありました。
その面接は、私が入社した時とちょっと被っているんですよ。
4月に就園した第1子の社会的な交流デビューと、私の社会人生活のスタートがほぼ同じ時期で。
今まで家だけにいた私も、職場の人と交流が始まった時期でした。
同時期にプレ幼稚園で、ママ友候補みたいな方々と出会い、コミュニティーがどんどんでき上がり始めたんです。
幼稚園の先生も礼儀正しい方が多く、子どもへの接し方を学べて、良い影響を受けました。


育児で悩んでいることはすべて、幼稚園の先生方とお母様たちのふるまいを見習って解消できたんです。
あまり考え込まなくても「すてきだな」と思った行動をすぐ真似すればうまくいきましたね。
すてきな方々を見て「私もこういう人になりたい」と目標ができ、客観的に自分を見られるようになりました。
世界観が広がった結果、悩みすぎることがなくなり、落ち着いてきましたね。


就園によって育児の時間が減っただけでなく、色々な人との交流を通じて育児の参考になる情報を得られたんですね。
双極性障害での子育て中に利用した各種サポート

産後は産後ドゥーラ※やベビーシッターを利用されましたか?
私は利用しようと思ったんですけど、どこも予約が一杯で探すのが大変でした。
育児をサポートしてもらおうと思っても、近所から来てもらえる人の枠は埋まっていることが多くて……。
早めに予約しないと、いざ助けてほしい時に助けてもらえないなと感じました。
※産後ドゥーラ…産前産後の母親のために家事や育児をサポートする専門家
私の場合は、第1子の生後3か月までは、義理の母と実の母が交互に育児をしてくれました。
だから第1子の時は特に何のサポートも受けなかったですね。
第2子の時は、3か月間里帰りしていました。
なので生後3か月以降しか1人で育児をしていません。
でも限界が来たら、たまに訪問してくれる保健師さんに電話していました。


そうだったんですね。

第2子の時は、つわりがひどかったので診断書を書いてもらいました。
「つわりで育児ができません」という診断書を使って、臨時保育のような施設に預けていたんです。長女がちょうど2歳になるタイミングでした。
そこは週2回月15日までしか預けられなかったので、土日は夫が助けてくれました。
市が運営しているファミサポ(ファミリーサポート)は1回しか使わなかったです。
事前面談がちょっと面倒くさかったので。
ママ友同士で会員になっている人は多かったですね。
あと、民間のママサポは登録すると預かり手を探してくれます。
ファミサポより利用までの流れがシンプルだったので、何回か使いました。
もし大変なら、ファミサポやママサポにお友達同士で会員になるのがおすすめです。


そんな方法があるんですね。初めて聞きました。
顔見知りと一緒に使うと安心できるので、内輪で使うのもありですね。

子育て中に躁状態とうつ状態に入りやすいタイミング

ありがとうございます。
では、双極性障害で子育てをしている中で、
躁状態やうつ状態に入ってしまいそうな場面はありましたか?
イベントは躁状態に入りやすいので要注意です。
入学式・運動会・卒園式など、自分が着物を着たりきれいな格好をしたりするとき。
他のお友達がいるときは上がりやすいですね。
対策としては、翌日の食事の献立など予定を考えておくようにしています。
翌日の家事などの自分がすべきタスクを可視化していれば、日常のルーティーンに戻りやすくなるんです。
「明日はこのタスクをしよう」というふうに思考を切り替えることができるので、気分が上がり切らず、コントロールしやすいです。
普段の生活を送る中で上がりそうなときは、1か月に1回主治医に診てもらい、症状を確認することで対策しています。



生活リズムを整えていくことで、落ち着いてくるんですね。
では、うつっぽくなることはありますか?
趣味のピアノを始めてからは、うつ症状はないです。
上がり切らないので、ちょっとやる気が出ないことはたまにありますが。
うつ対策としては、上がりすぎないようにすることと、寝すぎないようにすることです。
早起きの子どもに合わせると同じ時間に起きられます。私の健康管理になるので助かっていますね。

双極性障害での仕事復帰
夫の支え&ストレス対処法

「復職あるある」だと思うのですが、お子さんが風邪を引いて仕事を休まなきゃいけないことはありませんでしたか?
それがなかったんです。
長女はしっかり手洗いをする真面目な子で、ほとんど風邪を引きませんでしたね。
もちろん絶対に仕事を休めない日もありました。
その場合「来週の月曜日にお母さんは仕事だから、金曜日は園を休む」など、スケジュールをコントロールしていましたね。
次女については、なぜか体がすごく強いので、発熱しないんですよ(笑)。


すごいですね。
ちなみに疲れて育児や家事が回らなくなったとき、旦那さんが助けてくれることはありますか?
夫は勝手に助けてくれます。
特に家事は「自分の仕事」だって思ってくれているようです。
夫のサポートは重要ですね。



すごい!
睡眠時間が極端に短くなることはないですか?
寝られないとしても2日くらいですね。そこまで多くはないです。
仕事が大変なときは、会社にメールで進捗を毎日送っています。
進捗を共有して、週1回自分の見解を添えて報告するんです。


自分だけが仕事を抱え込まないよう共有しているんですね。
双極性障害で産後復帰ができなくても色々な選択肢がある

双極性障害を抱えて出産後、働ける方もいらっしゃると思います。
一方で、お薬が合わないなどの理由で、なかなか働けない方もいらっしゃると思うんですよね。
そうですね。働きたい思いがあるのに育児と家事だけになると、しんどいと思います。
私の場合は育児・家事・仕事・趣味が全部あることでうまくいっていますが、1つでも欠けるとメンタルが崩れるかもしれません。
ただ、全部をうまくこなせなくても、家事と育児をやっているということでオールオッケーだと思います。
もちろんキャリアを考えたら、育児制度を利用して元の職場に戻るのが一番理想的です。
でも元の職場に戻りたいという気持ちに固執する必要はないと思いますね。
お母様の中には子どもが年長になるぐらいでパートに出たり、ネイルサロンや書道教室を開業したりする人もいます。
薬剤師の方は普通に復帰しますし。
「どうしても元の職場には戻れない」となったら、別のキャリアを進んでもいいと思うんです。
その後、時間を経て、卒園や入学のタイミングで新しく見えてくるキャリアもあると思います。



自分の体調に合わせて、色々な選択肢を選んでいくことが大切なんですね。
[執筆/野木奈都、校正・校閲/二宮 ひとみ(臨床心理士・公認心理師)、編集/山口恵里佳]
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ライター/編集者/ヨガ講師
1994年生まれ。双極性障害やうつ病の友人との交流を機に、精神疾患に関する勉強と記事執筆を開始。ヨガ講師として人の心身に向き合う活動にも取り組む。